イ反面ライダーEX-AID
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聞き役は勘弁。
貴利矢は商店街の飲み屋のカウンターで、隣の席に座る流星にそう言った。すると流星の目から、大粒の涙がこぼれ落ちてきた。
『おれ、お前しか聞いてもらう相手いなくて…ごめん…』
流星はビールジョッキを両手で持ち、しおらしくなった。
「あ、いや、そうじゃなくて…」
貴利矢は慌てて意図とは違う受け取り方をされたと弁解するが、時すでに遅し。
『自分でもこんなの迷惑だって思ってる。ごめん、今日はもう帰る』
俯いたまま、流星はそっと会計を呼んだ。
会計は五千円ずつ、お互い出した。
「待てって」
『待たない』
「待てって」
『…』
店を出たあと、少しの押し問答が続いたが、貴利矢が流星の腕を掴み、おつりを手の中に捩じ込むことによってそれは終了となった。どこかで飲み直そうにも、このご時世、この時間に開いている店などどこにもない。貴利矢の提案で、少し歩くことにした。
『おれこんなに人のことを好きだったことなくて…しかも初めてこんなに長く付き合った彼女だったし…突然別れようって言われた時、もうどうしたら良いのか分かんなくて』
「それもう何回も聞いたぜ。あと自分、呼び出されるの迷惑だなんて思ってないから。なあ」
『なんだよ…』
「そのー…自分と、付き合わねえ?」
『え?いや、貴利矢は男じゃないか…』
「本気だから」
『おれだって彼女に本気だったよ。なのに…』
「流星、お前どんだけ優しいんだよ。浮気した奴のことなんかとっとと忘れちまえよ」
『でもおれにとっては…!!』
「だーもう!めんどくせぇな!」
道端でいきなり大声を上げた貴利矢は、商店街で多少の注目を浴びた。しかしそれを気にもとめず、貴利矢は流星の肩を強く掴んだ。
「なんでもいいから自分と付き合え!返事は!?」
『は、はい…?』
勢いに押されて始まった流星と貴利矢の交際。
瞬く間に「エグゼイド」に関わる者たちの間で噂は広まった。
「聞きましたよ。流星さん貴利矢さんと付き合ってるらしいじゃないですか」
『うん。一応』
「一応ってなんです?」
『本意ではないと言うかなんというか』
「なんだか煮え切らないですね」
真っ先にこの噂に食い付いてきたのは、宝生永夢だった。流星が問診の合間に昼食を食べようと伸びをしたところ、突然カウンセリングルームを訪ねてきたのだ。
精神科医としてこの病院に勤めている流星は、なにより噂の流出は避けたかったが、どうやらこの噂は貴利矢本人が流しているらしい。
『強制的に付き合わされたって言うか』
「え?貴利矢さんが迫ったってことですか?」
『まあそんな感じ』
「貴利矢さん、迫ったのはアレですが、ああ見えて悪い人じゃないですから。いいんじゃないですか」
『そうかな』
「多分。じゃあ僕もう行きますね」
何だったんだ。嵐が去ったかと思えば、次にカウンセリングルームに乗り込んで来たのはなんと鏡飛彩だった。
「流星さん、今さっきアイツとすれ違ったんですが…」
『ああ、宝生先生のこと?ここに来てたよ。なにかあった?』
そう言うと、飛彩は一呼吸おいて話し始めた。
「…流星さんと監察医の噂が耳に入ってきたものですから、真相を伺いに」
『君も耳が早いんだね』
相変わらず身の回りで流れる情報の速度には呆れ返るばかりだ。まさかもう鈍感な飛彩にまで届いているとは。
その時、勢いよく扉が開いた。
「流星ー。もう飯食った?自分まだだからもしよかったら一緒に…って。鏡センセいたんだ。」
『貴利矢、ノックをしてから入れ』
「…噂は本当みたいですね。失礼します」
流星の口から聞くより早く、飛彩は納得して貴利矢の横を通り抜けていった。
「んー?」
1階の売店で手に入れたらしいカップ麺とおにぎりを携えていた貴利矢は理解が追いついていないらしい。おれと君との関係について聞かれたんだよと答えれば、満更でもないような表情を浮かべた。
『んで、飯はこれからだよ』
「一緒に食おうぜ」
『この後午後イチでカウンセリング入ってるからここで食う、でもいい?』
「モーマンタイ。流星何食うの?」
『弁当』
「手作り!?」
『ああ』
「なんか流星って家庭的だよな。自分家事なんてやらねーし」
『別に家事なんてしなくても生きていけるよ』
「それはさすがにアバウトすぎんだろ 」
『仕事と家事の両立なんて、やりたいやつがやったらいいと思う。さすがに家庭を持ったら分担とかあるかもしれないけど。男の一人暮らしなんてそんなもんじゃないか』
「うーん」
カップ麺に湯を注いだ貴利矢は手持ち無沙汰になって、なんでもない様に弁当をつつく流星を眺めた。彼のことを知ったのは昨年だ。「エグゼイド」に関わる永夢や飛彩が口悪く「今付き合ってる彼女と流星は釣り合わない」などと酷評しており、流星という人物は顔の造詣がよろしくない哀れな男であるというイメージを勝手に植え付けられた。しかし院内合同研修の際に会ってみれば、普通にイケメンだった。そこから導き出された答え。どうやら顔の造詣がよろしくないと言うのは彼女の方らしいということだ。研修後の飲み会で貴利矢が流星と隣同士になった時は、遠くの席の永夢がこちらを見て何やらニヤついていたが、知らないふりで通した。
流星は話してみればとても気さくで、分け隔てなく人と接する裏表のない性格のようだ。そんな流星と話していて、地元が同じであると判明した。仲良くなったのはそれがきっかけだった。
『飯食ったら早く出ていけよ。こちとら問診内容の確認しないといけないんだ』
「わーった、わーったよ」
流星と貴利矢が付き合いはじめてひと月が経った。
流星は貴利矢のことなんて今でも恋愛対象として見ては居ないだろう。だが優しい流星は貴利矢の申し出を断り切れず、ずるずると今の関係を続けている。
キスのひとつでもと貴利矢が流星の顔に近付くと、少し苦い顔をするのが何よりの証拠。
『貴利矢は辛くないのか?』
「なにが?」
『おれが貴利矢を好きにならないこと』
「うーん、辛いけどいつか好きになってくれると思ってんだよね。何となく」
『…そうか』
「ま、気長に待ってっから」