ロ兄術廻戦
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七海建人は、ビルの谷間に佇む古びた喫茶店のカウンターで、冷めたコーヒーを前に時計を確認した。約束の時間まであと少し。七海はネクタイを緩める。スーツに染み付いた呪霊の残穢が、かすかに鼻をつく。今日の任務は単純だったが、呪霊の数が多く、処理に時間を要した。疲労が肩に重くのしかかっている。
店の扉が軽やかな音を立てて開き、平手流星が姿を現した。一級呪術師で、七海より年上の男だ。柔らかな笑みを浮かべ、肩に掛けたコートの裾が揺れる。流星の物腰は、この殺伐とした世界にそぐわないほど穏やかだった。
「よう、七海。待たせたか?」
「時間通りです。珍しいですね」
七海の声には皮肉が滲むが、流星は気にした様子もなく笑う。彼は七海の向かいに腰を下ろし、ウェイターに紅茶を注文した。
「任務で少し手こずったよ。七海も今日は忙しかったみたいだな。スーツがいつもよりくたびれてる」
「目ざといですね」
七海は目を細め、流星の視線をかわす。だが、流星の観察力は鋭い。柔らかな口調の裏には、常に相手を読み取る洞察が隠れている。七海はその点に苛立ちを覚えない。むしろ、こういう男だからこそ、彼らはこの関係を続けているのかもしれない。
七海と流星の関係は、言葉で定義するには曖昧すぎた。恋人ではない。友人とも少し違う。任務の合間、互いの部屋を行き来し、身体を重ねる。セフレ――世俗的な言葉で括ればそうなるが、七海はその呼び方に違和感を覚える。流星もまた、そんな言葉でこの関係を縛ろうとはしない。
初めて二人が肌を重ねたのは、一年前の冬。任務で共闘した後、酒の勢いと疲労が重なり、互いの弱さが露わになった夜だった。流星の部屋で、言葉もなく抱き合った。あの夜以来、彼らは明確なルールも感情の吐露もなく、ただ必要に応じて互いを求め合うようになった。
「今夜は俺の部屋でいいか?」
流星が紅茶を一口飲み、さらりと尋ねる。七海は一瞬考えるふりをして、頷いた。
「問題ありません。ただし、風呂は先に借ります」
「はは、相変わらずだな。いいよ、好きにしな」
流星の笑顔には、どこか少年のような無邪気さが混じる。七海はそれを一瞥し、内心で小さくため息をつく。この男の軽やかさが、時折自分を苛立たせる。だが同時に、それが彼を必要とする理由でもあった。
流星の部屋は、東京の外れにあるアパートの一室だ。呪術師としては質素な住まいだが、彼の性格を思えば納得がいく。部屋には本棚と観葉植物が並び、窓辺には月明かりが差し込む。七海は風呂から上がり、借り物のTシャツに袖を通しながらソファに腰を下ろした。
「コーヒー淹れる? それとも、ビールでも開ける?」
キッチンでカップを手に持つ流星が、振り返って尋ねる。七海は首を振った。
「何もいりません。さっさと済ませたいです」
「相変わらずストレートだな、七海」
流星は笑いながら近づき、七海の隣に腰を下ろす。距離が縮まり、彼の体温がわずかに伝わる。流星の手が、七海の肩に軽く触れた。
「疲れてるなら、今日は休んでもいいんだけど」
「余計なお世話です」
七海は冷たく返すが、声に力はない。流星の手が首筋をなぞり、ゆっくりと背中に滑る。その感触に、七海の身体から力が抜ける。彼は目を閉じ、流星の動きに身を任せた。
この瞬間だけは、呪術師としての自分も、社会の歯車としての自分も忘れられる。流星の手は、まるで七海の内側に溜まった重さを解きほぐすように動く。言葉はいらない。ただ、互いの存在がそこにあることだけが重要だった。
夜が深まり、部屋には静寂が戻る。二人はベッドに横になり、シーツの冷たさが肌に触れる。七海は天井を見つめ、隣で穏やかな寝息を立てる流星を意識する。この関係がいつまで続くのか、彼は考えないようにしている。呪術師の人生は短く、いつ終わるかわからない。流星も同じだ。
「七海、起きてるか?」
流星の声が、暗闇の中で響く。七海は目を動かさず、答えた。
「何ですか」
「さっき、任務の話したっけ。今日、ちょっと危なかったんだ。呪霊が予想以上に強くてさ」
「そうですか」
七海の声はそっけないが、流星は気にせず続ける。
「その時、ふと思ったんだ。もし俺が死んだら、七海、ちょっとくらい寂しがってくれるかなって」
「馬鹿らしい。死ぬなら勝手に死んでください」
七海は吐き捨てるが、胸の奥に小さな棘が刺さる。流星は笑い、身体を起こして七海を見下ろした。
「冷たいな。でも、君らしいよ」
彼の目には、いつもの柔らかさに加え、どこか真剣な光が宿っている。七海はそれに耐えきれず、視線を逸らした。
「寝てください。明日の任務に響きます」
「はいはい」
流星は笑いながら再び横になる。だが、その手が七海の腕にそっと触れた。ほんの一瞬の接触だったが、七海はその温もりを無視できなかった。
翌朝、七海はいつものように早朝に部屋を出る。流星はまだ眠っており、七海は彼を起こさず、静かにドアを閉めた。外は冷たい朝霧に包まれ、街はまだ眠っている。
