ウェディングドレス姿の誤解


🌱side


放課後の教室は、やっと解放された空気で少し浮ついて
いた

あちこちで「終わったー!」なんて声が上がって
みんなそれぞれ遊びの予定だとか解放感だとかに浮かれている

私は机に突っ伏したまま
大きく息を吐いた

🌱「やっと終わった……」

この一週間“終わったら、ほのちゃんの家に行く”
それだけを楽しみに頑張ってきた

ほのちゃんが社会人になってから
前よりずっと会える時間が減った

帰りは遅いし
休みだってなかなか合わない

連絡は来る
たわいない話もする

でも

それだけじゃ足りない
会いたい
ちゃんと顔を見て声を聞いて
できれば少しだけ甘やかされたい

……いや
かなり甘やかされたい

🌱「……シュークリーム買ってこ」




駅前のケーキ屋さん
ほのちゃんが好きなやつ

疲れてる時、甘いものを食べると
ちょっとだけ機嫌がよくなるのを知ってる

コーヒーは苦いから飲めないことも

忙しい日は帰ってすぐソファに倒れ込むことも

寝る前に髪をちゃんと乾かさないと次の日ちょっと不機嫌になることも

そういうの

たぶん
誰より知ってる



それにあの日、何の迷いもなく合鍵を私の手に乗せてくれたこともちゃんと覚えてる

🧸「いつでも来てええよ」

あまりにも自然に当たり前みたいに言うから
こっちだけ心臓がうるさくなった

それがどれだけ特別か
たぶんほのちゃんは知らない

嬉しくて
でも少しだけ苦しくて

何度も
その鍵を握りしめた


――幼馴染だから


その言葉で片付けるには、もう苦しすぎるくらいに
好きだった







合鍵で部屋に入る
静かなリビング

ちゃんと片付いた部屋

柔らかい洗剤の匂いと
ほのちゃんの気配

それだけで張っていたものが少しほどける
この鍵を使うたび少しだけ嬉しくなる
私だけが知ってるみたいで勝手に特別な気持ちになってしまう

そんな資格なんてないのに

🌱「……まだ帰ってないか」

少しだけ残念で少しだけ安心する
シュークリームの箱をテーブルに置いて
ソファに腰を下ろした

今日こそちゃんともう少し長く一緒にいたい
そんなことをぼんやり考えて
ふと、視界の端に白いフォトブックが入った

綺麗な装丁

なんとなく、本当に何気なく手を伸ばした
深い意味なんてなかった

ただ

そこにあったからページをめくる
その瞬間、息が止まった

🌱「……っ」

ウェディングドレス姿の
ほのちゃんがいた

真っ白なドレス
繊細なレース
少し照れたみたいに笑う顔

あまりにも綺麗で一瞬知らない人みたいだった
でも、ちゃんと私の知ってるほのちゃんでそのギャップが胸をひどく締めつけた

次のページその次も
ブーケを持って笑う姿
ベールを下ろした横顔
綺麗な背中の後ろ姿
振り向きざまに笑顔のほのちゃん

全部

あまりにも自然であまりにも本物みたいで
いや、たぶん本物なんだ

🌱「……結婚」

喉の奥がひゅっと狭くなる
そんな話一度も聞いていない

でも

考えてみれば何もおかしくない
ほのちゃんは社会人で綺麗で優しくてちゃんと大人で

誰かに選ばれて誰かを選んで結婚するなんて
そんなの当たり前の未来だ

私はまだ高校生、ただの幼馴染

合鍵をもらったからって隣にいられる保証なんてどこにもない
ずっと隣にいられる理由なんて本当はひとつもない

わかっていたはずなのに

🌱「……やだ」

ぽつりと零れた声に自分でいちばん驚いた

やだ
誰かのものにならないで
ずっと私の隣にいてよ

そんなこと言えるわけないのに

視線がテーブルのシュークリームに落ちる
今日これを渡して
“テスト終わったー”って笑って
いつもみたいにだらだらして少しだけ甘えて
そんな普通の日のつもりだった

それなのに

急に普通の幸せがなくなって
自分だけ置いていかれた気がした

🌱「……無理だ」

おめでとうなんて言えるわけがない
今の顔、絶対見られたくない

このままいたらたぶん泣く
急いでバッグを掴んで靴を履いて

逃げるみたいに
部屋を飛び出した




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