イ反面ライダー鎧武
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学会の報告で久々に会った後輩の戦極凌馬は、急成長企業勤めらしい。ユグドラシルコーポレーションと言えば誰でも分かるだろう。学会での報告終了後、彼に話しかけられたのだ。そしてどうやら俺を自分の会社に引き抜きたいらしい。さらに話を聞いていくと、給与も今務めている会社の倍額出すと言う。何でも、学会で先輩を引っこ抜いてくると職場のやつに見栄を張った手前、引くに引けないらしいのだ。
『戦極、僕の給与今いくらか知らないくせによく言えたな。本気か?』
「ええ。疑わないでくださいよ」
『そう言われてもな。君は学生時代から嘘の多い男だ』
「失礼な。私だって成長してます」
『見た目は変わらないがな』
「そういう平手さんだって」
『まあまあ、落ち着こう。場所を変えようか。今日は何でここまで来た?』
「タクシーで」
『では、僕は車で来ているからドライブでもしながら飯を食えるところを探そう。いいね』
「…」
揃って地下駐車場にに向かう。新調した革靴の履き心地は悪くない。
エンジンをかけ、地下を抜け出す。助手席に座った戦極がおずおずと話しかけてきた。
「…いい車に乗っていますね。ベントレーのコンチネンタルGTなんて」
『はは。車に乗るなら年収の半分の車に乗れとウチの社長に言われてな。言われるがまま購入してしまった』
「へえ」
『どうだ?給与はウチの倍出せそうか?』
「ちょっと考えます」
『やけに素直だな』
「車見たら何も言えなくなりました」
『僕も今の会社は辞めたくないからな。社長には随分と恩がある』
「そうですか」
『うん。だからいくら積まれても靡かない…つもりだよ』
信号待ち。ニヤリと戦極に笑ってやると、苦虫を噛み潰したような顔をされた。
「じゃあ…」
『なに?』
「弊社には靡かなくて良いので、その代わり私に靡いてみたりしませんか?」
『ははっ。懐かしいな。まだそれ言うのか』
僕はハンドルを今一度強く握った。
戦極はなぜかやたらと僕に詰め寄る。学生時代からそうだった。
「平手さんだって。分かってて私を今日誘ったんでしょう?」
『そんなのすっかり忘れてたさ』
「嘘だ」
『悪いな、戦極。残念だが僕は君の好意には応えられない。僕には妻がいる。昨年結婚したんだ』
「な…」
『だから今日は純粋な飯の誘いだ。どうだ?』
「…」
『どこに行きたい?』
「まだ夕飯まで時間があるので弊社を経由してもらっていいですか」
『ああ、いいよ』
行き先を変更し、戦極の勤める職場へ向かった。
「私の上司は無欲でね」
戦極はぽつりと零した。
『?』
「野心のひとつでもないと会社は成長しないだろう。だから私が主任…上司を支えているんです」
『ほう』
「好奇心や意欲を持って働く、私のような社員を上はもっと評価した方が良いと思いませんか」
『君のそういう所は嫌いじゃない。ただ…時としてその態度は上の格好の餌食になるだろう。最も、君は気にしていないだろうけどね』
「そうですね」
暫くすると、巨大樹を模したユグドラシルコーポレーションへ到着した。
『いつ見ても壮観だな。まさかここで君が働いているなんて思わなかったよ』
「来客者駐車場はそちら。さあ、降りてください」
『ぼ、僕も行くのか?部外者なんだし、ここで待つよ』
「来客プレート首から下げてたらいいんです。さあ」
受付で来客者用のプレートを貰い首から下げ、大人しく戦極の後を付いて歩く。戦極はすれ違う社員から頭を下げられている。
『君も出世したな』
「ええ」
『さすが、僕の後輩だな』
「…着きました。ご紹介しましょう、こちらが私の研究室です」
とある階。ここのラボの一角が彼の研究室らしい。
中へ入ると、色々な資料と実験途中らしい器具やらが散乱していた。
「あれ、貴虎居たのか」
「そういうお前は学会から直帰じゃなかったのか」
一日学会のために不在にしていた戦極が保有する資料を取りに上司が研究室を訪れていたらしい。そして、先程からこちらを気にしている。
「ああ。貴虎に紹介するよ、私の学生時代の先輩だ」
「…昨日散々私に自慢していた、あの?」
「みなまで言わないでくれ、恥ずかしい」
『君でも恥ずかしいと思うのか。はじめまして、戦極の先輩の平手流星です』
