百回目のその先

🧸side


——「……何回やっても」
——「ほのちゃんは、絶対にいなくなる」

——「私の前で、何十回も」

教室の扉の向こうで
ほのは、息をすることすら忘れていた
忘れ物を取りに戻っただけだった

ほんの少し、スマホを机に置きっぱなしにしたことを思い出して

それだけだったのに聞こえてしまった
ひいちゃんの声

震えていて、泣いていて
知らない声だった

🧸「……っ」

足が動かない

逃げた方がいいって頭では分かってる
でも、聞きたくなかったはずなのに
耳が勝手にその言葉を拾ってしまう

——「また好きになるんだよ」

——「好きだから」

胸が痛かった
嬉しいとかそんな単純なものじゃない
苦しくて、どうしてそんな顔をしてたのか

どうしてずっと泣きそうだったのか
その理由が少しずつ、繋がってしまう

🧸「……うそ」

ほの死ぬん?
それよりひいちゃんは何回も何十回も
ほのの死ぬところを見てたなんて
そんな地獄みたいなこと
一人で
ずっと
抱えてたってこと…?

そんなの…そんなの嫌や
もしほのがひいちゃんの立場やったら考えられないほど苦しい

涙が滲む

知らなかった、何も
自分ばっかり“頼ってほしい”なんて言って
ひいちゃんはずっと一人で泣いてたのに

その時

教室の中で椅子が引かれる音がした
慌ててほのは廊下の角へ身を隠す

扉が開く

🐍「……ちゃんと送ってくよ?」

🌱「……子どもじゃない」

🐍「今のひかるは、普通に危なそう」

少しだけ泣いたあとの声
ひいちゃんの声だけでまた胸が締めつけられる

🌱「……ありがと、天ちゃん」

🐍「今さら」

二人の足音が少しずつ遠ざかっていく
完全に静かになってから

ほのはその場にしゃがみ込んだ

🧸「……なんなん、それ」

笑えなかった
泣くしかなかった
ほのが知らないところで
ひいちゃんは、何回もほのを失って
そのたびに、朝に戻って
また、笑ってくれてた

何回繰り返してたん?何回ほのが死ぬとこ見てきたん?

何も知らないほのに
いつも通り、優しくしてくれてた

そんなの…そんなの、ひどい

🧸「……ひいちゃんの、ばか」

ぽろぽろ涙が落ちる
助けてって言ってよ
苦しいって言ってよ
一人で抱えないでよ

ほのはそんなに頼りなかった
そんなことを考えて
でもすぐに違うって分かる

ひいちゃんは優しいから
優しすぎるから
きっとほのに知られたくなかった
こんな苦しみ
背負わせたくなかった
だから

🧸「……なら」

涙を拭いてゆっくり立ち上がる
震える足に、ちゃんと力を入れる

🧸「今度は、ほのが」

守られるだけなんて嫌や
何も知らないふりなんてもっと嫌や

ひいちゃんが何十回も手を伸ばいてくれたなら
今度はほのが、その手を掴みにいく番や




春の夕方

窓の外では、桜が静かに揺れていた
終わらない春の中でほのは決めた

——ひいちゃんを、一人にしない



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