イ反面ライダーEX-AID
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なんと形容したらいいのか。
いや形容しがたいとはこのことか。
「結婚してください」
カウンター越しに、目の前で小鉢に舌鼓を打っていた男が突然俺に向かってそう言い放った。
これが青天の霹靂ってやつ?いやでも訳が分からない。
流星は思わず仕込んでいたピクルス瓶の蓋を落としそうになる。
『貴利矢さん?』
ツッコミたいことは山ほどある。が、貴利矢の顔を確認すると至って真面目な顔だったのでこれではまたいつもの冗談、と笑い飛ばせそうもない。
「色々すっ飛ばした自信あるよ。でも流星くんには自分と結婚して欲しくて」
俺は小さな居酒屋の大学生アルバイター。
目の前の彼はなんと大学病院に勤めるお医者さん。
お医者さんの名前は九条貴利矢と言う。家がここの近所らしく、店長が言うには俺がここでバイトを始める前からの常連だそうだ。
いや待てよ。さっきは訳が分からないと思ったが、貴利矢さんがこうなったのはもしかしたら俺が何日か前に発した言葉が原因なのかもしれない。
その日は客の入りも少なかったため、貴利矢からお酒を入れてもらい、料理を作りながらちびちびと飲んでいた。お勘定、と声を上げたお客さんが帰る理由が「可愛い娘が寝る前に帰らないと」だった。それに対し俺は「それは大事ですね」と返してお釣りを握らせた。
休日だけ家にいる人と認識されてしまっては父が、ひいては子もお互い可哀想だと思ったからだ。
「流星くんって将来結婚とか考えてんの?」
娘のためにと帰って行った客を見送る流星に対し、貴利矢は椎茸のバター焼きをつまみながらぽそりと呟いた。
『俺ですかー?ちょっとくらいは結婚したいと思いますが、特に好きな人とかタイプってないので。正直誰でもいいです。あーでも強いて言えば俺のことが好きな人、ですかね』
そんな都合のいい人この世にいないんで結婚なんて一生無理かも、とその時俺は入れてもらった日本酒を一気に煽った。
もしかしたらそれが原因なのかもしれない。
『貴利矢さんそれって俺がこの前言ったことが絡んでたりします…?』
「流星くんの事が好きな奴が流星くんのタイプなんだろ?だとしたら自分だなって、あの時思った」
今日も今日とて客の入りが少ないため、貴利矢さんに酒を入れてもらい二人で飲んでいる。ここで働いて一年と少し、店長からはほぼ店を任されてしまっている。店長は最近新規オープンした別店舗の采配で忙しいらしく、当分こちらには顔を出せそうもない。
『あー、そういう…』
「加えて誰でもいいんだろ?」
『そうですけど…』
言わんとすることは分かった。つまり貴利矢さんは俺のことが好きみたいだ。俺は俺のことが好きな人がタイプ。要するに貴利矢さんは俺のタイプ。だがまだ分からないことがある。
『なんで付き合うを通り越して結婚なんですか?』
「だからすっ飛ばしすぎたんだって。結婚を前提にお付き合いしてほしい。そう言う意味」
貴利矢は獅子唐の天ぷらを指で摘んでは口に放り込み、子気味良い音で咀嚼した。真剣な表情から一点、先程よりも幾分か余裕がありそうだ。
「流星くんも今付き合ってる人が居ないってこの前言ってたし、断る理由もないと思うんだけど、どう?」
かくして、俺の外堀を埋めるかのように論理的かつ冷静に貴利矢さんは俺の恋人となった。
付き合い始めて一週間が経った。
恋人になったからと言って、二人の関係が何か変わったわけではなかった。相変わらず店員と客の間柄だ。連絡先は交換済だが、特に連絡を取りあった訳でもない。一応たまたま顔を出した店長に付き合った事を報告し、根掘り葉掘り聞かれたが「それって本当に付き合っているのか」と疑われる程なにも無かった。
『俺たちって付き合ってる意味あります?』
「あるよ。自分が流星くんのこと好きだから」
確かに。そういえばそうだった。意味はあるのか。
『付き合って何する訳でもないですし』
「何かしたいの?」
『まあ。恋人ですし』
「ん、分かった。じゃあデートしよう」
