イ反面ライダーEX-AID
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『よォ貴利矢』
「流星、さん…?」
ふわりと漂う香水の香り。
果たして目の前にいる男は本当に本人なのか。
見間違い、よく似た他人の空似、或いはドッペルゲンガーではないのだろうか。
その日九条貴利矢は検体報告を決裁に回し、院内回覧にハンコを押し、他にやり残したことはないかと考えを巡らせた後、のそのそと帰り支度をしていた。
裏口の警備員へ施錠記録簿を引き渡すと後は自由だ。明日は久々に何も無い休日。ここ数ヶ月は永夢などから遊びの誘いが入ったりして何かと予定のある休日を過ごしていたため、一人で過ごす休日といのは本当に久方ぶりである。
上機嫌でスーパーへ向かい、割引シールの貼られたメンチカツや枝豆などのつまみを買い込み、酒を選んでいる時に彼は突然現れた。
『よォ貴利矢』
「流星、さん…?」
『なんだァ、幽霊でも見るような顔して』
「いやだって…」
だってついこの間なんの前触れもなく姿を消した人間が目の前に立っているのだ。驚かずにいられるものか。
流星というのはよく行く飲み屋の常連客だ。
年齢は貴利矢の恐らく5つほど上。
ひょんな事から親しくなり、休日には都合を合わせて別の飲み屋へ飲みに行ったりするような仲になった。それがある日突然、ぱったりと行きつけの居酒屋に来なくなったのである。「また明日、居酒屋でな」と前日競馬場でビールを片手に別れたはずなのに。
『ちょっくらしょっぴかれててさ。やっと出てこれたんだよ』
流星は缶ビールを手に取り、見比べている。
「えっ」
流星さんって、犯罪者だったの?
貴利矢の心の中でどっと目の前の男に対して不信感が高まった。今まで犯罪臭漂うような素振りは流星に無かった。否、だがしかし。初めて居酒屋で会った時はしわくちゃによれた作業着にサンダル、加えて体格の良い筋肉質な身体に無精髭という出で立ちであったため、パッと見は失礼だが犯罪者…に見えなくもなかったかもしれない。初対面のあの日は「仕事で連日穴掘ってクタクタだよ」と渋く笑ったからあの格好でも許せたけれど。
『ま、詳しいことはまた今度』
結局選んでいた缶ビールを全て買い物カゴに放り込んだ流星はじゃあ、と言って立ち去ろうとしている。貴利矢は思わず流星の腕を掴んだ。
「じゃあ…出所祝い?しません?話聞きたいですし」
『いいよ。どこで?』
「自分の家、とか…明日自分休みなんで流星さんさえ悪くなければ今日、とか…」
『急すぎんだろ。いいよ。俺も丁度今日空いてんだ』
犯罪者?に対してなんて事を言ってしまったのだと急に我に返り青ざめた貴利矢に対して流星は渋く笑った。その顔を久しぶりに見て、ツキ、と貴利矢の心は小さく音を立てた。そしてほんの少し冷静さを取り戻した。
「…あ、でもやっぱ自分のアパートで騒ぐと大家が五月蝿いんで場所変えてもいいですか?」
適当にスーパーで買い込んだ二人は飲み食いする場所を探すため、駅前に向かった。だが週末という事も相まって、カラオケは学生利用の予約で埋まっており、ビジネスホテルも全滅。そうして二人が辿り着いたのはまだギリギリ明るいこの時間帯には利用者の少ないラブホテルだった。
『男二人で入るとか経験したことねぇー…』
「じ、自分も…」
貴利矢は食い物を買い込むより普通に居酒屋に入れば良かったと後悔、そして緊張しながらも一番安くて質素な部屋を選んだ。流星は貴利矢の後を着いて歩き、選んだ部屋に入室した。入室するなり流星は広いベッドにダイブし、すぐさまうつ伏せになって呟いた。
『貴利矢ってラブホ使う派?俺家派』
「…家派」
へぇ、と流星は自分から振った癖に興味無さげだ。
何だこの会話。だが今ふと思い返せば行きつけの居酒屋では下世話な話をしてこなかった。店主が老夫婦、常連客に女性も混じっているため話す機会が無かったのだ。
