Il barbiere di "papessa"(アメジスト代)

どうして自分が買い出しなんか。
…いや別に買い出しそのものが嫌な訳じゃないけど。
インクとメモ用紙のまとめ買いなんて、子供でしかも女の自分にはちょっと重すぎる。
筆記用具の寄せ集めは下手な食料品よりも重いんだぞこのやろう。

───そんな風に若干ぷりぷりしながら、アメジストは歩いていた。
珍しく『おつかい』を頼まれたからだ。
大きめのインク瓶が入った紙袋と大量のメモ用紙の綴りを抱えながら、子供特有のちょこまかとした動きではなく、子供でも大人でも関係無く苛々している時にありがちな、大股かつ足音も大きい歩き方で、商店街の人波を縫い、時には(主に気迫で)押し退けて進む。



いつもなら、師匠にこういったおつかいを頼まれるのは兄弟子であるサジタリウスだ。
それにくっついて行ったり、ちょっとした忘れ物程度を揃えに出る事ならあるが、10歳そこそこの女の子に任せるのは心許ないからと、多少年長で男の子故に力もある彼の役目になっている。

今回どうしてアメジストに回ってきたのかと言えば、そのサジタリウスの手が空いていない───もとい、彼に来客があったので、体良く追い出されたというのが真相だろう。
今年で15になるのだから、大方、就職に関する話でもしているに違いない。
本人はこのまま術士になるつもりだったようだが、なかなかに弓の腕が良いので、野放しにしておくのは勿体無いと、猟兵隊から散々、厭という程勧誘されまくっているのは知っている。



「(まったくもう、サジ兄がはっきりしないからいけないのよ。いつまでもぐずぐずしてないですぱっと決めちゃえばいいのに!受けるにしても断るにしても!)」

そうすれば、なんだかんだと理由を付けてまで自分がおつかいに出される事など無かった筈。
…要するに、重いだの何だのというのは言い訳で、アメジストはただ純粋に、サジタリウスを逆恨みして苛ついているだけだった。
元々、少々激しやすい性格なので、ちょっとした事ですぐ不機嫌になる。
『それさえ無ければ歳の割に大人びてしっかりした娘なんだがなあ』と、師匠に何度嘆かれた事か。



それはさておき。

苛々していたので、なんとなく、目に付いた小石を蹴った。
何処に飛ばそうと思った訳でもなく、本当にただなんとなく蹴っただけだ。

…が、つい力が入ったのか、思った以上の飛距離を記録してしまい、人に当たってしまった。
しかも、

「あ痛ッ」

運の悪い事に、とでも言うのか、道行くひとの中でも、見るからに『悪っぽいお兄さん』然とした人物の背中に、直撃。

「…やばっ」

アメジストは後悔した。
こういう場合、その先にどういった展開が待つのか、考えるまでもなく想像可能なテンプレートだ。
もの凄く後悔した。

…が、後悔したからといってどうにかなる訳でもなく。

「誰だよ俺に石投げたヤツ!お前か、ああ?」
「ひぃっ!?ごごごごめんなさいっ!!」

走って逃げてしまえば良かったのかも知れないが、性根が真面目なアメジストは、反射的に謝ってしまった。
これでは今更逃げられない。
必要以上に絡まれる事は目に見えているが、謝り倒して切り抜けるしかない。

「あなたに向かって投げたとかそんなんじゃないんです!ちょっと蹴飛ばしたら思ったより飛んじゃって…えっとだからその、悪気はないんです!」

言い訳もそこそこに、すみませんごめんなさい、を連呼。
自分の倍近く…とは言わないまでも結構な上背のある、しかも喧嘩腰の不良は流石に怖いので、突っ掛かられる度に兎に角謝った。

しかし、数分経ってもちっとも態度の変わらない相手や、飛び火が嫌なのか見て見ぬフリしかしない周囲に段々と焦れ、元から抱えていた苛つきが戻ってきた。
何せ、自他共に認める短気である。
ボルテージはすぐに元のそれを上回り、

「許して欲しかったら、金出せや。ちっとは持ってんだろ?」

の言葉に、ついにキレた。

てめえなんぞにやる金があるか、とか、啖呵と共に火球なり風刃なりぶちかまそうと手を出しかけ───
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