待ち合わせは流星の最寄り駅で、と貴利矢に言われてあれよあれよと決まった水族館デート。彼女いない歴イコール年齢の流星は、まさか同性と付き合うことになるとは思っていなかった。そしてデートが初めての流星はあまり眠れず朝を迎えることとなる。そのため目覚めは最悪だった。睡眠時間は初デートのドキドキであまり確保出来ていない。コンディションはあまりよろしくないが、そうも言ってられないのでとりあえず着替えて遅刻しないようにと家を出た。
時間どおりにやってきた貴利矢はいつも見る仕事着ではなく、幾分かラフな格好だったので少々若く見えた。そう本人に零すと少し嬉しがった。貴利矢が電子チケットを既に二人分購入していたため、後に続いて入場ゲートをくぐるとふわりと爽やかで高級そうな香りが漂った。
何の匂いだろうと深呼吸をするのと時を同じくして、イルカショーの開催を告げるアナウンスが館内響いた。流星は息を吐き出して呟く。
『イルカショー見に行きません?』
「いいよ、行こう」
ん、と差し出された手。握ればいいのだろうか。
その手を握り返してみればニコリと微笑まれた。
ショーが始まるまでは美味い魚だとかこの時期旬の魚だとか、居酒屋で話すことと同じような話をして時間を潰した。
貴利矢が思っていたよりも流星は幼く、やけに輝いて見えた。イルカショーが始まればイルカへの餌やりの権利を巡って堂々と手を挙げるし、ペンギン館ではガラス越しにペンギンに話し掛けていた。結局餌やりの権利をゲットした流星は、ウキウキで客席からイルカのいるプールまで降りて行き楽しそうに餌やりをしていたし、ペンギン館では飼育員さんに笑われながら記念にとステッカーを貰っていた。若さもあるだろうが、なんだかエネルギッシュでパワフルだ。こういう所があったから自分は流星を好きになったのでは無いかと、貴利矢は大水槽前で数歩先を歩く流星を眺めながら改めて思考する。
ふと流星の足が止まった。何かあったのだろうか。
『貴利矢さん』
「なに、なんかあった?」
『楽しいですか?』
「おう。もちろん」
『なんだかずっと考え事してるみたいなので心配になっちゃいました』
「流星がかわいいなって、色々考えてた」
『貴利矢さんって、そうやって何でも言語化して俺に伝えてくれるので嬉しいです。俺そういうの苦手だから』
「そ?ゆっくり出来るようになれば良いんじゃね」
『それもそうですね』
流星はくるりと廻って笑って見せた。
いや形容しがたいとはこのことか。
「結婚してください」
カウンター越しに、目の前で小鉢に舌鼓を打っていた男が突然俺に向かってそう言い放った。
これが青天の霹靂ってやつ?いやでも訳が分からない。
流星は思わず仕込んでいたピクルス瓶の蓋を落としそうになる。
『貴利矢さん?』
ツッコミたいことは山ほどある。が、貴利矢の顔を確認すると至って真面目な顔だったのでこれではまたいつもの冗談、と笑い飛ばせそうもない。
「色々すっ飛ばした自信あるよ。でも流星くんには自分と結婚して欲しくて」
俺は小さな居酒屋の大学生アルバイター。
目の前の彼はなんと大学病院に勤めるお医者さん。
お医者さんの名前は九条貴利矢と言う。家がここの近所らしく、店長が言うには俺がここでバイトを始める前からの常連だそうだ。
いや待てよ。さっきは訳が分からないと思ったが、貴利矢さんがこうなったのはもしかしたら俺が何日か前に発した言葉が原因なのかもしれない。
その日は客の入りも少なかったため、貴利矢からお酒を入れてもらい、料理を作りながらちびちびと飲んでいた。お勘定、と声を上げたお客さんが帰る理由が「可愛い娘が寝る前に帰らないと」だった。それに対し俺は「それは大事ですね」と返してお釣りを握らせた。
休日だけ家にいる人と認識されてしまっては父が、ひいては子もお互い可哀想だと思ったからだ。
「流星くんって将来結婚とか考えてんの?」
娘のためにと帰って行った客を見送る流星に対し、貴利矢は椎茸のバター焼きをつまみながらぽそりと呟いた。
『俺ですかー?ちょっとくらいは結婚したいと思いますが、特に好きな人とかタイプってないので。正直誰でもいいです。あーでも強いて言えば俺のことが好きな人、ですかね』
そんな都合のいい人この世にいないんで結婚なんて一生無理かも、とその時俺は入れてもらった日本酒を一気に煽った。
もしかしたらそれが原因なのかもしれない。
『貴利矢さんそれって俺がこの前言ったことが絡んでたりします…?』
