San Valentino!(ジェラール代)
【傭兵団詰め所の場合】
明日は大雪が降るかも知れない。
…いや、明日と言わず今すぐにでも、降ったっておかしくない。
だって、
「珍しいですね、隊長がチョコ食べてるなんて」
『甘いものは苦手』と言っていたこの人が、よりにもよってチョコレートをつまんでる光景なんて、想像した事も無かった。
別に、嗜好云々なんて関係無く甘いものが食べたくなる時くらいあるだろうけど、それなりに付き合いの長い私が今まで見た事が無かったんだから、少なくとも、何年来と口にしてはいなかった筈で。
兎も角、意外だった。
「ん…ああ」
「どうしたんですか急に。疲れてるんですか」
「いや、別に。押し付…貰ったから、返すに返せんし消費してるだけだ」
まさかこの人が甘いもので顔を綻ばすなんて筈も無く、キャンディー状のそれを2個3個と口にする度、甘すぎるのか、寧ろ眉間に微妙な皺が寄っていく。
そういえば、この人のところには毎年、今くらいの時期唐突に、矢鱈プレゼントが届くのだ。
それも全部、女の子(と、言える歳ではなさそうな人も時々混ざっているけれど)から。
誕生日とかではないらしいけど(といっても誕生日そのものは知らないが)、何なんだろう。
今までそれらを受け取っていた様子は無く、大抵そのままゴミ箱へ直行していたのだけれど(プレゼントを無下にするのもどうかとは思うが、全く見知らぬ人間からのそれを有り難く受け取るのも難しいというものだ。食べ物なら尚更)、今年はどうした事やら。
…思い当たる節が、無いでもない。
この人が、贈り物を『返すに返せん』上に捨てられもしない相手と言えば、彼女しか居ないだろう。
ごく軽いノリでプレゼントする癖に、突っ返す事は笑顔で拒否する妙な雰囲気が目に見えるようだ。
「ああ…そうですか。それはそれは」
他に何とも言えず、曖昧に笑うしか出来なかった。
正直、彼女が羨ましい。
この人に素直に贈り物をして、なおかつ受け取ってもらえるなんて…。
でも、私のこの人への想いも、最早消化済み。
多少のやっかみは抱いても、妬みはしない。
ああ、成長したのかな、私…。
私の微妙な表情をどう思ったのか、
「…食うか?」
包みをひとつくれたので、それは有り難く受け取る事にした。
うん、甘い。
「何なら、残りは全部やる。とてもじゃないが俺ひとりで食えたもんじゃない…此処の酒飲み共が好き好んで食うとも思えんし、いっそどっかでばらまいて来てくれ」
「え?…うわ、」
微笑ましいような苦々しいような微妙な気分も束の間、次に取り出されたものを見て、若干、言葉を失った。
ええと…『アソートパック』とでも言えばいいの?アレは。
お菓子屋さんの袋ぎゅうぎゅうに詰まった、ちょっと可愛い感じの、色とりどりの小袋達。
…何やってるのよ、あの子。
これは確かに、此処だけじゃ消化しきれない気しかしない。
いやそれ以前に…場とこの人に似合わない。とてつもなく。
「(正直、私もあんまり得意じゃないんだけどね、甘いもの…)」
仕方ないので丸ごと受け取る。
本部の歓談室にでも持って行ったら、女の子達は喜んで飛びついてくる気がする。
よし、それでいこう。
そんなこんなを考えつつ、何となく中身を漁っていたら、ひとつだけ、明らかに他とは違うものを見付けた。
何というか、こう…どう見てもお菓子屋さんが作ったやつじゃないもの。
ぶっちゃけた言い方をしてしまえば『しっかりはっきり不格好』なそれ。
「…これは、隊長が食べなきゃいけないやつですよ。此処に置いとくんで、早めに食べちゃって下さいね」
はあ?という怪訝な顔が、どことなく呆れたような、それでいて若干赤らんだようなそれに変わるのを、見てしまった。
───嗚呼、やっぱり今日中に大雪警報かも。
「…下手くそ」
「感想は、味だけにしておいてあげて下さいよ?」
彼女はもっとずっと器用な人間だと思っていたけれど、料理の腕だけは、私の方が上だと確信した瞬間だった。
