ロ兄術廻戦
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『ナナミンって、七海建人のことですか?』
車を走らせる補助監督の平手流星は、エンドレス三級祓除案件を終え後部座席でヘトヘトになりながらも中身のない会話を続ける呪術師、虎杖悠仁と釘崎野薔薇に声をかけた。
「え、そう!七海健人サン!平手さん知ってんの?」
ぱあ、と顔を輝かせた虎杖がバックミラー越しに平手にキラキラと親近感を寄せたので、こちらからもニコリと笑いかけた。
『ええ、同級生ですから』
「ナナミンが同級生!?全然そんな風に見えねー!ってことはナナミンが老け顔で平手さんって童顔なんだね」
「ねえ七海さんって、生態が謎じゃない…?」
『生態』
サラッと失礼なことを言う虎杖はこの際放っておくとして、まだ学生の身分である釘崎からまるで未知の生命体のような扱いを受ける同級生に、思わず口の端が緩んだ。
「キングサイズのベッドで寝てそう、バスタブでかそう、胸筋で兎飼ってそう、うーん後は何かしら…普通にお酒強そう…」
『ああ、確かに酒豪です。酔い潰れたところを一回も見たことが無いので』
イメージを列挙する釘崎に一部同調したところで丁度赤信号に捕まったので、後ろを振り向いてみれば虎杖と釘崎はこっくりこっくりと既に眠ってしまっていた。余程疲れていたのだろう。
それから二時間弱かけて高専へ戻ると先程話題に上がっていた人物、七海と一行はすれ違った。
「噂をすれば。ナナミーン!」
「お疲れ様です」
虎杖が元気よく声をかけ小走りで駆け寄る。
七海からは社会人の手本のような斜め45度の会釈が繰り出された。
「ナナミンはこれから任務?」
「いえ、私も先程終えたところですよ。ところで流星」
『へ?』
まさかここで七海から声を掛けられると思っていなかった流星の口からは、気の抜けた返事が半ば空気のように漏れた。
「この前私の家で飲んだ時の忘れ物、今日回収できそうか?」
『…あー、忘れてた。今日建人ん家行く』
「分かった。ではまた後で」
そう言って別れを告げた七海は颯爽と高専を後にした。
その姿を見た虎杖と釘崎は感嘆の声を上げる。
「…ナナミンが敬語使わないところ、俺初めて見たかも」
「私も」
あの社会人の手本のような七海と砕けた口調で話す存在が大層貴重なのか、尊敬の眼差しで見つめてくる虎杖と釘崎の二人。そんな二人を「お疲れのようですから早く就寝なさってください」と寮の前まで送り届けて別れたあと、流星は自席でせっせと今回の任務の顛末を報告書に纏めていた。
大方概要通りの案件だったので、あとは戦況結果の欄を虎杖と釘崎の二人に埋めてもらい期限までに報告すれば一件落着だ。以上の資料をメールへ添付し、両名へ送信した。そこまでやりきった流星は補助監督室で大きく伸びをし、隣席で今日も帰れそうにないと唸る後輩の伊地知に目の疲れが取れると噂の錠剤を差し入れ、帰路に着いた。伊地知を手伝いたいのはやまやまだが、恐らく余分な手を入れない方が彼の気も散らずに終わらせることが出来るだろう。
一旦自宅へ戻り着替えた後、言われた通り七海の家を訪ねると、いたずらとばかりに流星は玄関で「ナナミン」と呼んだ。すると七海は少しムスッとしながら「七海だ」と強めに訂正しながらも、流星を部屋へ招き入れてくれた。
『いやー、最近の子って凄いんだな。面と向かって目上の人を渾名で呼べるなんて』
「そういう世代なんだろう。我々が若かった頃とは違う…五条さんを除いて」
『それはそう。ま、世代と時代を否定してばかりでは進歩もクソもありゃしない。典型的な保守派の意見。でも呪術界そんなんばっかりだから下からはすーぐ頭の硬いオッサンだって言われるし、舐められるしね。はーやだやだ。あ、酒のつまみ買ってきたよ』
流星はガサリと中身の詰まったコンビニの袋を七海の厚い胸に押し付けてコタツに潜り込んだ。
「おい忘れる前に鞄に詰めておけ」
そう言いながら、七海は流星が忘れていった小銭入れを勝手知ったる、流星の鞄にねじ込んだ。
『ありがと、愛してる』
流星はちゅ、と酒とつまみを手にコタツに入ってきた七海の頬に唇を寄せた。すると七海は怪訝な顔を浮かべる。
「…言ったのか?」
『なんの話?』
「学生に我々が付き合っていることを」
『まさか。同級生だよとは言ったけど、付き合ってるとまでは言ってない。五条さんにバレてるなら学生達にもバレてるかと思ってたんだけど、意外にも五条さんの口がかたいみたいでさ。五条さん、俺が内緒にしてくださいって言ったのをちゃんと守ってんのかな…』