「流星くんの事が好きな奴が流星くんのタイプなんだろ?だとしたら自分だなって、あの時思った」
今日も今日とて客の入りが少ないため、貴利矢さんに酒を入れてもらい二人で飲んでいる。ここで働いて一年と少し、店長からはほぼ店を任されてしまっている。店長は最近新規オープンした別店舗の采配で忙しいらしく、当分こちらには顔を出せそうもない。
『あー、そういう…』
「加えて誰でもいいんだろ?」
『そうですけど…』
言わんとすることは分かった。つまり貴利矢さんは俺のことが好きみたいだ。俺は俺のことが好きな人がタイプ。要するに貴利矢さんは俺のタイプ。だがまだ分からないことがある。
『なんで付き合うを通り越して結婚なんですか?』
「だからすっ飛ばしすぎたんだって。結婚を前提にお付き合いしてほしい。そう言う意味」
貴利矢は獅子唐の天ぷらを指で摘んでは口に放り込み、子気味良い音で咀嚼した。真剣な表情から一点、先程よりも幾分か余裕がありそうだ。
「流星くんも今付き合ってる人が居ないってこの前言ってたし、断る理由もないと思うんだけど、どう?」
かくして、俺の外堀を埋めるかのように論理的かつ冷静に貴利矢さんは俺の恋人となった。
付き合い始めて一週間が経った。
恋人になったからと言って、二人の関係が何か変わったわけではなかった。相変わらず店員と客の間柄だ。連絡先は交換済だが、特に連絡を取りあった訳でもない。一応たまたま顔を出した店長に付き合った事を報告し、根掘り葉掘り聞かれたが「それって本当に付き合っているのか」と疑われる程なにも無かった。
『俺たちって付き合ってる意味あります?』
「あるよ。自分が流星くんのこと好きだから」
確かに。そういえばそうだった。意味はあるのか。
『付き合って何する訳でもないですし』
「何かしたいの?」
『まあ。恋人ですし』
「ん、分かった。じゃあデートしよう」
待ち合わせは流星の最寄り駅で、と貴利矢に言われてあれよあれよと決まった水族館デート。彼女いない歴イコール年齢の流星は、まさか同性と付き合うことになるとは思っていなかった。そしてデートが初めての流星はあまり眠れず朝を迎えることとなる。そのため目覚めは最悪だった。睡眠時間は初デートのドキドキであまり確保出来ていない。コンディションはあまりよろしくないが、そうも言ってられないのでとりあえず着替えて遅刻しないようにと家を出た。
時間どおりにやってきた貴利矢はいつも見る仕事着ではなく、幾分かラフな格好だったので少々若く見えた。そう本人に零すと少し嬉しがった。貴利矢が電子チケットを既に二人分購入していたため、後に続いて入場ゲートをくぐるとふわりと爽やかで高級そうな香りが漂った。
何の匂いだろうと深呼吸をするのと時を同じくして、イルカショーの開催を告げるアナウンスが館内響いた。流星は息を吐き出して呟く。
『イルカショー見に行きません?』
「いいよ、行こう」
ん、と差し出された手。握ればいいのだろうか。
その手を握り返してみればニコリと微笑まれた。
ショーが始まるまでは美味い魚だとかこの時期旬の魚だとか、居酒屋で話すことと同じような話をして時間を潰した。
貴利矢が思っていたよりも流星は幼く、やけに輝いて見えた。イルカショーが始まればイルカへの餌やりの権利を巡って堂々と手を挙げるし、ペンギン館ではガラス越しにペンギンに話し掛けていた。結局餌やりの権利をゲットした流星は、ウキウキで客席からイルカのいるプールまで降りて行き楽しそうに餌やりをしていたし、ペンギン館では飼育員さんに笑われながら記念にとステッカーを貰っていた。若さもあるだろうが、なんだかエネルギッシュでパワフルだ。こういう所があったから自分は流星を好きになったのでは無いかと、貴利矢は大水槽前で数歩先を歩く流星を眺めながら改めて思考する。
ふと流星の足が止まった。何かあったのだろうか。
『貴利矢さん』
「なに、なんかあった?」
『楽しいですか?』
「おう。もちろん」
『なんだかずっと考え事してるみたいなので心配になっちゃいました』
「流星がかわいいなって、色々考えてた」
『貴利矢さんって、そうやって何でも言語化して俺に伝えてくれるので嬉しいです。俺そういうの苦手だから』
「そ?ゆっくり出来るようになれば良いんじゃね」
『それもそうですね』
流星はくるりと廻って笑って見せた。