Amatorio sfondo

【アキリーズとガートルードとガルタン】






青天の霹靂、寝耳に水。
まさに、そんなところだ。

「聞いてねェ、俺ァそんなの聞いてねェぞ」
「そりゃ、今初めて言ったんだからな」
「屁理屈言うな!」
「落ち着け、阿呆」

お互いにいい歳なんだしそれなりの立場なんだから、そういう話の一つや二つや三つや四つ、あったって全然不思議じゃないとは思う。
実際、一瞬『あーそう、おめっとさん』で流しそうになった。
しかしものの数秒で、本題をきちんと理解した頭が、暴走した状態でそのままフリーズした。

「なんでお前らが、婚約…」
「政略結婚ってヤツだ。珍しくもないだろう?」
「いや珍しいとかそういうんじゃなくてだな。組み合わせが意外すぎてぶっ飛んだ」

方や皇帝、方やその部下。
現在の地位は兎も角として、お互いの出自を考えれば一応納得はいく。
ステップとカンバーランドを隔てる長城がお飾りになってからそれなりの年月が経つ訳だし、ノーマッド族長一族と末端とはいえ旧カンバーランド王家の人間が結ばれる事そのものはまあ、喜ばしい事なんだろう。

ただ…どうしても、実際に脳内で二人を並べてみると、これが夫婦になるだなんて違和感がありすぎてどうしようもない。
実状はぐうたら皇帝と暴力女じゃねえか。

まあ、コイツも悪いヤツじゃねえし、ガートルードの方だって黙ってれば結構可愛………って、俺は何を考えてんだ。

「何だ、黙って。何か異論でも?」
「いーえー、何もー。びっくりしすぎて言葉が出なかっただけですー」
「そうか、ならいい。…別に俺は、お前がルディの事が好きなら無理に横取りする気は無いんだが?」
「ぶふっ」

噎せた。
何ぬかすんだコイツは。

「違うのか」
「ンな事あってたまるか!」

好きか嫌いかと訊かれれば、そりゃ嫌いじゃない。
嫌いだったらいつまでも一緒にああだこうだやってなんかいられる訳がない。

けど、殴るわ蹴るわ罵るわで散々な目に遭わせてくれるおっそろしい女と、俺はそんなに仲良く見えるか?

…つくづく、見た目はそこそこ可愛いんだけどな。

「嫌よ嫌よもなんとやら、って言うだろう?」
「違わい、ボケ」

結婚するならするでとっととしちまえ。
そうすれば俺のこの苦悩がちったあ理解出来るだろ。
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