ロ兄術廻戦
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私は補助監督として、呪術師の戦いを支える日々を送っている。
高専内の雑務から呪霊討伐の後方支援まで、仕事は多岐に渡るが、基本的には目立たない存在だ。呪術師の華々しい活躍に比べれば、補助監督の役割はそれはそれは地味で、誰かに感謝されることも少ない。それでも、彼らの安全と任務の成功を支えることに、ささやかな誇りを持っているのもまた事実。
今日もまた、いつものように書類整理をしていた。窓の外では陽射しが柔らかく差し込み、校舎の廊下には学生たちの笑い声が響いている。私はデスクに山積みの報告書を前に、ため息をつきながらペンを走らせていた。そこに、ドアが静かにノックされた。
「失礼します」
低い、落ち着いた声。ドアを開けて入ってきたのは七海さんだ。いつものようにスマートな動きで部屋に入ってくる。もう一人、平手さんが続けて入ってきた。平手さんは七海さんとは対照的に、どこか柔らかい雰囲気を持つ呪術師だ。肩幅が広く、がっしりとした体格なのだが、笑顔は穏やかで人懐っこい。呪術界稀に見る真面目で大人な二人は、補助監督の中でも一二を争うほど評価が高い。
「報告書の提出に来ました」
七海さんが手に持ったファイルを差し出してきた。
私は立ち上がり、それを受け取る。
「いつもありがとうございます、七海さん。平手さんも、お疲れ様です」
私は軽く頭を下げ、ファイルをパラパラとめくる。いつもの任務報告だ。呪霊の討伐状況、被害の有無、周辺住民への影響。七海の報告書はいつも完璧で、修正の必要がない。平手さんの分も、丁寧にまとめられている。
「問題がなければ、これで失礼します」
七海さんがそう言って踵を返そうとしたとき、平手さんが声を上げた。
「なあ、七海。せっかく来たんだから、コーヒー飲んでいこうぜ」
平手さんはそう言って、私のデスク横に置かれた簡易コーヒーメーカーを指さす。七海さんは一瞬、眉をひそめたが、すぐに小さく肩をすくめた。
「仕事の邪魔になりますから、もう行きましょう」
「いいじゃん、ちょっとくらい。ね、補助監さんも一緒にどう?」
平手さんが私にウインクする。私は苦笑しながら頭を振った。
「すみません、私のことはお構いなく。まだ書類が山積みでして。そこにカップがありますので、自由に使ってください」
平手さんは「やった!」と子供のようにはしゃぎ、コーヒーメーカーに近づいた。七海さんはそんな彼を一瞥しつつ、諦めたように椅子に腰を下ろす。二人のやり取りを見ていると、微笑ましい。しかし、それ以上の何か――親密さのようなものが、時折彼らの間に漂うことに、私は最近気づき始めていた。
平手さんがコーヒーを淹れ始めると、部屋にコーヒーの香りが広がった。彼は慣れた手つきでカップに注ぎ、七海さんに手渡す。七海さんは無言で受け取り、口をつけた。その間、私は再び書類に目を落としていたが、ふと視線を上げた瞬間、異様な光景が目に入った。
「なんか暑いな、この部屋」
「それは君が暑がりなだけでしょう」
平手さんが、何気なくシャツのボタンを外していた。ネクタイを緩め、シャツの襟元を少し開いた。その瞬間、彼の首筋に、赤紫色の小さな痕がチラリと見えた。キスマークだ。間違いない。私の手が止まり、思わず息を飲んだ。
「どうかしましたか?」
七海さんの声にハッと我に返る。
彼は私をじっと見つめていて、その視線に私は慌てて目を逸らした。
「あ、いえ、なんでもありません! ただ、書類の数字がちょっと気になって…」
「そうですか」
私は適当にごまかし、顔が熱くなるのを感じた。七海さんは疑うような目を向けたが、それ以上追及せず、コーヒーを飲み続けた。
平手さんはそんな私たちのやり取りに気づいていない様子で、コーヒーカップを手に持ったまま、七海さんの隣にドカッと座った。
「俺の淹れたコーヒー美味いだろ」
「淹れるもなにも、ボタン押しただけじゃないですか」
二人の軽快なやり取りが、ぼんやりと聞こえてくる。
私はまだあの痕のことが頭から離れなかった。
キスマーク。平手さんの首に。そんなもの、任務中にできるわけがない。誰かがつけたのだ。誰が? 頭の中で自然と答えが浮かぶ。
七海さん。だって、この二人は――。
私は目の前の二人の関係に、実は薄々感づいていた。