七海はポケットに手を入れ、歩きながら考える。この関係が何なのか、どこへ向かうのか。答えは出ない。だが、今はそれでいいのかもしれない。呪術師として生きる彼らにとって、こんな夜の隙間が、生きる理由のひとつなのかもしれない。
彼は振り返らず、朝の街に消えていった。
店の扉が軽やかな音を立てて開き、平手流星が姿を現した。一級呪術師で、七海より年上の男だ。柔らかな笑みを浮かべ、肩に掛けたコートの裾が揺れる。流星の物腰は、この殺伐とした世界にそぐわないほど穏やかだった。
「よう、七海。待たせたか?」
「時間通りです。珍しいですね」
七海の声には皮肉が滲むが、流星は気にした様子もなく笑う。彼は七海の向かいに腰を下ろし、ウェイターに紅茶を注文した。
「任務で少し手こずったよ。七海も今日は忙しかったみたいだな。スーツがいつもよりくたびれてる」
「目ざといですね」
七海は目を細め、流星の視線をかわす。だが、流星の観察力は鋭い。柔らかな口調の裏には、常に相手を読み取る洞察が隠れている。七海はその点に苛立ちを覚えない。むしろ、こういう男だからこそ、彼らはこの関係を続けているのかもしれない。
七海と流星の関係は、言葉で定義するには曖昧すぎた。恋人ではない。友人とも少し違う。任務の合間、互いの部屋を行き来し、身体を重ねる。セフレ――世俗的な言葉で括ればそうなるが、七海はその呼び方に違和感を覚える。流星もまた、そんな言葉でこの関係を縛ろうとはしない。
初めて二人が肌を重ねたのは、一年前の冬。任務で共闘した後、酒の勢いと疲労が重なり、互いの弱さが露わになった夜だった。流星の部屋で、言葉もなく抱き合った。あの夜以来、彼らは明確なルールも感情の吐露もなく、ただ必要に応じて互いを求め合うようになった。
「今夜は俺の部屋でいいか?」
流星が紅茶を一口飲み、さらりと尋ねる。七海は一瞬考えるふりをして、頷いた。
「問題ありません。ただし、風呂は先に借ります」
「はは、相変わらずだな。いいよ、好きにしな」
流星の笑顔には、どこか少年のような無邪気さが混じる。七海はそれを一瞥し、内心で小さくため息をつく。この男の軽やかさが、時折自分を苛立たせる。だが同時に、それが彼を必要とする理由でもあった。
流星の部屋は、東京の外れにあるアパートの一室だ。呪術師としては質素な住まいだが、彼の性格を思えば納得がいく。部屋には本棚と観葉植物が並び、窓辺には月明かりが差し込む。七海は風呂から上がり、借り物のTシャツに袖を通しながらソファに腰を下ろした。
「コーヒー淹れる? それとも、ビールでも開ける?」
キッチンでカップを手に持つ流星が、振り返って尋ねる。七海は首を振った。
「何もいりません。さっさと済ませたいです」
「相変わらずストレートだな、七海」
流星は笑いながら近づき、七海の隣に腰を下ろす。距離が縮まり、彼の体温がわずかに伝わる。流星の手が、七海の肩に軽く触れた。
「疲れてるなら、今日は休んでもいいんだけど」
「余計なお世話です」
七海は冷たく返すが、声に力はない。流星の手が首筋をなぞり、ゆっくりと背中に滑る。その感触に、七海の身体から力が抜ける。彼は目を閉じ、流星の動きに身を任せた。
この瞬間だけは、呪術師としての自分も、社会の歯車としての自分も忘れられる。流星の手は、まるで七海の内側に溜まった重さを解きほぐすように動く。言葉はいらない。ただ、互いの存在がそこにあることだけが重要だった。
夜が深まり、部屋には静寂が戻る。二人はベッドに横になり、シーツの冷たさが肌に触れる。七海は天井を見つめ、隣で穏やかな寝息を立てる流星を意識する。この関係がいつまで続くのか、彼は考えないようにしている。呪術師の人生は短く、いつ終わるかわからない。流星も同じだ。
「七海、起きてるか?」
流星の声が、暗闇の中で響く。七海は目を動かさず、答えた。
「何ですか」
「さっき、任務の話したっけ。今日、ちょっと危なかったんだ。呪霊が予想以上に強くてさ」
「そうですか」
七海の声はそっけないが、流星は気にせず続ける。
「その時、ふと思ったんだ。もし俺が死んだら、七海、ちょっとくらい寂しがってくれるかなって」
「馬鹿らしい。死ぬなら勝手に死んでください」
七海は吐き捨てるが、胸の奥に小さな棘が刺さる。流星は笑い、身体を起こして七海を見下ろした。
「冷たいな。でも、君らしいよ」
彼の目には、いつもの柔らかさに加え、どこか真剣な光が宿っている。七海はそれに耐えきれず、視線を逸らした。
「寝てください。明日の任務に響きます」
「はいはい」
流星は笑いながら再び横になる。だが、その手が七海の腕にそっと触れた。ほんの一瞬の接触だったが、七海はその温もりを無視できなかった。
翌朝、七海はいつものように早朝に部屋を出る。流星はまだ眠っており、七海は彼を起こさず、静かにドアを閉めた。外は冷たい朝霧に包まれ、街はまだ眠っている。
七海はポケットに手を入れ、歩きながら考える。この関係が何なのか、どこへ向かうのか。答えは出ない。だが、今はそれでいいのかもしれない。呪術師として生きる彼らにとって、こんな夜の隙間が、生きる理由のひとつなのかもしれない。
彼は振り返らず、朝の街に消えていった。
