夜明けを告げる星~Morning Star~
「MaMの新曲?!出せるの?」
久し振りに茉弥が住むマンションにやって来た斑は、何だか少し落ち着きがなかった。
「うむ。2年ぶりくらい、だなあ」
「よかったね。ずっと新曲の出番待ってたものね」
茉弥がお茶を淹れてテーブルに置いた。
「レオさんの曲になるはずだ」
「え…?」
神妙な顔の斑に、茉弥は驚いた。
「レオさんて…月永レオ⁈帰って来てるの、日本に」
「泉さんがアンバサダーになったブランドのCM曲をKnightsが担当するということで、泉さんと一緒に戻って来たらしい」
「そっか…。Knightsには申し訳ないことしちゃったな、私」
斑が首を捻ったので、茉弥は泉から聞いた、Knightsのベルリン公演の仕事を引き受けられなかった話をした。連絡をすべき自分が茉弥から遠ざかっていたせいでキャンセルになった責任を、斑も感じた。
「茉弥さんのチャンスを俺が潰したようなものだからなあ…」
「もういいのよそれは。泉くんも事情を知って心配してくれたし。結局レオが全部やることになっちゃったけど」
その言葉を聞いて、斑は茉弥に尋ねた。
「そういえば、茉弥さんとレオさんってどういう関係なんだあ?以前君とレオさんが事務所で話してたとき、随分親しそうだったが」
「…気になるの?敬人と喋ってた時はそんなこと言わな…」
斑は茉弥を抱きしめ、唇を塞いだ。
「ちょっと!また焼きもち?私だってレオが斑さんの親友だって知ってるよ」
「…別にレオさんに君を取られるとは思っていないが」
「じゃあなんなのこれは!…ふ…むむむ…」
ここぞとばかりに唇を塞ぎ、舌を差し入れて口の中を蹂躙する斑に茉弥はげんこつを喰らわせ、それで斑は茉弥を離した。
「こら、自重しなさい」
「はははあ。今のは茉弥さんが可愛くてつい」
「それはそうとレオのこと。言ってなかったよね、幼馴染だって」
「幼馴染?茉弥さんの実家とレオさんちって結構離れてるはずだが」
「小学生の頃作曲教室で一緒だったんだよ。その時から天才だったよ、レオは。だからさ」
茉弥は斑に寄り添った。
「斑さんはレオと親友なこと、もっともっと誇りに思っていいんだよ」
ニコニコしながら自分を見上げる茉弥を見て、斑は内心(かなわないなあ)と思った。
翌日、ニューディ事務所。
「お、みけじママ、久しぶりだな!」
聞きなれた声に斑が振り向くと、月永レオが手を振りながら近づいてきた。が、一瞬立ち止まり、レオは首を伸ばして茉弥を見た。
「あれ?…お前ひょっとしてマヤか?」
「…レオ!なんだ、忘れてた?」
「やっぱり、マヤだ!いつぶりなんだ?すっかり大人っぽく綺麗になっちゃったなあ!」
「3か月前に事務所で会ったじゃん、泉くんと一緒に」
ニコニコしながら近づいてきたレオは、斑に手を振った。
「みけじママも事務所に用事か?」
「そうだなあ。レオさんは」
「セナに呼ばれたんだ。そういえば、セナから聞いたけど、今度マヤがナルの曲を書くって?楽しみだな!俺が作曲教室で認めたのは、マヤだけだからな!」
「へ?!」
茉弥は驚いて目を見開いた。そんなはずはない。小学生の頃通っていた作曲教室で、月永レオはずば抜けていた。自分はその他大勢だとずっと思っていた。レオが作曲教室に物足りなくなって教室をやめ、自分も演奏の方が好きだからとやめてしまった。それからはずっと会っていなかったのに、レオは自分を覚えていて、再会してからも気にかけてくれている。
「そんなこと…レオはほんとにすごくて…私なんて」
「ほう。その話、俺も聞きたいなあ」
