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君は一等星

 日の当たる場所で、茉弥とデートしたいと斑は考えていた。
(茉弥さんを闇に閉じ込めることは、したくなかった)
それが、斑の偽らざる気持ちだった。たとえ自分は後ろ暗いところがあったとしても、茉弥には笑顔で陽の光の下でいてほしかったのだ。

 午後の少し遅い時間に、斑は茉弥を遊園地に連れ出した。
「せっかく付き合ってるのに、”でえと”らしいことをしたことがないからなあ」
戸惑う茉弥に、斑はそんなことを言った。
 メリーゴーランドに並んで乗り、上下しながら互いに話さず景色を見ていた。二人乗りの馬車にしておいた方がよかったかもしれない、と、斑は少し後悔した。
「ちょっと暑いね。ソフトクリーム、食べたい」
「どれにするかあ?」
「ミックス。コーヒーとバニラの」
「じゃあ、俺もそれにするかあ」
ソフトクリームを食べるなんて、何年ぶりなのだろうと斑は思った。二つのソフトクリームを両手に持ち、茉弥に1つを差し出すと、茉弥は笑顔でそれを受け取った。
「…?!」
茉弥は自分のソフトクリームを斑がぺろりと食べてしまったことに驚いた。
「ええ~?なんで?」
「上の方が溶けて落ちそうだったからなあ」
「いきなり舐めないでよ~。びっくりするから」
「じゃあ、茉弥さんが俺のを半分食べればいい」
「っていうか!そこは”とりかえっこしようなあ”じゃないの?!」
「いや。…半分交換するのが、意味があるんだなあ」
「んんん~~~???」
茉弥が首を捻っていると、斑が茉弥の頬をぺろりと舐めた。
「やっ、な、何して…」
「クリームが頬っぺたについてるぞお」
 少しふざけてニヤニヤしている斑に、茉弥は顔を赤くした。

 それからも乗り物に乗り、気づくと空は夕日で赤くなっていた。
「斑さん、観覧車、乗ろう」
茉弥は斑の手を引き、観覧車乗り場に走った。もともとシーズンオフで人が少ない中、閉園近い時間で、観覧車待ちをしている客はいなかった。
 二人は降りて来た緑色の観覧車に乗り込んだ。
「私ね、観覧車って好きなんだ」
「そうかあ」
「観覧車の天辺から見る景色って、好き。でもね」
一瞬目を伏せた茉弥は、斑に向かって微笑んだ。
「好きな人と一緒に乗るのは、斑さんがはじめて、なんだあ」
斑は驚き、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「そうかそうか。茉弥さんのはじめてに、俺はなったのかあ」
「そうだよ。…いろんなはじめてを、斑さんにもらったけど。ふつうの恋人みたいに、デートっぽいことしたのも、はじめて、だよね」
「デート”っぽい”んじゃなくて、ちゃんとデート、だぞお」
「うん」
「茉弥さん」
斑は茉弥の肩を抱き寄せ、軽く唇を重ねた。
「これも、初めて」
ほんのり上気した頬はとても熱い。斑の右手の人差し指が茉弥の頬をかすめた。
「天辺」
「え?」
「ここが天辺だあ」
茉弥が振り向くと、確かに観覧車は天辺に辿り着こうとしていた。あたりが夕闇に包まれ、ライトアップしている遊園地の遊具や、遠くのビル群が見える。夕陽が沈みかけて、二人とも顔を照らされている。
「この景色が、好き」
「そうかあ」
「観覧車なんて最近乗らなかったから忘れてた。こんな風だったんだ…」
観覧車がゆっくりぐるりと下りかけた時に、斑はもう一度茉弥を自分に引き寄せた。今度は大胆に、唇を舌で割って入り、戸惑いながら逃げる茉弥の舌を捉えて吸った。ちゅ、ちゅ、と何度も音がして、茉弥は恥ずかしさのあまり顔を染めた。
「あ…」
「ごめんなあ、驚いたかあ?」
「ん…」
「茉弥さんは可愛いから、つい、なあ」
茉弥は斑の胸に顔を押し当てた。
「ちょっと激しすぎたか…怒ったかあ?」
「…怒ってない…ちょっとえっちって思ったけど…嫌じゃ、なかった」
恥じらいながら顔を上げて自分を見る茉弥の耳元に、斑は囁いた。
「あとでまた、しようなあ」
「…斑さん、えっち」
「男の子は、好きな女の子のことを考えてえっちになるもんなんだぞお」
「そ、そんなことを大声で言わないでください!」
「この声は地声だからなあ」
「…だから抑えてって…」
「茉弥さんは俺とキスをするのは嫌かあ?」
覗き込む斑の視線を微妙に外しながら、茉弥は口を尖らせた。
「嫌なんて言ってないもん」
すると、斑は声を上げずに笑い、茉弥の横に座り直してそっと茉弥の手を取った。

 指一本ずつを絡め、力強くきゅっと握るそのしぐさに、茉弥はきゅん、と胸が締め付けられた。そのまま二人は手を繋いだまま、ゆっくり観覧車が降りるまでどちらも口をきかずにいた。
 帰り道、斑は茉弥の耳元にかがんで囁いた。
「もうちょっと、二人っきりでいようなあ」
茉弥は頷き、肩を抱き寄せる斑に身を預けた。くい、と顎を上げて、斑は茉弥の唇を小鳥が木の実をついばむようについばんだ。
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