「流星さん最初どれ飲むの?」
『プレモル』
貴利矢は流星の分もまとめて持っていたスーパーの袋からお目当てのものを選び出し、それからパックの食べ物を机に広げた。
「後は冷蔵庫に閉まっておくからセルフで」
そうして始まった流星の出所?祝い。
聞けば流星は冤罪だったそうだ。流星よりも後に別件で逮捕されていた真犯人が立て続けに発生した痴漢と盗撮の一連の犯行を認め、流星の犯行と思われていた痴漢行為を真犯人が自ら撮影しており、そのデータが押収されたことから、晴れてこの程自由の身になったらしい。
『まあ警察の世話になったのも数週間だけだったけどな。まー突然電車から痴漢だって追い出されて気がついたら手錠かけられてたもんだから驚いたぜ。家帰ることも許されないし、誰かに連絡取るのも許されないし。大変だったよ』
「でも無事帰ってきてくれて嬉しいです。ホント突然いなくなったんで…」
『おうおう、嬉しい事言ってくれるぜ』
流星が三本目のビールに手をつけた時、貴利矢がそっと手を重ねた。
「自分、流星さんのことが好きです」
『ん?』
「だからあの、付き合ってくれませんか?」
『貴利矢…』
貴利矢は勢い任せに出した言葉にひどく後悔したが、もう遅い。思わず正座をして俯いた。
『…本当に良いのか、俺で』
流星は飲み食いする手を止め、ぽつりと呟いた。
「良いも悪い何も、流星さんじゃないと嫌だ」
貴利矢は強く言い切った。
返答を聞いた流星は、おもむろに貴利矢を軽々と横抱きにしてベッドへ放った。
「流星さん?」
『俺が女を痴漢する訳ねえよな、男が好きなんだからよ』
そう言って流星は貴利矢の両手を片手でベッドに縫い付けた。貴利矢が手を動かしても体格の良い流星の腕からは簡単に抜けられそうもない。流星の香水の香りが貴利矢の鼻腔を擽った。
初めて会った時はしみったれた服装だったのに、今はなんだ。無精髭は相変わらずだが、香水の香りや羽織っているシャツをよく見るとハイブランドである。その着こなしからそこはかとなく大人の色気を感じて、貴利矢は思わず目を閉じた。
「流星さん…」
『俺も好きだよ、貴利矢』
「うぇ…?」
『何情けねえ声出してんだよ』
流星はまた渋く笑った。つられて貴利矢も笑う。
『さァて、ホテルの正しい使い方でもするかね』
流星が無精髭をひと撫でし、貴利矢を喰らいはじめた。
「流星、さん…?」
ふわりと漂う香水の香り。
果たして目の前にいる男は本当に本人なのか。
見間違い、よく似た他人の空似、或いはドッペルゲンガーではないのだろうか。
その日九条貴利矢は検体報告を決裁に回し、院内回覧にハンコを押し、他にやり残したことはないかと考えを巡らせた後、のそのそと帰り支度をしていた。
裏口の警備員へ施錠記録簿を引き渡すと後は自由だ。明日は久々に何も無い休日。ここ数ヶ月は永夢などから遊びの誘いが入ったりして何かと予定のある休日を過ごしていたため、一人で過ごす休日といのは本当に久方ぶりである。
上機嫌でスーパーへ向かい、割引シールの貼られたメンチカツや枝豆などのつまみを買い込み、酒を選んでいる時に彼は突然現れた。
『よォ貴利矢』
「流星、さん…?」
『なんだァ、幽霊でも見るような顔して』
「いやだって…」
だってついこの間なんの前触れもなく姿を消した人間が目の前に立っているのだ。驚かずにいられるものか。
流星というのはよく行く飲み屋の常連客だ。
年齢は貴利矢の恐らく5つほど上。
ひょんな事から親しくなり、休日には都合を合わせて別の飲み屋へ飲みに行ったりするような仲になった。それがある日突然、ぱったりと行きつけの居酒屋に来なくなったのである。「また明日、居酒屋でな」と前日競馬場でビールを片手に別れたはずなのに。
『ちょっくらしょっぴかれててさ。やっと出てこれたんだよ』
流星は缶ビールを手に取り、見比べている。
「えっ」
流星さんって、犯罪者だったの?
