イ反面ライダー555
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配達めんどい、と真理は思った。
今日はとある清掃会社のユニフォームと、その近所の建設業者の作業着のみの配達を担当するのだが、如何せん従業員の数が多いので枚数もそれなりに多い。仕上がりまでに少し時間が掛かってしまったので、もしかしたら建設業者のところの御局事務員に一言二言嫌味なことを言われるかもしれない。あそこの御局様は少しでもクリーニングの配達が遅くなるとブチブチと小言を言うのだ。はぁ、会いたくない、配達したくない。げんなりとした気持ちで助手席に座り車窓を眺めていた真理は、気分転換がてら恋バナでもしようと閃き、その日配達のペアを組んだ運転席の流星に問いかけた。
「ねえ、流星って彼女いたよね?」
『真理いつの話してんだよ』
2ヶ月前に振られたわ、と流星が苦虫を潰したように真理の問いに答えると、途端に真理の瞳が淀んだ。もう会話が終わった。どうやら話題を間違えたらしい。それでもめげずに真理は話題を振り続ける。
「じゃあ今気になってる人とか居ないの?」
『今はいねえなー。そういう真理は?』
赤信号で停車して流星が真理に視線を向けると、真理は俯きがちにいつもより小さな声で答えた。
「木場さん」
『あー、木場か。良い奴だよな』
流星はにこりと笑う。クリーニング屋でバイトを始めて数ヶ月の流星でも、木場は常連客なので顔見知りだ。ルームシェア仲間である長田や海堂の衣類まで綺麗に畳んで持ち込む律儀な客。その癖流星とは歳が近く砕けた話もしやすい、という印象を流星は彼に抱いている。
「…だったんだけど、好きな人がいるみたいでさ」
『どうして分かったんだ?』
「実は木場さんにこの前告ったんだよね、後悔したくなくて。そしたら好きな人がいるからって断られたの」
信号が変わり、歩行者を待って無事に左折すると流星はぽん、と真理の頭に手を置いた。
『真理って良い意味で勇気あるよな、そういう風に自分の想いを人に伝えられるところ、尊敬してる』
「…なんか今ので少し傷が癒えたかも。ありがと」
恋バナの話題を振った自分が慰められており、気付けば幾らか真理の心は落ち着いていた。流星は現在大学生で、真理とは5つ歳が離れており、さながら兄の様な存在である。巧や啓太郎、草加とは普段恋愛の話をする機会がない(と言うかそもそも話したくない)ので、流星の存在は大変に貴重なのだ。
『配達終わったら甘いもの買ってやるから、もうひと踏ん張り頑張ろうぜ』
こういう時の流星はとても頼りになる。
清掃会社ではコンテナに積んだユニフォームを、真理なら4回かかるところを流星は2回の往復で事務所に運び入れ、建設業者では「実は最近、有難いことに最近クリーニングの注文が増えまして」と頭をかきながらいつもチクチクと五月蝿い御局様の小言をすり抜け、無事に得意先の配達を終えることができた。
そして真理は帰りに「みんなには内緒な」と、コンビニで期間限定のさつまいもソフトを流星に買ってもらった。二人は車をコンビニの駐車場に停車させたまま、ソフトクリームを頬張る。それからしばらくして、流星はあんまり帰るの遅くなると道草食ってるのバレるからな、とコーンを齧りながら車を発車させた。
「ただいまー」
無事に帰宅すると、パタパタと啓太郎が駆け寄ってきた。
「ごめん真理ちゃん、流星くん。実はまだ木場さんのところへの配達が残っててさ、お願いしてもいいかな?」
