Shape(ジェラール代)

『…やっぱり、あんまり似合わないよね』

当初、いつもの苦笑い(最もよく見る表情だ)でそう言っていたのを、よく覚えている。






懐かしいなあ、いや本当に。

いい歳こいたおっさんが、短い、同じ言葉を繰り返しながら、ぐずぐず泣いていた。

何が懐かしいのか、その時はまだ知らなかった。
おっさん…もとい、ベアがそれ以上を語らなかったから。

あれから暫く経って、ようやっとその意味を知った。






「これ、本当は、兄さんのものになる筈だったんだよ」



短い間にどたばた色々ありすぎて、あれよあれよと"陛下"に"なってしまった"親友が、ぼそりと言った。
ついさっきまでバルコニーから演説していたから、正装の代わりとして甲冑を纏っている。
それを、視線を落とす事で、示しながら。



「元々は、父上…父さんが、初めて討伐隊の指揮権を持った時にあつらえたものなんだって。だから、作りも相当しっかりしてるし、見栄えもするよね」



胸元には獅子の紋章。
確かに、実にあのひとらしい。



「ベアは、その時の事を知ってるから。この間、言ってたよ。元々父さんに憧れてたけど、これを見てもっと憧れた、って。当時はまだ子供だったろうに、よくそんなに覚えてるよね」

「思い入れもあるし、なにより似合いそうだから…って、兄さんに受け継いで欲しかったみたい。なんなら自分より似合いそうだ、って。親馬鹿だよね」

「でも、兄さんは、それを断ったんだ。当時の父さんよりだいぶ背が高かったから、仕立て直すのも大変だろうって。…でも、それは言い訳。本音は『好みじゃない』って、ばっさり。あんまりすぎて、父さんも笑うしかなかったみたい」

「それなら…って、僕にお鉢が回ってきたんだ。僕の体格なら仕立て直すのも難しくないから。その気持ちはすごく嬉しかったし、感激したんだけど…僕だとどうしても”着られちゃう”よね。中身がこれなんだもの」



中身が伴う前にこんな事になっちゃって、不甲斐ないというかなんというか。
本人はそう言って終えた。
………が。



傍から見て、そうは思えないんだよなあ。
…これを言ったら困り顔が加速するだけなのはわかっているので口にはしない。






ベアがあれだけ大泣きしたのは、『懐かしいものが目の前にある』からだというのも、確かにあるだろう。
…だからって、いい歳こいたおっさんがそれだけで大号泣、というのも、ちょっと考えづらい訳で。

要するに、嘗てのあのひとを彷彿とさせるくらい、似合っているという………の、に。



当の本人は、相変わらず、自己肯定感が低い。
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