ニューディメンション事務所の談話室。レオと茉弥の昔の話をレオから聞くことになった。斑の知らない話だ。
「俺は、作曲教室をやめようって思ってた。基本だけ分かれば後は自分でいくらでも曲が作れるからつまらないし。でも、マヤが入ってきて、驚かされた」
茉弥はレオの言葉に目を丸くした。
「へ?私落ちこぼれだったんだよ。毎週曲を3曲作って来いって言われても、1曲も作れない、1か月にやっと1曲なんてこともあって…」
「それはさあ、お前、ちょっと気になったらどんどん手を加えちゃうからだろ?俺と違って、マヤは”職人”なんだよ。凝り始めたら止まらない。俺の曲のアレンジやっただろ、あれ面白かったぜ」
そんなことがあったか。忘れていた。大体自分はなぜ作曲教室に入ったのか、その理由すら覚えていなかったのに。
「Double FaceのCM曲のクレジットにKuROって書いてあったけど、あれマヤの曲だろ?すぐわかった」
悪戯っぽい笑みを浮かべるレオに、茉弥はまた驚いた。
「うっそ!誰も分かんないはずだけど」
「昔先生に怒られて没ったモチーフだよな」
「レオって人の名前は忘れるくせに、そういうことだけよく覚えてるよね」
「ハハハ」
ひとしきり笑ったあと、レオは言った。
「あの頃作曲教室にいた奴らってさあ、み~んな、作曲なんてつまんないって顔して音楽に愛情なんてない奴らだった。だからやめようって思ったんだけど、マヤの曲は違ったんだ。お前が言う通りまだまだ粗削り、かもしれない。でもさ、マヤは音楽を楽しんでた。それだけで十分、俺はお前を認めるよ」
「あ…ありがと…レオ」
「ところでさっきからずっと気になってるんだけどさ、マヤなんでママと一緒に来たわけ?」
レオの無邪気な質問に、斑と茉弥は顔を見合わせ、互いに顔を赤くした。
「あれ?なんか変なこと言ったか、俺」
斑を見上げる茉弥に、斑は手で制しレオの方へ向き直った。
「お前らまだ一緒に住んでないよな」
「うむ。春に結婚式を挙げることが決まった。そうしたら、茉弥さんとずっと一緒だ。レオさんにも式には出てほしい」
レオは目をぱちぱちと瞬き、斑を見つめ、次に茉弥を見つめ、そして視線をまた斑に戻した。
「お、おおおおお?!やったな、ママ」
「ハハハ。レオさんに一番に伝えられてよかった」
「おおっ、お前らラブラブだなあ!!…来た、来たぞっ!!いいメロディが浮かんできたっ!」
レオが床に曲を書こうとし始めたため、茉弥が五線紙を渡した。
「ああっ、レオってそういうとこほんっとに変わってないっ!!私の五線紙使って!へ、足りない?…あった、これこれ!司くんから預かってるから!」
「おお、ありがとな、マヤ。…出てくる出てくる!!俺、天才!今までになくハッピーラブラブな曲だ!これは絶対ママに歌ってほしいっ!!しかも2曲いっぺんにできたぜ!マヤも歌え!お前歌もピアノも上手だろ?」
あっという間に曲を書きあげたレオは、二人を見て言った。
「みけじママが結婚するって聞いて、俺すっごく嬉しかった!ママはずっとひとりぼっちで何かと戦ってた。そういうママを見るのが俺はちょっと辛かったんだ。でも、マヤがママのそばにいれば、大丈夫だ!!俺が保証する!!」
「ほうほう、レオさんに保証してもらえたら安心だなあ!」
「ママ、俺の曲に詞をつけてくれよ。今のママのハッピーな気持ちを書けば、出来るはずだぜ」
そして、茉弥の方に向き直って言った。
「みけじママのこと、頼んだ」
「うん。ありがとね、レオ」
「お前らがハッピーなら俺もハッピーだ!今書いたのがMaMの新曲、俺からのプレゼントだ!!」
MaMの新曲「Eternity」は、月永レオの作曲、三毛縞斑が初めて作詞をし、斑の結婚に合わせて発売されることとなる。
