Amatorio sfondo

【リチャードとアンドロマケー】






僕が彼女に勝っているものは何だろう。

身長?
…大体同じくらい。

腕力?
…お互いに色々と補正が掛かった状態でどっこいどっこい。

強いて言うなら性差の都合でようやっと僕の方が骨太な程度。
それでも、いつまで経っても彼女に勝てないのは───単純に僕の方が不器用だからと、思う事にしている。

「そんなんだからいつまでも成長しないのよ」

ほら、と手を差し伸べられるのはいつも僕の方。

「これでも、訓練成績は大分上がったんだけどな」
「及第点ってとこね、まだまだ。筋は悪くないんだから精進なさい?」

こうして普通に言葉を交わしてはくれても、彼女の中での僕の存在がさほど大きくない事くらい、知っている。
何故なら彼女は───

「…何?」
「何でもない」
「何でもないならそんな顔してこっち見ないでくれる?サバ折りされたいの?」
「それは勘弁」

彼女に勝てない事そのものが悔しいんじゃない。
彼女に認めてもらえる程の人間でない事が、堪らなくもどかしい。

願わくば。
戦士としては器用でも、人間として不器用な彼女に、単純で純粋な幸せというものを知ってほしいと思う。
自分の想いにすら気付かずに居る彼女を、後押ししてあげられる人間になりたいと思う。

けれどもそこに至る為には、今以上彼女に認めてもらわなければならなくて。

それ以上、なんて大それた事は言えないし、言わない。
そこまでの高望みもしない。
だから僕は、彼女に認めてもらえるまで、何度でも挑む。

「…あともう少しなんだけどなあ」
「何か言った?」
「いや、何でも」
「独り言言える余裕あるなら、もう一回やる?」
「うん、そうする」
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