「私はユグドラシルコーポレーション主任、呉島貴虎です」
簡素な名刺交換を済ませると、戦極は手を打った。
「貴虎。君がここに居てくれて助かったよ。クラックルームへ平手さんを招待したい」
「駄目だ。部外者を入れるなと言っただろう」
「彼はこれから弊社の社員になるんだぞ」
『なんだって?』
呉島さんよりも先に反応してしまった。その件については先程やんわり断ったはずだ。
「平手さん。給与、今の3倍って言ったらどうします?」
『…は』
「おい、何を言っている」
「貴虎、君には分からないだろうけどね、彼はそのくらい価値のある男なんだ。すまないが、ここから先は退室願うよ。二人で話がしたい」
戦極が部屋の扉へ貴虎を追いやると、貴虎は渋々といった表情で資料を掴み退室していった。今日はノー残業デーだからはやく帰れの言葉を残して。
静けさに包まれる研究室。耳を澄ませば唯一、実験器具のメーター音だけが響いている。
「で、どうです。平手さんにとって悪くない条件だと思いますが」
『は、はは…本当に面白いな君は』
「「野心のひとつもないと会社は成長しないだろう」?私は欲しいものはなんでも手に入れたい。この会社も、あなたも」
『だから僕には妻が』
「嘘だ」
『なぜ分かる』
「平手さん、変わってないですね。あなたが嘘をつく時、必ず耳を触る」
『…』
彼には完敗だ。はじめから勝ちなど存在しないのかもしれない。
『まさか今までずっと僕のことを追いかけてくれてたなんて思いもしなかったんだ。だから揺さぶるために嘘をついたのに…』
「残念。ずっと気付いてました」
『口車にのせられてたのははじめから僕の方だったのか。さすが嘘の多い男だ』
「褒め言葉と捉えて宜しいですかね」
『ああ』
「もっとはやくに私のものになっていたら良かったのに」
戦極は縋り付くように平手を抱き締めた。
『君といると縛り付けられる気がしてな』
「…この巨大樹に縛り付けておくつもりだ。どの会社にも渡さないし、誰にも渡さない」
『悪趣味な蜘蛛みたいだ』
「何とでも言ってください。私は目的のためには手段を選ばない。悪いようにはしません」
『君の過去の裏切りは聞いてるよ』
「どこにそんな面白い話が転がってるんですか。聞いてみたい」
『…僕の負けだ。好きにしてくれ』
「遠慮なく。まずは趣味の悪いベントレーを潰すところからかな。色が悪い」
雨がしっとりと降り始めた、18時50分の出来事。
『戦極、僕の給与今いくらか知らないくせによく言えたな。本気か?』
「ええ。疑わないでくださいよ」
『そう言われてもな。君は学生時代から嘘の多い男だ』
「失礼な。私だって成長してます」
『見た目は変わらないがな』
「そういう平手さんだって」
『まあまあ、落ち着こう。場所を変えようか。今日は何でここまで来た?』
「タクシーで」
『では、僕は車で来ているからドライブでもしながら飯を食えるところを探そう。いいね』
「…」
揃って地下駐車場にに向かう。新調した革靴の履き心地は悪くない。
エンジンをかけ、地下を抜け出す。助手席に座った戦極がおずおずと話しかけてきた。
「…いい車に乗っていますね。ベントレーのコンチネンタルGTなんて」
『はは。車に乗るなら年収の半分の車に乗れとウチの社長に言われてな。言われるがまま購入してしまった』
「へえ」
『どうだ?給与はウチの倍出せそうか?』
「ちょっと考えます」
『やけに素直だな』
「車見たら何も言えなくなりました」
『僕も今の会社は辞めたくないからな。社長には随分と恩がある』
「そうですか」
『うん。だからいくら積まれても靡かない…つもりだよ』
信号待ち。ニヤリと戦極に笑ってやると、苦虫を噛み潰したような顔をされた。
「じゃあ…」
『なに?』
「弊社には靡かなくて良いので、その代わり私に靡いてみたりしませんか?」
『ははっ。懐かしいな。まだそれ言うのか』
僕はハンドルを今一度強く握った。
戦極はなぜかやたらと僕に詰め寄る。学生時代からそうだった。
「平手さんだって。分かってて私を今日誘ったんでしょう?」
『そんなのすっかり忘れてたさ』
「嘘だ」
『悪いな、戦極。残念だが僕は君の好意には応えられない。僕には妻がいる。昨年結婚したんだ』
「な…」
『だから今日は純粋な飯の誘いだ。どうだ?』
「…」
『どこに行きたい?』
「まだ夕飯まで時間があるので弊社を経由してもらっていいですか」