「巧は?」
「たっくんは今別ルートの配達中。反対方向だから二人が戻ってきたらお願いしようと思ってたんだ」
帰ってきたばっかなのに本当にゴメン!と手を合わせる啓太郎の声と同時に、店の受付で呼び鈴が鳴った。
『俺配達行ってくるから、真理は受付頼む』
流星はそう言いながら、啓太郎から木場の仕上がり分を受け取る。
「流星くんごめんね、よろしく」
『任せて』
流星はヘルメットを被り、バイクに飛び乗った。
程なくして木場の住むマンションに着くと、今から出かけるという長田と海堂が迎えてくれた。二人の後に続いて留守番だという木場がひょっこり姿を現したので、流星は配達が遅れたことに対しての謝罪と同時に衣類を手渡した。木場はいつもより申し訳なさそうな顔を浮かべる流星に対して、気にしていないと声をかけた。
「せっかくだから上がっていってくれないかな?」
『いいのか?』
初めて入る木場達の家。少し緊張しながら、通されたリビングのソファに腰掛けると、木場はちょっと待っててねという言葉を残してキッチンへ消えた。室内は整頓されており、さながらモデルルームの様だ。物で溢れかえる自分の部屋とは訳が違う。
しばらくすると、木場がティーポットと茶器をトレイに乗せて席に着いた。
「最近長田さんが紅茶に凝ってるんだ」
『へえ』
「だから今日は二人でティーカップを見に出かけたらしい」
『あの二人そろそろ付き合ったりしねえのかな』
ズズ、と十分に冷ました紅茶を口へ運び入れると、香りが鼻腔に広がった。
『…美味いなこれ』
「これはこの前長田さんと海堂が買ってきたフレーバーティーだよ…まあ、あの二人は長田さんの片想いで終わりそうだけど」
『そうなんだ。なあ、木場は好きな奴とかいねえの?』
この流れなら聞けると流星は踏んで、木場に尋ねた。先程真理とやりとりした事もあって尚更気になったのだ。
大丈夫、今のは不自然な問いかけじゃない、はず。
「いないよ」
『あれ、でもいるって…』
そこまで言いかけて流星はしまった、と思わず口を噤んだ。これでは真理が木場に告白した、と真理から聞いたことがばれてしまう。完全に墓穴を掘った。
木場はティーカップを置いて、流星と視線を合わせた。
「誰かから聞いたの?」
『あ、や、えーと…』
誤魔化そうにも時すでに遅し。木場が流星から視線を外してくれそうにない。
「園田さん?」
『ハイ、そうです…』
「…」
木場に言い当てられ、大人しく降参した。大変気まずい。聞かなければ良かった。流星が冷や汗をたらたらと流し反省していると、木場がため息をついた。
「そうだよね、園田さんとしかこの話してないからね」
『…』
帰りたい。猛烈に帰りたい。配達が残っていると方便の一つや二つを玄関先で言えばよかった。軽く10分ほど前の自分を恨む。まあ恨んだところで自業自得なのだが。
「いると言えば、いるんだけど。あまり手が届きそうにないし、もし届いたとしてもこちらに振り向いてくれなさそうな人だからやっぱり諦めたんだ」
木場の顔や性格を持ってしても振り向かない人などいるのだろうか。流星はぬるくなった紅茶を一息に啜った。
『木場が諦めるなんて珍しいね』
「俺が気になってると分かったら、相手にも迷惑がかかるだろうし」
『迷惑?木場のことそんな風に思う奴なんていないだろ』
「そうかな」
『そうさ。当たって砕けろ、でも良いんじゃないか?』
「…君なんだよ」
『へ?』
「いやだからその…」
そこまで言って木場は片手で顔を覆った。
え、なに、そういうこと?