久し振りに茉弥が住むマンションにやって来た斑は、何だか少し落ち着きがなかった。
「うむ。2年ぶりくらい、だなあ」
「よかったね。ずっと新曲の出番待ってたものね」
茉弥がお茶を淹れてテーブルに置いた。
「レオさんの曲になるはずだ」
「え…?」
神妙な顔の斑に、茉弥は驚いた。
「レオさんて…月永レオ⁈帰って来てるの、日本に」
「泉さんがアンバサダーになったブランドのCM曲をKnightsが担当するということで、泉さんと一緒に戻って来たらしい」
「そっか…。Knightsには申し訳ないことしちゃったな、私」
斑が首を捻ったので、茉弥は泉から聞いた、Knightsのベルリン公演の仕事を引き受けられなかった話をした。連絡をすべき自分が茉弥から遠ざかっていたせいでキャンセルになった責任を、斑も感じた。
「茉弥さんのチャンスを俺が潰したようなものだからなあ…」
「もういいのよそれは。泉くんも事情を知って心配してくれたし。結局レオが全部やることになっちゃったけど」
その言葉を聞いて、斑は茉弥に尋ねた。
「そういえば、茉弥さんとレオさんってどういう関係なんだあ?以前君とレオさんが事務所で話してたとき、随分親しそうだったが」
「…気になるの?敬人と喋ってた時はそんなこと言わな…」
斑は茉弥を抱きしめ、唇を塞いだ。
「ちょっと!また焼きもち?私だってレオが斑さんの親友だって知ってるよ」
「…別にレオさんに君を取られるとは思っていないが」
「じゃあなんなのこれは!…ふ…むむむ…」
ここぞとばかりに唇を塞ぎ、舌を差し入れて口の中を蹂躙する斑に茉弥はげんこつを喰らわせ、それで斑は茉弥を離した。
「こら、自重しなさい」
「はははあ。今のは茉弥さんが可愛くてつい」
「それはそうとレオのこと。言ってなかったよね、幼馴染だって」
「幼馴染?茉弥さんの実家とレオさんちって結構離れてるはずだが」
「小学生の頃作曲教室で一緒だったんだよ。その時から天才だったよ、レオは。だからさ」
茉弥は斑に寄り添った。
「斑さんはレオと親友なこと、もっともっと誇りに思っていいんだよ」
ニコニコしながら自分を見上げる茉弥を見て、斑は内心(かなわないなあ)と思った。
翌日、ニューディ事務所。
「お、みけじママ、久しぶりだな!」
聞きなれた声に斑が振り向くと、月永レオが手を振りながら近づいてきた。が、一瞬立ち止まり、レオは首を伸ばして茉弥を見た。
「あれ?…お前ひょっとしてマヤか?」
「…レオ!なんだ、忘れてた?」
「やっぱり、マヤだ!いつぶりなんだ?すっかり大人っぽく綺麗になっちゃったなあ!」
「3か月前に事務所で会ったじゃん、泉くんと一緒に」
ニコニコしながら近づいてきたレオは、斑に手を振った。
「みけじママも事務所に用事か?」
「そうだなあ。レオさんは」
「セナに呼ばれたんだ。そういえば、セナから聞いたけど、今度マヤがナルの曲を書くって?楽しみだな!俺が作曲教室で認めたのは、マヤだけだからな!」
「へ?!」
茉弥は驚いて目を見開いた。そんなはずはない。小学生の頃通っていた作曲教室で、月永レオはずば抜けていた。自分はその他大勢だとずっと思っていた。レオが作曲教室に物足りなくなって教室をやめ、自分も演奏の方が好きだからとやめてしまった。それからはずっと会っていなかったのに、レオは自分を覚えていて、再会してからも気にかけてくれている。
「そんなこと…レオはほんとにすごくて…私なんて」
「ほう。その話、俺も聞きたいなあ」
ニューディメンション事務所の談話室。レオと茉弥の昔の話をレオから聞くことになった。斑の知らない話だ。
