嘘つきな春と君の好き

🌱side

朝の駅は、春の始まりの匂いがした
新しいスーツ
大きなキャリーケース
少しだけ不安そうで、それでも前を向こうとする人たち

そんな人の流れの中を、私は息を切らして走っていた

昨日の夜、ふと嫌な予感がした

ほのちゃんは“近くの大学”って言っていた
なのに最近、部屋の片付けが大変だとか、大きい荷物を送ったとか、妙に準備が本格的だった
近いなら、ここまでしなくてもいいはず
ただの思い過ごしならいい
でももし違ったら…
そんな矢先、次の日の朝お母さんから聞いた

母「ほのちゃん今日出発らしいね」

🌱「え、どこに」

母「どこって大学よ、だってほのちゃん…」

お母さんに全て聞いた

その後すぐ家を出て走った
改札を抜けてホームへ上がる
春の朝の少し冷たい風が吹き抜けて、桜の花びらが一枚だけ線路の向こうへ流れていった
そして、すぐに見つけた
キャリーケースの横に立つほのちゃんの背中

🌱「ほのちゃん!」

振り向いたその顔が、一瞬だけ強く揺れた

🧸「ひいちゃん……なんで」

🌱「見送り来た」

笑ってそう言ったものの、私の胸は苦しい

その時だった
ほのちゃんの手元で揺れた切符が目に入る
新幹線
しかも、近くの大学とは到底結びつかない、遠くの街の名前

呼吸が止まった

🌱「……やっぱり」

ほのちゃんの表情が驚いた顔になる

春のホームの喧騒が一瞬だけ遠くなった気がした





🧸side

見られた
いちばん見られたくなかったものを
でも、それ以前にひいちゃんがやっぱりって言ってた

切符を握る指先が、じわっと冷えていく

🧸「……違っ」

違わない
全部、本当だ

遠くの大学行くから
この街を離れる
近くなんて、全部嘘
ひいちゃんにだけは知られたくなかった
最後まで、笑って“またすぐ会えるね”って言いたかったのに

🌱「ほのちゃん、これ……」

ひいちゃんの声が少し震えている
その声を聞いた瞬間、胸の奥で無理やり押さえていた気持ちが一気に苦しくなった

🧸「……ごめん」

その一言しか出てこない
ホームに春の風が吹く
アナウンスが、もうすぐ発車する電車を告げていた
時間がない
だからこそ、ちゃんと嘘を終わらせなきゃいけなかった






🌱side

ごめん、じゃ分からない
なんで
どうして
頭の中にいくつも言葉が浮かぶのに、どれも喉で引っかかる
ただ一つだけ分かったのは、ほのちゃんは私に嘘をついていたということ
それが想像以上に苦しかった

🌱「なんで言ってくれなかったの」

やっと出た声は、思ったより小さかった
ほのちゃんは視線を落としたまま、キャリーケースの持ち手を握る

🧸「言ったら、離れられんくなると思った」

その言葉に、胸が強く締めつけられる

🧸「近くって言えば、ひいちゃんも安心するかなって」

ここでやっと、さっきの優しい嘘の意味が全部繋がる
安心させるための嘘

でもそれは、何も知らないまま笑って送り出させるための嘘でもあった
だからこそ苦しかった

🌱「私は安心なんてしたくなかった」

声が少し強くなる

🌱「嘘つかれて、何も知らないまま見送る方が嫌だよ」

初めて見るくらい弱いほのちゃんの表情
でもその顔を見たら、責めたい気持ちより先に苦しさが溢れた

🌱「私、ほのちゃんが遠く行くの嫌だ」

春の朝のホーム
周りは新しい未来へ向かう人で溢れているのに、二人だけが過去に取り残されたみたいだった





🧸side

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で必死に押さえていたものが崩れた
嫌だ、なんて
そんなのほのだって同じや

🧸「……ほのも嫌やよ」

声が少し震える

🧸「ひいちゃんの近くにおったら、ずっと期待してまうから」

また会える、
また桜並木を歩ける

昨日までみたいに隣にいられる
そんな期待を持ったまま大学に行ったらきっと前を向けない

だから嘘をついてでも離れたかった

🧸「ちゃんと、さよならしたかった」

ホームに電車が滑り込んでくる音が響く
いよいよ本当に時間がなくなる

でも、ひいちゃんの顔を見たらこのまま終われる気がしなかった





🌱side

"さよなら"
その言葉が胸に刺さる

🌱「私は、さよならなんてしたくない」

気づけば、ほのちゃんの手を掴んでいた


離れていく背中を、見送るだけなんて嫌だった

🌱「遠くても、会いに行く」

ほのちゃんの瞳が大きく揺れる

🌱「近くって嘘ついても、離れようとしても、ほのちゃんのこと諦められない」

発車ベルが鳴る

春の風が、ホームに舞い込んだ桜の花びらを揺らした

🌱「だから、勝手にさよならにしないで」


2/7ページ
スキ