任務の合間に見せるさりげない仕草や、互いを気遣う小さな行動。七海さんが平手さんの肩に手を置く瞬間や、平手さんが七海さんの背中を軽く叩くときの自然さ。命のやり取りをすることが日常茶飯事のこの世界で、彼らが互いに心の支えになっていることは、傍目にも明らかだった。
でも、キスマークなんて……そんなプライベートな痕跡を、こうして偶然見てしまうなんて。私の胸は、なぜかドキドキと高鳴っていた。知ってはいけない秘密を、覗いてしまったような気分だ。
「あれ、もしかして補助監さんも暑い?」
平手さんが無邪気に笑いながら言う。私は慌てて首を振った。
「いえ!私はちょっと、書類に集中してただけで!」
私は必死で取り繕う。七海さんがこちらをチラリと見るが、すぐに視線を外し、カップに口をつけた。その落ち着いた態度は、まるで何も隠す必要がないと言わんばかりだ。
その後も二人はしばらく雑談を続け、コーヒーを飲み終えると立ち上がった。
「俺たちそろそろ行くわ。邪魔してごめんね、補助監さん!」
平手さんが手を振って部屋を出ていく。七海さんも軽く会釈し、その後に続いた。
ドアが閉まり、静寂が戻った。私はデスクに突っ伏し、深いため息をついた。あのキスマークのことが頭から離れない。七海さんと平手さんが交際していることは、なんとなく想像していたけど、まさかこんな形で直接的な証拠を見るとは思わなかった。
それから数日、私はあの場面を思い出すたびに、妙な気持ちになった。二人の関係は、厳しい日常の中で、一体どれほど大切なものなのだろう。七海さんのクールな外見の下に隠された優しさや、平手さんの明るさの裏にある強さが、互いを支え合っているのだと思うと、なんだか心が温かくなった。
ある日、七海さんと平手さんが再び私のデスクを訪れた。いつものように報告書を渡され、雑談を交わす。平手さんはまたコーヒーを淹れようとしていたが、七海さんがそれを静かに制した。すると、平手さんが七海さんの腕を軽く叩き、「ケチ」と笑う。二人の間に流れる空気は、まるで何も変わらない日常のようだった。
でも、私は気づいてしまった。平手さんのシャツの襟元が、今日はきっちりと閉じられていることを。そして、七海さんが私の視線に気づき、ほんの一瞬、口の端に小さく笑みを浮かべたことを。
私は何も言わず、ただ書類に目を落とした。
彼らの秘密は、彼らのものだ。
私はただ、補助監督として、彼らの戦いを支え続けるだけ。
高専内の雑務から呪霊討伐の後方支援まで、仕事は多岐に渡るが、基本的には目立たない存在だ。呪術師の華々しい活躍に比べれば、補助監督の役割はそれはそれは地味で、誰かに感謝されることも少ない。それでも、彼らの安全と任務の成功を支えることに、ささやかな誇りを持っているのもまた事実。
今日もまた、いつものように書類整理をしていた。窓の外では陽射しが柔らかく差し込み、校舎の廊下には学生たちの笑い声が響いている。私はデスクに山積みの報告書を前に、ため息をつきながらペンを走らせていた。そこに、ドアが静かにノックされた。
「失礼します」
低い、落ち着いた声。ドアを開けて入ってきたのは七海さんだ。いつものようにスマートな動きで部屋に入ってくる。もう一人、平手さんが続けて入ってきた。平手さんは七海さんとは対照的に、どこか柔らかい雰囲気を持つ呪術師だ。肩幅が広く、がっしりとした体格なのだが、笑顔は穏やかで人懐っこい。呪術界稀に見る真面目で大人な二人は、補助監督の中でも一二を争うほど評価が高い。
「報告書の提出に来ました」
七海さんが手に持ったファイルを差し出してきた。
私は立ち上がり、それを受け取る。
「いつもありがとうございます、七海さん。平手さんも、お疲れ様です」
私は軽く頭を下げ、ファイルをパラパラとめくる。いつもの任務報告だ。呪霊の討伐状況、被害の有無、周辺住民への影響。七海の報告書はいつも完璧で、修正の必要がない。平手さんの分も、丁寧にまとめられている。
「問題がなければ、これで失礼します」
七海さんがそう言って踵を返そうとしたとき、平手さんが声を上げた。
「なあ、七海。せっかく来たんだから、コーヒー飲んでいこうぜ」
平手さんはそう言って、私のデスク横に置かれた簡易コーヒーメーカーを指さす。七海さんは一瞬、眉をひそめたが、すぐに小さく肩をすくめた。
「仕事の邪魔になりますから、もう行きましょう」
「いいじゃん、ちょっとくらい。ね、補助監さんも一緒にどう?」
平手さんが私にウインクする。私は苦笑しながら頭を振った。