「俺は、作曲教室をやめようって思ってた。基本だけ分かれば後は自分でいくらでも曲が作れるからつまらないし。でも、マヤが入ってきて、驚かされた」
茉弥はレオの言葉に目を丸くした。
「へ?私落ちこぼれだったんだよ。毎週曲を3曲作って来いって言われても、1曲も作れない、1か月にやっと1曲なんてこともあって…」
「それはさあ、お前、ちょっと気になったらどんどん手を加えちゃうからだろ?俺と違って、マヤは”職人”なんだよ。凝り始めたら止まらない。俺の曲のアレンジやっただろ、あれ面白かったぜ」
そんなことがあったか。忘れていた。大体自分はなぜ作曲教室に入ったのか、その理由すら覚えていなかったのに。
「Double FaceのCM曲のクレジットにKuROって書いてあったけど、あれマヤの曲だろ?すぐわかった」
悪戯っぽい笑みを浮かべるレオに、茉弥はまた驚いた。
「うっそ!誰も分かんないはずだけど」
「昔先生に怒られて没ったモチーフだよな」
「レオって人の名前は忘れるくせに、そういうことだけよく覚えてるよね」
「ハハハ」
ひとしきり笑ったあと、レオは言った。
「あの頃作曲教室にいた奴らってさあ、み~んな、作曲なんてつまんないって顔して音楽に愛情なんてない奴らだった。だからやめようって思ったんだけど、マヤの曲は違ったんだ。お前が言う通りまだまだ粗削り、かもしれない。でもさ、マヤは音楽を楽しんでた。それだけで十分、俺はお前を認めるよ」
「あ…ありがと…レオ」
「ところでさっきからずっと気になってるんだけどさ、マヤなんでママと一緒に来たわけ?」
レオの無邪気な質問に、斑と茉弥は顔を見合わせ、互いに顔を赤くした。
「あれ?なんか変なこと言ったか、俺」
斑を見上げる茉弥に、斑は手で制しレオの方へ向き直った。
「お前らまだ一緒に住んでないよな」
「うむ。春に結婚式を挙げることが決まった。そうしたら、茉弥さんとずっと一緒だ。レオさんにも式には出てほしい」
レオは目をぱちぱちと瞬き、斑を見つめ、次に茉弥を見つめ、そして視線をまた斑に戻した。
「お、おおおおお?!やったな、ママ」
「ハハハ。レオさんに一番に伝えられてよかった」
「おおっ、お前らラブラブだなあ!!…来た、来たぞっ!!いいメロディが浮かんできたっ!」
レオが床に曲を書こうとし始めたため、茉弥が五線紙を渡した。
「ああっ、レオってそういうとこほんっとに変わってないっ!!私の五線紙使って!へ、足りない?…あった、これこれ!司くんから預かってるから!」
「おお、ありがとな、マヤ。…出てくる出てくる!!俺、天才!今までになくハッピーラブラブな曲だ!これは絶対ママに歌ってほしいっ!!しかも2曲いっぺんにできたぜ!マヤも歌え!お前歌もピアノも上手だろ?」
あっという間に曲を書きあげたレオは、二人を見て言った。
「みけじママが結婚するって聞いて、俺すっごく嬉しかった!ママはずっとひとりぼっちで何かと戦ってた。そういうママを見るのが俺はちょっと辛かったんだ。でも、マヤがママのそばにいれば、大丈夫だ!!俺が保証する!!」
「ほうほう、レオさんに保証してもらえたら安心だなあ!」
「ママ、俺の曲に詞をつけてくれよ。今のママのハッピーな気持ちを書けば、出来るはずだぜ」
そして、茉弥の方に向き直って言った。
「みけじママのこと、頼んだ」
「うん。ありがとね、レオ」
「お前らがハッピーなら俺もハッピーだ!今書いたのがMaMの新曲、俺からのプレゼントだ!!」
MaMの新曲「Eternity」は、月永レオの作曲、三毛縞斑が初めて作詞をし、斑の結婚に合わせて発売されることとなる。