『木場顔見せて』
「い、いやだよ、恥ずかしい」
ついに木場は両手で顔を覆ってしまったため、流星は少しづつ覆う手を剥がす。真っ赤になった顔を見て流星は微笑んだ。
『大丈夫、俺も木場のこと好きだから』
「真理ちゃん、お疲れ様。もう上がっていいよ」
カウンターで今日一日の集計作業をする真理に、啓太郎は声をかけた。返事とともに大きく伸びをした真理は入口の施錠とロールカーテンを下ろす。そこでポケットの携帯が振動し、メールを受信したことを知らせた。
「こういうことだった、か…」
届いた文面を読み上げ、思わず真理は微笑んだ。
送り主は流星。そこには木場との写メが添付されていた。
今日はとある清掃会社のユニフォームと、その近所の建設業者の作業着のみの配達を担当するのだが、如何せん従業員の数が多いので枚数もそれなりに多い。仕上がりまでに少し時間が掛かってしまったので、もしかしたら建設業者のところの御局事務員に一言二言嫌味なことを言われるかもしれない。あそこの御局様は少しでもクリーニングの配達が遅くなるとブチブチと小言を言うのだ。はぁ、会いたくない、配達したくない。げんなりとした気持ちで助手席に座り車窓を眺めていた真理は、気分転換がてら恋バナでもしようと閃き、その日配達のペアを組んだ運転席の流星に問いかけた。
「ねえ、流星って彼女いたよね?」
『真理いつの話してんだよ』
2ヶ月前に振られたわ、と流星が苦虫を潰したように真理の問いに答えると、途端に真理の瞳が淀んだ。もう会話が終わった。どうやら話題を間違えたらしい。それでもめげずに真理は話題を振り続ける。
「じゃあ今気になってる人とか居ないの?」
『今はいねえなー。そういう真理は?』
赤信号で停車して流星が真理に視線を向けると、真理は俯きがちにいつもより小さな声で答えた。
「木場さん」
『あー、木場か。良い奴だよな』
流星はにこりと笑う。クリーニング屋でバイトを始めて数ヶ月の流星でも、木場は常連客なので顔見知りだ。ルームシェア仲間である長田や海堂の衣類まで綺麗に畳んで持ち込む律儀な客。その癖流星とは歳が近く砕けた話もしやすい、という印象を流星は彼に抱いている。
「…だったんだけど、好きな人がいるみたいでさ」
『どうして分かったんだ?』
「実は木場さんにこの前告ったんだよね、後悔したくなくて。そしたら好きな人がいるからって断られたの」
信号が変わり、歩行者を待って無事に左折すると流星はぽん、と真理の頭に手を置いた。
『真理って良い意味で勇気あるよな、そういう風に自分の想いを人に伝えられるところ、尊敬してる』
「…なんか今ので少し傷が癒えたかも。ありがと」
恋バナの話題を振った自分が慰められており、気付けば幾らか真理の心は落ち着いていた。流星は現在大学生で、真理とは5つ歳が離れており、さながら兄の様な存在である。巧や啓太郎、草加とは普段恋愛の話をする機会がない(と言うかそもそも話したくない)ので、流星の存在は大変に貴重なのだ。
『配達終わったら甘いもの買ってやるから、もうひと踏ん張り頑張ろうぜ』
こういう時の流星はとても頼りになる。
清掃会社ではコンテナに積んだユニフォームを、真理なら4回かかるところを流星は2回の往復で事務所に運び入れ、建設業者では「実は最近、有難いことに最近クリーニングの注文が増えまして」と頭をかきながらいつもチクチクと五月蝿い御局様の小言をすり抜け、無事に得意先の配達を終えることができた。
そして真理は帰りに「みんなには内緒な」と、コンビニで期間限定のさつまいもソフトを流星に買ってもらった。二人は車をコンビニの駐車場に停車させたまま、ソフトクリームを頬張る。それからしばらくして、流星はあんまり帰るの遅くなると道草食ってるのバレるからな、とコーンを齧りながら車を発車させた。
「ただいまー」
無事に帰宅すると、パタパタと啓太郎が駆け寄ってきた。
「ごめん真理ちゃん、流星くん。実はまだ木場さんのところへの配達が残っててさ、お願いしてもいいかな?」
「巧は?」
「たっくんは今別ルートの配達中。反対方向だから二人が戻ってきたらお願いしようと思ってたんだ」