「すみません、私のことはお構いなく。まだ書類が山積みでして。そこにカップがありますので、自由に使ってください」
平手さんは「やった!」と子供のようにはしゃぎ、コーヒーメーカーに近づいた。七海さんはそんな彼を一瞥しつつ、諦めたように椅子に腰を下ろす。二人のやり取りを見ていると、微笑ましい。しかし、それ以上の何か――親密さのようなものが、時折彼らの間に漂うことに、私は最近気づき始めていた。
平手さんがコーヒーを淹れ始めると、部屋にコーヒーの香りが広がった。彼は慣れた手つきでカップに注ぎ、七海さんに手渡す。七海さんは無言で受け取り、口をつけた。その間、私は再び書類に目を落としていたが、ふと視線を上げた瞬間、異様な光景が目に入った。
「なんか暑いな、この部屋」
「それは君が暑がりなだけでしょう」
平手さんが、何気なくシャツのボタンを外していた。ネクタイを緩め、シャツの襟元を少し開いた。その瞬間、彼の首筋に、赤紫色の小さな痕がチラリと見えた。キスマークだ。間違いない。私の手が止まり、思わず息を飲んだ。
「どうかしましたか?」
七海さんの声にハッと我に返る。
彼は私をじっと見つめていて、その視線に私は慌てて目を逸らした。
「あ、いえ、なんでもありません! ただ、書類の数字がちょっと気になって…」
「そうですか」
私は適当にごまかし、顔が熱くなるのを感じた。七海さんは疑うような目を向けたが、それ以上追及せず、コーヒーを飲み続けた。
平手さんはそんな私たちのやり取りに気づいていない様子で、コーヒーカップを手に持ったまま、七海さんの隣にドカッと座った。
「俺の淹れたコーヒー美味いだろ」
「淹れるもなにも、ボタン押しただけじゃないですか」
二人の軽快なやり取りが、ぼんやりと聞こえてくる。
私はまだあの痕のことが頭から離れなかった。
キスマーク。平手さんの首に。そんなもの、任務中にできるわけがない。誰かがつけたのだ。誰が? 頭の中で自然と答えが浮かぶ。
七海さん。だって、この二人は――。
私は目の前の二人の関係に、実は薄々感づいていた。
任務の合間に見せるさりげない仕草や、互いを気遣う小さな行動。七海さんが平手さんの肩に手を置く瞬間や、平手さんが七海さんの背中を軽く叩くときの自然さ。命のやり取りをすることが日常茶飯事のこの世界で、彼らが互いに心の支えになっていることは、傍目にも明らかだった。
でも、キスマークなんて……そんなプライベートな痕跡を、こうして偶然見てしまうなんて。私の胸は、なぜかドキドキと高鳴っていた。知ってはいけない秘密を、覗いてしまったような気分だ。
「あれ、もしかして補助監さんも暑い?」
平手さんが無邪気に笑いながら言う。私は慌てて首を振った。
「いえ!私はちょっと、書類に集中してただけで!」
私は必死で取り繕う。七海さんがこちらをチラリと見るが、すぐに視線を外し、カップに口をつけた。その落ち着いた態度は、まるで何も隠す必要がないと言わんばかりだ。
その後も二人はしばらく雑談を続け、コーヒーを飲み終えると立ち上がった。
「俺たちそろそろ行くわ。邪魔してごめんね、補助監さん!」
平手さんが手を振って部屋を出ていく。七海さんも軽く会釈し、その後に続いた。
ドアが閉まり、静寂が戻った。私はデスクに突っ伏し、深いため息をついた。あのキスマークのことが頭から離れない。七海さんと平手さんが交際していることは、なんとなく想像していたけど、まさかこんな形で直接的な証拠を見るとは思わなかった。
それから数日、私はあの場面を思い出すたびに、妙な気持ちになった。二人の関係は、厳しい日常の中で、一体どれほど大切なものなのだろう。七海さんのクールな外見の下に隠された優しさや、平手さんの明るさの裏にある強さが、互いを支え合っているのだと思うと、なんだか心が温かくなった。
ある日、七海さんと平手さんが再び私のデスクを訪れた。いつものように報告書を渡され、雑談を交わす。平手さんはまたコーヒーを淹れようとしていたが、七海さんがそれを静かに制した。すると、平手さんが七海さんの腕を軽く叩き、「ケチ」と笑う。二人の間に流れる空気は、まるで何も変わらない日常のようだった。
でも、私は気づいてしまった。平手さんのシャツの襟元が、今日はきっちりと閉じられていることを。そして、七海さんが私の視線に気づき、ほんの一瞬、口の端に小さく笑みを浮かべたことを。
私は何も言わず、ただ書類に目を落とした。
彼らの秘密は、彼らのものだ。
私はただ、補助監督として、彼らの戦いを支え続けるだけ。
