ロ兄術廻戦
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いつも眠そうな目を擦りながら、寝癖のついた髪をガリガリと無造作にかき乱し、草臥れたワイシャツに身を包む平手流星。補助監督や他の術師たちからは「だらしがない」と評されることも多いのだが、本人はまるで意に介さない。だが、そんな流星がある時だけ別人のように変わる瞬間があった。
それは、冥冥と会う時。
その日、七海建人は高専の廊下で流星とすれ違った。彼は普段のヨレヨレのワイシャツ姿ではなく、仕立ての良いダークネイビーのスーツに身を包んでいた。ピシッと決まったジャケットのライン、ほのかに香る高級なコロン、そして寝癖の残る髪が逆に不思議な色気を漂わせている。七海は一瞬、足を止めた。心臓が不規則に跳ね、いつも冷静な自分がどこか当てられたような感覚に襲われた。
「…平手?」
「よう、七海。どうかしたのか」
「ああ…いや、なんでもない」
流星は振り返り、眠そうな目を細めた。その声はいつもと変わらない、だるそうな調子だったが、七海の胸に小さな波紋が広がった。なぜだか分からないが、苛立ちのような、焦燥感のような感情が湧き上がる。後で気が付いたことだが、それは嫉妬だった。
七海は、呪術師として冷静沈着、常に合理的な判断を下す男だ。感情に流されることは滅多になく、恋愛という不確かなものには興味がないと思っていた。だが、流星のあのスーツ姿が頭から離れない。特に、冥冥と一緒にいる時の彼の雰囲気が、七海の心をざわつかせた。
冥冥といえば、呪術界で一目置かれる実力者であり、ビジネスライクで鋭い女性だ。彼女が流星と何らかの関係を持っていると考えるのは自然だった。七海は自分でも驚くほど、その可能性に苛立っていた。
ある日、七海は偶然冥冥と二人きりで話す機会を得た。任務の報告を終えた後、彼女にさりげなく話題を振ってみる。
「そういえば最近、平手とよく一緒にいるようですが、付き合いでもはじめたのですが?」
冥冥は書類を捲る手を止め、ニヤリと笑った。
「おや、君が嫉妬するなんて珍しいね」
「…いえ、ただの好奇心から出た質問です。忘れてください」
七海は表情を変えず、冷静を装った。
冥冥はそんな七海をくすくすと笑いながら、椅子に背を預けた。
「なに、流星とはビジネスの関係だよ。安心してくれていい。彼、普段の見た目はあんなでも、交渉の場では意外と使えるんだ。私のクライアントに好印象を与えるために、スーツを着せて髪を整えてるだけ。色気がある男は、場を有利に進めるための武器になるのさ」
「武器?」
「そう。彼のあの寝癖頭とだらしない雰囲気、逆に独特の魅力があると思わないかい?それに私がちょっと手を加えるだけで、クライアントが腰を抜かすんだ」
冥冥は悪戯っぽくウィンクした。
「それで、私と流星が男女の仲だって?冗談じゃない。あんな面倒くさい男、恋人にしたら手に余る。こちらから願い下げだ」
その言葉に、七海の胸にあった重いものが、ふっと軽くなった。だが同時に、別の感情が芽生えた。流星が他の誰かに武器として使われることへの苛立ち。そして、自分が彼に感じているこの感情が、単なる嫉妬ではないことに気付いてしまった。
七海は決めた。自分の気持ちを伝える。呪術師としての生活は不確実で、いつ命を落としてもおかしくない。そんな中で、初めて芽生えたこの感情を無視するのは、彼らしくなかった。
流星を呼び出したのは、誰もいない高専の事務室だった。夕暮れのオレンジ色の光が、木々の葉を柔らかく照らしている。流星はいつものヨレヨレのワイシャツ姿で現れ、眠そうな目で七海を見上げている。何か言いたげな表情だが、七海の口が開くのを待っているらしい。
七海は一呼吸置き、言葉を選んだ。
「私は君が好きだ。付き合ってほしい」
一瞬、流星の目が見開かれた。寝癖のついた髪を無意識にがりがりとかきむしり、僅かに顔が赤くなる。
「あ?本当に急だな。冗談だろう」
「冗談ではない。真剣だ」
「付き合うってつまりはそういうこと…だよな?」
「そうだ」
流星はしばらく黙り込み、地面を見つめていたが、やがて口元に小さな笑みが浮かんだ。
「…まぁ、おれも嫌いじゃないから」
その言葉が、流星なりの「OK」だと気付くのに、七海は少し時間がかかった。
恋人になってからの流星は、七海の予想を裏切るほどに魅力的だった。普段は眠そうでだらしのない彼だが、七海と二人きりの時は、どこか弱い一面を見せる。照れ隠しにそっぽを向く癖や、ふとした瞬間に見せる無防備な笑顔に、七海は心を奪われた。
「うー、眠い」
流星はソファに寝転がりながら、七海の膝に頭をぽすんと乗せて呟いた。七海が彼の髪を軽く撫でてやると、途端に顔を赤らめて口を尖らせた。
「…やめろよ、くすぐったい」
「流星はかわいいな」
七海がいつになく素直に返すと、流星は鼻を鳴らして目を逸らす。その仕草があまりにも愛らしく、思わず笑みがこぼれた。
しかし、恋人になって変わったのは流星の態度だけではなかった。七海は次いで彼のだらしのない服装が気になり始め、休日に一緒に買い物に出かけた。七海のセンスで選んだシャツやジャケットを着た流星は、まるで別人のように洗練されていた。寝癖は相変わらずだったが、それが逆に彼の魅力を引き立てていた。仕事用のスーツを選び終え、私服の候補を何着か持たせて試着室に押し込んで待っていると、流星がそっとカーテンを開いて七海に確認した。
「七海これ、着方合ってるのか?そんで、このシャツはタックイン?」
「裾はインした方がいい…なかなか似合ってる」
「分かった」
七海は淡々と答えたが、心の中では似合いすぎると叫んでいた。
だが、この変化が新たな問題を引き起こした。七海が選んだ服を着るようになった流星が、補助監督や他の術師たちの注目を集めるようになったのだ。任務の合間に、流星が他の術師と談笑している姿を見かけるたび、七海の胸に再び嫉妬の炎が灯った。
ある日、任務から戻った七海は、補助監督の一人が流星に話しかけているのを目撃した。流星は照れ臭そうに笑いながら答えていたが、七海の心は穏やかではなかった。
その夜、七海はいつになく真剣な顔で切り出した。
「最近他の奴らとやけに親しげだな」
「…なんだ、七海も嫉妬するのか。かわいいとこあるじゃん」
マサヨシは僅かに目を丸くしたが、すぐにニヤリと笑った。
七海は少しむっとしたが、流星はソファに座り直し、七海の手を握った。
「なぁ、七海。他の奴が何言おうが、おれは七海しか見てないぞ」
その言葉に、七海の胸のつかえが取れた。流星の眠そうな目が、いつもより少し真剣で、柔らかく七海を見つめている。七海は小さく息を吐き、流星の髪を優しく撫でた。
「それなら良いんだ」
流星は照れ隠しにそっぽを向いたが、その耳が真っ赤になっているのが七海にはバレバレだった。
二人の関係は、呪術師としての過酷な日常の中で、互いを支える大切なものになった。流星の魅力と、七海の深い愛情は、強い絆を生み出していた。そして、七海は心の中で誓った。どんな嫉妬が湧こうとも、流星を誰にも渡さない、と。
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