「五条さん、流星には甘いところがあるからな」
お互いお疲れ様、と乾杯しビールを一口飲んだところで妙に七海に納得された。
『可愛い後輩だからかねー?』
「自分で言うな」
『この前特級案件で同行したら帰りに焼肉奢ってくれたんだよ』
「ハァ…」
『建人どうした?』
「君がつくづく心配になる。もう少し恋人がいることを自覚した方がいい。それを聞いた私は今、嫉妬で気が狂いそうだ」
『ごめん』
「他の男の話はあまり聞きたくない。が、交友関係や社会人として生活する上で避けられないコミニュケーションというものはあるから…」
『建人、ごめんって。今度五条さんに誘われたら断るからさ』
「すまない」
七海は、恋人には全てを包み隠さず話しておきたい質だった。呪術師を生業としている以上、死とは常に隣り合わせ。だからこそ自分のことをストレートに伝えておきたかったのだ。
『建人って学生の頃よりも感情表現が上手になったよな』
「流星。香水つけてきたのか」
七海が流星に寄りかかり、首元から薄く漂う香りを自身の鼻を近付けて嗅いだ。
『つけてないよ。柔軟剤変えたからかな』
「そうか。ところでそろそろ同居しないか?前から提案はしているが、流星から回答が来る気配が一向にない」
『俺は…』
こわい。こわいのだ。誰かと一緒に住むことが。
自分のペースを、自分が最も心落ち着ける場所で誰かに踏みにじられたくないという思いもある。それは七海以外に限ってのことではあるけれども。どちらかと言うと七海に対しては、七海のペースを流星が崩したりしないかという不安の割合があまりにも大きすぎる。
「私は流星が家に居ると嬉しいし、落ち着く。君が家に居ることの安心感は、何事にも変え難い」
『…俺沢山迷惑かけるかもしれないよ?』
「何を今更。なんなら喜んでその迷惑も被る」
『建人重症すぎないか…?』
「流星に対してだけだ。さあ、イエスか、ノーか。ここで答えて欲しい」
狡い言い方をしたと七海は思った。だがずい、と七海はさらに流星にくっつけば、流星は目を見開き、そして何かを確信したかのように強く首を縦に降った。
『分かった。俺も建人と死ぬまで一緒にいたい』
車を走らせる補助監督の平手流星は、エンドレス三級祓除案件を終え後部座席でヘトヘトになりながらも中身のない会話を続ける呪術師、虎杖悠仁と釘崎野薔薇に声をかけた。
「え、そう!七海健人サン!平手さん知ってんの?」
ぱあ、と顔を輝かせた虎杖がバックミラー越しに平手にキラキラと親近感を寄せたので、こちらからもニコリと笑いかけた。
『ええ、同級生ですから』
「ナナミンが同級生!?全然そんな風に見えねー!ってことはナナミンが老け顔で平手さんって童顔なんだね」
「ねえ七海さんって、生態が謎じゃない…?」
『生態』
サラッと失礼なことを言う虎杖はこの際放っておくとして、まだ学生の身分である釘崎からまるで未知の生命体のような扱いを受ける同級生に、思わず口の端が緩んだ。
「キングサイズのベッドで寝てそう、バスタブでかそう、胸筋で兎飼ってそう、うーん後は何かしら…普通にお酒強そう…」
『ああ、確かに酒豪です。酔い潰れたところを一回も見たことが無いので』
イメージを列挙する釘崎に一部同調したところで丁度赤信号に捕まったので、後ろを振り向いてみれば虎杖と釘崎はこっくりこっくりと既に眠ってしまっていた。余程疲れていたのだろう。
それから二時間弱かけて高専へ戻ると先程話題に上がっていた人物、七海と一行はすれ違った。
「噂をすれば。ナナミーン!」
「お疲れ様です」
虎杖が元気よく声をかけ小走りで駆け寄る。
七海からは社会人の手本のような斜め45度の会釈が繰り出された。
「ナナミンはこれから任務?」
「いえ、私も先程終えたところですよ。ところで流星」
『へ?』
まさかここで七海から声を掛けられると思っていなかった流星の口からは、気の抜けた返事が半ば空気のように漏れた。
「この前私の家で飲んだ時の忘れ物、今日回収できそうか?」
『…あー、忘れてた。今日建人ん家行く』
「分かった。ではまた後で」
そう言って別れを告げた七海は颯爽と高専を後にした。
その姿を見た虎杖と釘崎は感嘆の声を上げる。
「…ナナミンが敬語使わないところ、俺初めて見たかも」
「私も」