『ああ、いいよ』
行き先を変更し、戦極の勤める職場へ向かった。
「私の上司は無欲でね」
戦極はぽつりと零した。
『?』
「野心のひとつでもないと会社は成長しないだろう。だから私が主任…上司を支えているんです」
『ほう』
「好奇心や意欲を持って働く、私のような社員を上はもっと評価した方が良いと思いませんか」
『君のそういう所は嫌いじゃない。ただ…時としてその態度は上の格好の餌食になるだろう。最も、君は気にしていないだろうけどね』
「そうですね」
暫くすると、巨大樹を模したユグドラシルコーポレーションへ到着した。
『いつ見ても壮観だな。まさかここで君が働いているなんて思わなかったよ』
「来客者駐車場はそちら。さあ、降りてください」
『ぼ、僕も行くのか?部外者なんだし、ここで待つよ』
「来客プレート首から下げてたらいいんです。さあ」
受付で来客者用のプレートを貰い首から下げ、大人しく戦極の後を付いて歩く。戦極はすれ違う社員から頭を下げられている。
『君も出世したな』
「ええ」
『さすが、僕の後輩だな』
「…着きました。ご紹介しましょう、こちらが私の研究室です」
とある階。ここのラボの一角が彼の研究室らしい。
中へ入ると、色々な資料と実験途中らしい器具やらが散乱していた。
「あれ、貴虎居たのか」
「そういうお前は学会から直帰じゃなかったのか」
一日学会のために不在にしていた戦極が保有する資料を取りに上司が研究室を訪れていたらしい。そして、先程からこちらを気にしている。
「ああ。貴虎に紹介するよ、私の学生時代の先輩だ」
「…昨日散々私に自慢していた、あの?」
「みなまで言わないでくれ、恥ずかしい」
『君でも恥ずかしいと思うのか。はじめまして、戦極の先輩の平手流星です』
「私はユグドラシルコーポレーション主任、呉島貴虎です」
簡素な名刺交換を済ませると、戦極は手を打った。
「貴虎。君がここに居てくれて助かったよ。クラックルームへ平手さんを招待したい」
「駄目だ。部外者を入れるなと言っただろう」
「彼はこれから弊社の社員になるんだぞ」
『なんだって?』
呉島さんよりも先に反応してしまった。その件については先程やんわり断ったはずだ。
「平手さん。給与、今の3倍って言ったらどうします?」
『…は』
「おい、何を言っている」
「貴虎、君には分からないだろうけどね、彼はそのくらい価値のある男なんだ。すまないが、ここから先は退室願うよ。二人で話がしたい」
戦極が部屋の扉へ貴虎を追いやると、貴虎は渋々といった表情で資料を掴み退室していった。今日はノー残業デーだからはやく帰れの言葉を残して。
静けさに包まれる研究室。耳を澄ませば唯一、実験器具のメーター音だけが響いている。
「で、どうです。平手さんにとって悪くない条件だと思いますが」
『は、はは…本当に面白いな君は』
「「野心のひとつもないと会社は成長しないだろう」?私は欲しいものはなんでも手に入れたい。この会社も、あなたも」
『だから僕には妻が』
「嘘だ」
『なぜ分かる』
「平手さん、変わってないですね。あなたが嘘をつく時、必ず耳を触る」
『…』
彼には完敗だ。はじめから勝ちなど存在しないのかもしれない。
『まさか今までずっと僕のことを追いかけてくれてたなんて思いもしなかったんだ。だから揺さぶるために嘘をついたのに…』
「残念。ずっと気付いてました」
『口車にのせられてたのははじめから僕の方だったのか。さすが嘘の多い男だ』
「褒め言葉と捉えて宜しいですかね」
『ああ』
「もっとはやくに私のものになっていたら良かったのに」
戦極は縋り付くように平手を抱き締めた。
『君といると縛り付けられる気がしてな』
「…この巨大樹に縛り付けておくつもりだ。どの会社にも渡さないし、誰にも渡さない」
『悪趣味な蜘蛛みたいだ』
「何とでも言ってください。私は目的のためには手段を選ばない。悪いようにはしません」
『君の過去の裏切りは聞いてるよ』
「どこにそんな面白い話が転がってるんですか。聞いてみたい」
『…僕の負けだ。好きにしてくれ』
「遠慮なく。まずは趣味の悪いベントレーを潰すところからかな。色が悪い」
雨がしっとりと降り始めた、18時50分の出来事。
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