ウエディング・ラプソディー~逆プロポーズの場合~

後日───もとい、余裕で半年以上、もっと言うと1年近く過ぎてる訳だが、ウォーラスとアグネスは、無事結婚した。

………や、訂正。
どうにかこうにか同居に漕ぎ着けた、とでも言った方が正しい、絶対。

案の定テンパってばっかりで役に立たないウォーラスの事は横に置いておくとして、この間に色々あったのは主にアグネスの所為だ。
モテ要素が云々とか、逆プロポーズ騒動がどうたらとか、そういうのもあるっちゃあるが、一番の問題はそこじゃない。
何の躊躇いも無く、一思いに、戸籍を抜いてきた事だ。

まあ、いいとこのお嬢さんとはいえ貴族じゃないんだから、そういう意味では多少融通が利きやすかったであろう事は、オレにだって理解出来る。
…が、だからといってそんな簡単に事が運ぶ訳も無く。
人参や大根じゃあるまいし。

『シーデーがやってる前例に比べたらどうって事ないわよ』とか本人は宣ってるが、シーデーの場合はきょうだい多いから後継ぎ云々が絡む事無かったし、何よりあそこの親、アイツの事とっくに諦めてたろうよ。
だから簡単に貴族名簿から消えられたんだよ。
お前のとこはただでさえ一人っ子で親御さん超必死だったろうが、とか、皆でツッコみまくっても聞かない。
とはいえヤツがそういうところで頑固なのは周知の事実。
本人がそれで満足なら、部外者のオレらがとやかく言い過ぎるのも考え物だ。
だからオレは割とすぐに直接やいやい言うのを止めた。
親御さんは泣いてたが。ガチで。

「最終的に結婚そのものは認めてくれたんだから、ウォーラスの方を婿養子にすれば済んだ話だろうよ」
「どうだか。姉さんの事だから、結婚を言い訳に籍が抜けて万々歳ってトコじゃないの?一挙両得ってヤツで」

引っ越しの手伝いに行ってやった帰り道、サジタリウスがそんな事を言った。
流石は後輩、よくわかってらっしゃる。
前々から虎視眈々と狙ってたのは知ってるつもりだが、何もこのタイミングでせんでも、と思ったりする。

親泣かせ、ってのはもっと抽象的なモンだと思ってた。
リアルに散々泣かせた挙げ句更に追い撃ちかけてんぞ、あの娘。

「もったねー。年金とかほとんど全部パーだろ?今後のお気楽ライフとか考えなかったのかね」
「きっと功績考慮がふたり分入ればお家の方にお釣りが来るよ。まあ、あのふたりが贅沢とか、考えただけで槍が降りそうだけど」

なんだってこう、オレの周りはややこしい結婚しかせんのだ。
アメジストとオライオンについては、随分長い事ああだこうだ言ってた気もするが、戸籍が云々という意味ではあそこが一番楽だった気がする。
代わりになる家系図はあっても正規の籍があった訳じゃないし、養女が嫁に書き換わっただけなんだから。
尤も、どうやらこの先アバロン市民全員が戸籍を持つ制度になっていくらしいので、今後似たような例を見る事は無くなるんだろうが。
アグネスの真似をしたい跳ねっ返りには、少々生きづらい世の中かも知れない。

「大根ならぬ『大婚』するなら今って事ね。流行るかな」
「ぶっ」

…うまい事言ったつもりかサジタリウス貴様。

「ときに、メディア姐さんは結婚しないの?」
「誰がするか。………あ」

オレにはそういう面倒事は関係無いが、そうであろうとなかろうと、結婚する気なんざ更々無い。
つうか野郎に興味が無い。
じゃなきゃこの歳で独り身謳歌してねえっつの。

…が、此処でひとつ気付いた事がある。

子供産んだら生理痛軽くなる、んだっけか。

「サジ、お前女居ねェな?ならオレの男になるか?」
「………は?」

真顔で固まられた。
何だ、イヤだってか。

「冗談だよ」
「その歳でその冗談はきっついって」
「この野郎」
「いだっ」

冗談はさておき、気付いたら周りの連中が皆くっついちまってる状況。
お気楽に連めるのも最早コイツくらいしか残っちゃいない。
それはコイツにとっても同じなようで、

「姐さんの旦那になる気は無いけど、おばさんの暇潰しなら付き合っちゃるよ」

…だそうだ。
マジで女居なかったのかお前。それはそれでおばさん悲しいぞ。






───でもって、肝腎の子供だが。

結局、ヤツらの間に子供は生まれなかった。
こればっかりは授かり物だからしょうがない。
それでも充分幸せそうなのは何よりだが………『子供産みたいとかやっぱ言い訳だったのか』と茶化して、うっかり矢ぶすまになりかける未来を、この時のオレはまだ知らない。










終わっとけ。
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