あの社会人の手本のような七海と砕けた口調で話す存在が大層貴重なのか、尊敬の眼差しで見つめてくる虎杖と釘崎の二人。そんな二人を「お疲れのようですから早く就寝なさってください」と寮の前まで送り届けて別れたあと、流星は自席でせっせと今回の任務の顛末を報告書に纏めていた。
大方概要通りの案件だったので、あとは戦況結果の欄を虎杖と釘崎の二人に埋めてもらい期限までに報告すれば一件落着だ。以上の資料をメールへ添付し、両名へ送信した。そこまでやりきった流星は補助監督室で大きく伸びをし、隣席で今日も帰れそうにないと唸る後輩の伊地知に目の疲れが取れると噂の錠剤を差し入れ、帰路に着いた。伊地知を手伝いたいのはやまやまだが、恐らく余分な手を入れない方が彼の気も散らずに終わらせることが出来るだろう。
一旦自宅へ戻り着替えた後、言われた通り七海の家を訪ねると、いたずらとばかりに流星は玄関で「ナナミン」と呼んだ。すると七海は少しムスッとしながら「七海だ」と強めに訂正しながらも、流星を部屋へ招き入れてくれた。
『いやー、最近の子って凄いんだな。面と向かって目上の人を渾名で呼べるなんて』
「そういう世代なんだろう。我々が若かった頃とは違う…五条さんを除いて」
『それはそう。ま、世代と時代を否定してばかりでは進歩もクソもありゃしない。典型的な保守派の意見。でも呪術界そんなんばっかりだから下からはすーぐ頭の硬いオッサンだって言われるし、舐められるしね。はーやだやだ。あ、酒のつまみ買ってきたよ』
流星はガサリと中身の詰まったコンビニの袋を七海の厚い胸に押し付けてコタツに潜り込んだ。
「おい忘れる前に鞄に詰めておけ」
そう言いながら、七海は流星が忘れていった小銭入れを勝手知ったる、流星の鞄にねじ込んだ。
『ありがと、愛してる』
流星はちゅ、と酒とつまみを手にコタツに入ってきた七海の頬に唇を寄せた。すると七海は怪訝な顔を浮かべる。
「…言ったのか?」
『なんの話?』
「学生に我々が付き合っていることを」
『まさか。同級生だよとは言ったけど、付き合ってるとまでは言ってない。五条さんにバレてるなら学生達にもバレてるかと思ってたんだけど、意外にも五条さんの口がかたいみたいでさ。五条さん、俺が内緒にしてくださいって言ったのをちゃんと守ってんのかな…』
「五条さん、流星には甘いところがあるからな」
お互いお疲れ様、と乾杯しビールを一口飲んだところで妙に七海に納得された。
『可愛い後輩だからかねー?』
「自分で言うな」
『この前特級案件で同行したら帰りに焼肉奢ってくれたんだよ』
「ハァ…」
『建人どうした?』
「君がつくづく心配になる。もう少し恋人がいることを自覚した方がいい。それを聞いた私は今、嫉妬で気が狂いそうだ」
『ごめん』
「他の男の話はあまり聞きたくない。が、交友関係や社会人として生活する上で避けられないコミニュケーションというものはあるから…」
『建人、ごめんって。今度五条さんに誘われたら断るからさ』
「すまない」
七海は、恋人には全てを包み隠さず話しておきたい質だった。呪術師を生業としている以上、死とは常に隣り合わせ。だからこそ自分のことをストレートに伝えておきたかったのだ。
『建人って学生の頃よりも感情表現が上手になったよな』
「流星。香水つけてきたのか」
七海が流星に寄りかかり、首元から薄く漂う香りを自身の鼻を近付けて嗅いだ。
『つけてないよ。柔軟剤変えたからかな』
「そうか。ところでそろそろ同居しないか?前から提案はしているが、流星から回答が来る気配が一向にない」
『俺は…』
こわい。こわいのだ。誰かと一緒に住むことが。
自分のペースを、自分が最も心落ち着ける場所で誰かに踏みにじられたくないという思いもある。それは七海以外に限ってのことではあるけれども。どちらかと言うと七海に対しては、七海のペースを流星が崩したりしないかという不安の割合があまりにも大きすぎる。
「私は流星が家に居ると嬉しいし、落ち着く。君が家に居ることの安心感は、何事にも変え難い」
『…俺沢山迷惑かけるかもしれないよ?』
「何を今更。なんなら喜んでその迷惑も被る」
『建人重症すぎないか…?』
「流星に対してだけだ。さあ、イエスか、ノーか。ここで答えて欲しい」
狡い言い方をしたと七海は思った。だがずい、と七海はさらに流星にくっつけば、流星は目を見開き、そして何かを確信したかのように強く首を縦に降った。
『分かった。俺も建人と死ぬまで一緒にいたい』
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