San Valentino!(ジェラール代)

【軍部歓談室の場合】






ちょっと前までの私の目論見は、半分くらい的が外れた。

「…なんで、あんた達しか居ない訳?」
「しょーがないじゃん、今暇なのが偶然オレ達なんだもん」

お菓子を喜んでくれるのは女の子、私の行動範囲内で女の子が多いのはこの辺り。
その思考自体は、間違っていた訳じゃない…と、思う。
ただ、タイミングが最悪だった。

女の子、誰も居ないじゃないの。
それどころか野郎すら殆ど居ないってどういう事よ。

ジョン曰く、

「野郎の方はほぼ偶然だけど、女の子達は揃いも揃って出払ってるよ。まあ、今日こんなトコでうだうだしてる訳ないよね」

…とのこと。

何で?と更なる疑問を投げかけたら、えらく大仰に驚かれた。

「えーっ、まさか姐御、知らないでソレ持ってきたわけ!?」
「はあ?」

ソレ、ってコレの事よね。
さっき『ばらまいて来い』って受け取った、中身ぎっしりのお菓子屋さんの袋。

…食べきれないお菓子をお裾分けに来て、何が悪いのよ。

「なぁんだ、オレ達の為に用意してくれた訳じゃないんだ。ちぇ」
「何にがっかりしてるか知らないけど、みんなの為に持ってきたんだから、食べたければ食べていいのよ?あんたの為に用意した訳じゃないけど」
「ちょ、若干悲しいからそこ強調しないで」

放っておくと全部『オレのもの!』とか言って確保しそうなジョンを制しつつ(下手するとご飯よりもお菓子を食べているような男だからしょうがない。何故それで太らないのかは最早オカルトな気さえする。成長期でもあるまいし)、女の子達が『揃いも揃って出払ってる』理由を訊いてみた。
ちょっとの間にあれこれ考えてはみたけれども、訓練だとか召集だとか、そういうのは無かった筈だから、私の頭では『偶にはみんなで仲良くお出掛け?』くらいしか思い浮かばなかった。
が、どうも違うらしい。
…いや、お出掛けと言えばお出掛けかもしれないけども。

今日という日は、『女の子が、好きな人にお菓子を贈る日』…なんだそうだ。
何処かのお菓子屋さんが物売りに託けてそう吹聴しはじめたらしく、ここ数年はちょっとしたブームになっているらしい。
なんでも、昔物語に登場する女の子が手作りのお菓子持参で告白して、見事カップル成立と相成ったのが今日なんだとか。

「ああ、それで…。要するに、みんな彼氏若しくは意中の人のとこに突撃してるのね」
「そ。まあ、『いつもお世話になってます』って友達とかに配ってくれるコも結構居るけどね。因みにオレは顔が広いので、今現在の収穫がコチラ!」
「あんた、それだけあってまだ食べるつもりだった訳?…あ、わかった。どうせあんた、その中に『本命』として貰ったやつなんて1個も無いんでしょう」
「うっ…」
「図星か」

まったく、女の子ってどうしてこういうのが好きなんだろう。
私だって女だけど、知ったからといって『じゃあ』とはならない。
誰かの策略に乗っているようで釈然としないし、何というかこう…きゃぴきゃぴした事は、昔から苦手だし。

まあ、今くらいは、ジョン曰くの『日頃お世話になってます』に近いノリという事にしておいてもいいだろうか(元々は違う子が特定の人間にプレゼント爆弾のような格好で押し付けたものだという事は、棚に上げておくとして)。






※※※






…それだけで済まそうと思った、のに。

ジョンがいきなり私の首根っこ掴まえて、こう耳打ちしてきた。

「今からでも遅くないからさ、アイツ専用に何か用意してやったら?きっと泣いて喜ぶぞ~」

視線の先には『アイツ』…リチャードが、突然ひそひそ話を始めた私達を見て、不思議そうな顔をしていた。
珍しく率先して選んでいた(彼がこういう場面に遭遇した場合、大抵は皆が選び終わって尚残っていたものを手にするので、少々意外だった。だって普段は『お茶?みんなの出涸らしでいいよ?』とか素で言っちゃうような男だから)、少し大きめのチョコクッキーをつまみながら。

…ああ、うん。
確かに、喜んではくれる、と、思う。

だがしかし、納得と示唆への恭順は別物である。

「何かと思えば…余計なお世話よ、このバカ!」
「あ痛ッ!?」



───と、返しつつも、その後私は適当なものを見繕いに出ていたのだった。

嗚呼、馬鹿は私だ…。

当然、実際に『泣いて喜ばれた』のは、報告した訳が無い。
…が、リチャードの方からずるっとばれたので、取り敢えず、殴っておいた。
勿論、ジョンの方を。
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