貴利矢の心の中でどっと目の前の男に対して不信感が高まった。今まで犯罪臭漂うような素振りは流星に無かった。否、だがしかし。初めて居酒屋で会った時はしわくちゃによれた作業着にサンダル、加えて体格の良い筋肉質な身体に無精髭という出で立ちであったため、パッと見は失礼だが犯罪者…に見えなくもなかったかもしれない。初対面のあの日は「仕事で連日穴掘ってクタクタだよ」と渋く笑ったからあの格好でも許せたけれど。
『ま、詳しいことはまた今度』
結局選んでいた缶ビールを全て買い物カゴに放り込んだ流星はじゃあ、と言って立ち去ろうとしている。貴利矢は思わず流星の腕を掴んだ。
「じゃあ…出所祝い?しません?話聞きたいですし」
『いいよ。どこで?』
「自分の家、とか…明日自分休みなんで流星さんさえ悪くなければ今日、とか…」
『急すぎんだろ。いいよ。俺も丁度今日空いてんだ』
犯罪者?に対してなんて事を言ってしまったのだと急に我に返り青ざめた貴利矢に対して流星は渋く笑った。その顔を久しぶりに見て、ツキ、と貴利矢の心は小さく音を立てた。そしてほんの少し冷静さを取り戻した。
「…あ、でもやっぱ自分のアパートで騒ぐと大家が五月蝿いんで場所変えてもいいですか?」
適当にスーパーで買い込んだ二人は飲み食いする場所を探すため、駅前に向かった。だが週末という事も相まって、カラオケは学生利用の予約で埋まっており、ビジネスホテルも全滅。そうして二人が辿り着いたのはまだギリギリ明るいこの時間帯には利用者の少ないラブホテルだった。
『男二人で入るとか経験したことねぇー…』
「じ、自分も…」
貴利矢は食い物を買い込むより普通に居酒屋に入れば良かったと後悔、そして緊張しながらも一番安くて質素な部屋を選んだ。流星は貴利矢の後を着いて歩き、選んだ部屋に入室した。入室するなり流星は広いベッドにダイブし、すぐさまうつ伏せになって呟いた。
『貴利矢ってラブホ使う派?俺家派』
「…家派」
へぇ、と流星は自分から振った癖に興味無さげだ。
何だこの会話。だが今ふと思い返せば行きつけの居酒屋では下世話な話をしてこなかった。店主が老夫婦、常連客に女性も混じっているため話す機会が無かったのだ。
「流星さん最初どれ飲むの?」
『プレモル』
貴利矢は流星の分もまとめて持っていたスーパーの袋からお目当てのものを選び出し、それからパックの食べ物を机に広げた。
「後は冷蔵庫に閉まっておくからセルフで」
そうして始まった流星の出所?祝い。
聞けば流星は冤罪だったそうだ。流星よりも後に別件で逮捕されていた真犯人が立て続けに発生した痴漢と盗撮の一連の犯行を認め、流星の犯行と思われていた痴漢行為を真犯人が自ら撮影しており、そのデータが押収されたことから、晴れてこの程自由の身になったらしい。
『まあ警察の世話になったのも数週間だけだったけどな。まー突然電車から痴漢だって追い出されて気がついたら手錠かけられてたもんだから驚いたぜ。家帰ることも許されないし、誰かに連絡取るのも許されないし。大変だったよ』
「でも無事帰ってきてくれて嬉しいです。ホント突然いなくなったんで…」
『おうおう、嬉しい事言ってくれるぜ』
流星が三本目のビールに手をつけた時、貴利矢がそっと手を重ねた。
「自分、流星さんのことが好きです」
『ん?』
「だからあの、付き合ってくれませんか?」
『貴利矢…』
貴利矢は勢い任せに出した言葉にひどく後悔したが、もう遅い。思わず正座をして俯いた。
『…本当に良いのか、俺で』
流星は飲み食いする手を止め、ぽつりと呟いた。
「良いも悪い何も、流星さんじゃないと嫌だ」
貴利矢は強く言い切った。
返答を聞いた流星は、おもむろに貴利矢を軽々と横抱きにしてベッドへ放った。
「流星さん?」
『俺が女を痴漢する訳ねえよな、男が好きなんだからよ』
そう言って流星は貴利矢の両手を片手でベッドに縫い付けた。貴利矢が手を動かしても体格の良い流星の腕からは簡単に抜けられそうもない。流星の香水の香りが貴利矢の鼻腔を擽った。
初めて会った時はしみったれた服装だったのに、今はなんだ。無精髭は相変わらずだが、香水の香りや羽織っているシャツをよく見るとハイブランドである。その着こなしからそこはかとなく大人の色気を感じて、貴利矢は思わず目を閉じた。
「流星さん…」
『俺も好きだよ、貴利矢』
「うぇ…?」
『何情けねえ声出してんだよ』
流星はまた渋く笑った。つられて貴利矢も笑う。
『さァて、ホテルの正しい使い方でもするかね』
流星が無精髭をひと撫でし、貴利矢を喰らいはじめた。