帰ってきたばっかなのに本当にゴメン!と手を合わせる啓太郎の声と同時に、店の受付で呼び鈴が鳴った。
『俺配達行ってくるから、真理は受付頼む』
流星はそう言いながら、啓太郎から木場の仕上がり分を受け取る。
「流星くんごめんね、よろしく」
『任せて』
流星はヘルメットを被り、バイクに飛び乗った。
程なくして木場の住むマンションに着くと、今から出かけるという長田と海堂が迎えてくれた。二人の後に続いて留守番だという木場がひょっこり姿を現したので、流星は配達が遅れたことに対しての謝罪と同時に衣類を手渡した。木場はいつもより申し訳なさそうな顔を浮かべる流星に対して、気にしていないと声をかけた。
「せっかくだから上がっていってくれないかな?」
『いいのか?』
初めて入る木場達の家。少し緊張しながら、通されたリビングのソファに腰掛けると、木場はちょっと待っててねという言葉を残してキッチンへ消えた。室内は整頓されており、さながらモデルルームの様だ。物で溢れかえる自分の部屋とは訳が違う。
しばらくすると、木場がティーポットと茶器をトレイに乗せて席に着いた。
「最近長田さんが紅茶に凝ってるんだ」
『へえ』
「だから今日は二人でティーカップを見に出かけたらしい」
『あの二人そろそろ付き合ったりしねえのかな』
ズズ、と十分に冷ました紅茶を口へ運び入れると、香りが鼻腔に広がった。
『…美味いなこれ』
「これはこの前長田さんと海堂が買ってきたフレーバーティーだよ…まあ、あの二人は長田さんの片想いで終わりそうだけど」
『そうなんだ。なあ、木場は好きな奴とかいねえの?』
この流れなら聞けると流星は踏んで、木場に尋ねた。先程真理とやりとりした事もあって尚更気になったのだ。
大丈夫、今のは不自然な問いかけじゃない、はず。
「いないよ」
『あれ、でもいるって…』
そこまで言いかけて流星はしまった、と思わず口を噤んだ。これでは真理が木場に告白した、と真理から聞いたことがばれてしまう。完全に墓穴を掘った。
木場はティーカップを置いて、流星と視線を合わせた。
「誰かから聞いたの?」
『あ、や、えーと…』
誤魔化そうにも時すでに遅し。木場が流星から視線を外してくれそうにない。
「園田さん?」
『ハイ、そうです…』
「…」
木場に言い当てられ、大人しく降参した。大変気まずい。聞かなければ良かった。流星が冷や汗をたらたらと流し反省していると、木場がため息をついた。
「そうだよね、園田さんとしかこの話してないからね」
『…』
帰りたい。猛烈に帰りたい。配達が残っていると方便の一つや二つを玄関先で言えばよかった。軽く10分ほど前の自分を恨む。まあ恨んだところで自業自得なのだが。
「いると言えば、いるんだけど。あまり手が届きそうにないし、もし届いたとしてもこちらに振り向いてくれなさそうな人だからやっぱり諦めたんだ」
木場の顔や性格を持ってしても振り向かない人などいるのだろうか。流星はぬるくなった紅茶を一息に啜った。
『木場が諦めるなんて珍しいね』
「俺が気になってると分かったら、相手にも迷惑がかかるだろうし」
『迷惑?木場のことそんな風に思う奴なんていないだろ』
「そうかな」
『そうさ。当たって砕けろ、でも良いんじゃないか?』
「…君なんだよ」
『へ?』
「いやだからその…」
そこまで言って木場は片手で顔を覆った。
え、なに、そういうこと?
『木場顔見せて』
「い、いやだよ、恥ずかしい」
ついに木場は両手で顔を覆ってしまったため、流星は少しづつ覆う手を剥がす。真っ赤になった顔を見て流星は微笑んだ。
『大丈夫、俺も木場のこと好きだから』
「真理ちゃん、お疲れ様。もう上がっていいよ」
カウンターで今日一日の集計作業をする真理に、啓太郎は声をかけた。返事とともに大きく伸びをした真理は入口の施錠とロールカーテンを下ろす。そこでポケットの携帯が振動し、メールを受信したことを知らせた。
「こういうことだった、か…」
届いた文面を読み上げ、思わず真理は微笑んだ。
送り主は流星。そこには木場との写メが添付されていた。
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