夏の続きを君と
🌱side
ほのちゃんがいない夏
夏の音は前よりもうるさくなった気がする
セミの声も遠くの車の音も窓を開ければ全部
胸の奥に直接落ちてくる
なのに、心の中は静かだった
理由は簡単
ほのちゃんがいないから
去年の夏まではこんなふうじゃなかった
放課後になると自然に同じ方向へ歩き出して
コンビニでアイスを買って、なんとなく海の見える場所まで行って、並んで座って、何を話すでもなく時間を過ごした
🧸「ひいちゃん、今日の雲変な形やな」
🌱「ほんとだ」
🧸「なんか犬みたいやん」
🌱「あれは、恐竜じゃない?」
🧸「えぇ〜?」
そんな、どうでもいい会話が夏の一部だった
ほのちゃんは大阪から来た子だった
最初は言葉のリズムが少し違うだけでなんとなく距離を感じていたのに、いつの間にか私の隣にいるのが当たり前になっていた
静かな私とよく笑うほのちゃん
正反対なのになぜか落ち着いた
だからほのちゃんがいなくなるって聞いたとき
現実だってすぐには分からなかった
🧸「ひいちゃん、ほのな、戻らなあかんねん」
夏の終わりの夕方
同じ場所で、ほのちゃんは少し困った顔で言った
🌱「…いつ?」
🧸「もうすぐ」
🌱「…そっか」
それ以上、言えなかった
本当は行かないでって言いたかった
でも、それはほのちゃんを困らせる気がして
🌱「また、会えるよね」
🧸「当たり前やん」
笑ってた
ちゃんと
でも、その笑顔は今思えば少し無理してた
それからほのちゃんはいなくなった
春が来て、桜が散って、気づけばまた夏になっていた
世界はちゃんと進んでるのに私だけ
去年の夏に取り残されてるみたいだった
放課後、ひとりで歩く帰り道
前は二人で歩いた道なのに、今は自分の足音しか聞こえ
ない
コンビニに入ってアイスを買う
二つ買って、一つをほのちゃんに渡す癖がまだ抜けない
🌱「…一つでいいんだ」
レジを出て袋の中のアイスを見る
たったそれだけのことなのに胸の奥がじんとする
スマホを取り出して、連絡先の一番上にあるほのちゃんとのトークを何度も開いて何も打たずに閉じた
――元気?
――今、何してる?
そんな言葉すら送れなかった
もし、ほのちゃんがもう新しい世界で楽しくやっていたら
そこに私の存在は邪魔なんじゃないかって思った
だから何も言えなかった
気がついたらまた、そのまま夏だけが進んでいった
ある日、夕焼けを見にいつもの場所へ行った
一人で座る
波の音だけが変わらずにそこにあった
🌱「…ほのちゃん」
名前を呼んでけど返事はない
分かってるのに呼んでしまう
胸の奥にぽっかり穴があいたみたいだった
ほのちゃんがいた場所は今もちゃんと空いてるのに、もう戻ってこない
その事実が夏の光よりずっと眩しかった
私はほのちゃんのいない夏をちゃんと生きられていなかった
ただ、時間が過ぎるのを待っているだけ
――この夏が終われば
少しは、忘れられるのかな
そんなふうに思いながら私はまた、一人で空を見ていた