明日は大雪が降るかも知れない。
…いや、明日と言わず今すぐにでも、降ったっておかしくない。
だって、
「珍しいですね、隊長がチョコ食べてるなんて」
『甘いものは苦手』と言っていたこの人が、よりにもよってチョコレートをつまんでる光景なんて、想像した事も無かった。
別に、嗜好云々なんて関係無く甘いものが食べたくなる時くらいあるだろうけど、それなりに付き合いの長い私が今まで見た事が無かったんだから、少なくとも、何年来と口にしてはいなかった筈で。
兎も角、意外だった。
「ん…ああ」
「どうしたんですか急に。疲れてるんですか」
「いや、別に。押し付…貰ったから、返すに返せんし消費してるだけだ」
まさかこの人が甘いもので顔を綻ばすなんて筈も無く、キャンディー状のそれを2個3個と口にする度、甘すぎるのか、寧ろ眉間に微妙な皺が寄っていく。
そういえば、この人のところには毎年、今くらいの時期唐突に、矢鱈プレゼントが届くのだ。
それも全部、女の子(と、言える歳ではなさそうな人も時々混ざっているけれど)から。
誕生日とかではないらしいけど(といっても誕生日そのものは知らないが)、何なんだろう。
今までそれらを受け取っていた様子は無く、大抵そのままゴミ箱へ直行していたのだけれど(プレゼントを無下にするのもどうかとは思うが、全く見知らぬ人間からのそれを有り難く受け取るのも難しいというものだ。食べ物なら尚更)、今年はどうした事やら。
…思い当たる節が、無いでもない。
この人が、贈り物を『返すに返せん』上に捨てられもしない相手と言えば、彼女しか居ないだろう。
ごく軽いノリでプレゼントする癖に、突っ返す事は笑顔で拒否する妙な雰囲気が目に見えるようだ。
「ああ…そうですか。それはそれは」
他に何とも言えず、曖昧に笑うしか出来なかった。
正直、彼女が羨ましい。
この人に素直に贈り物をして、なおかつ受け取ってもらえるなんて…。
でも、私のこの人への想いも、最早消化済み。
多少のやっかみは抱いても、妬みはしない。
ああ、成長したのかな、私…。
私の微妙な表情をどう思ったのか、
「…食うか?」
包みをひとつくれたので、それは有り難く受け取る事にした。
うん、甘い。
「何なら、残りは全部やる。とてもじゃないが俺ひとりで食えたもんじゃない…此処の酒飲み共が好き好んで食うとも思えんし、いっそどっかでばらまいて来てくれ」
「え?…うわ、」
微笑ましいような苦々しいような微妙な気分も束の間、次に取り出されたものを見て、若干、言葉を失った。
ええと…『アソートパック』とでも言えばいいの?アレは。
お菓子屋さんの袋ぎゅうぎゅうに詰まった、ちょっと可愛い感じの、色とりどりの小袋達。
…何やってるのよ、あの子。
これは確かに、此処だけじゃ消化しきれない気しかしない。
いやそれ以前に…場とこの人に似合わない。とてつもなく。
「(正直、私もあんまり得意じゃないんだけどね、甘いもの…)」
仕方ないので丸ごと受け取る。
本部の歓談室にでも持って行ったら、女の子達は喜んで飛びついてくる気がする。
よし、それでいこう。
そんなこんなを考えつつ、何となく中身を漁っていたら、ひとつだけ、明らかに他とは違うものを見付けた。
何というか、こう…どう見てもお菓子屋さんが作ったやつじゃないもの。
ぶっちゃけた言い方をしてしまえば『しっかりはっきり不格好』なそれ。
「…これは、隊長が食べなきゃいけないやつですよ。此処に置いとくんで、早めに食べちゃって下さいね」
はあ?という怪訝な顔が、どことなく呆れたような、それでいて若干赤らんだようなそれに変わるのを、見てしまった。
───嗚呼、やっぱり今日中に大雪警報かも。
「…下手くそ」
「感想は、味だけにしておいてあげて下さいよ?」
彼女はもっとずっと器用な人間だと思っていたけれど、料理の腕だけは、私の方が上だと確信した瞬間だった。