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素直に言えない君への想い

 ハロウィンのイベントをやる学校は多いが、ナイトレイブンカレッジのハロウィンイベントはなかなかの規模である。外部の人間が校内を回ることができるイベントでもあり、人気があった。しかも今年はマジカメでバズりまくっている。

 と言うことで学校の貴重な休みをつぶして、ここ賢者の島にやってきた私、シリル・マクリーンだが、待ち合わせの相手が見つからない。
「ねえシリルちゃん、本当にここで待ち合わせなの?」
「そのはずだけど…お母さん、ちょっとふらふらしないで。知らない場所で迷子になったらシャレにならないわよ」
今回は母がやたらついてきたがった。旅費は出してくれるというので甘えたが、うちの母はミーハーで困る。
「シリル、済まん、待たせた」
「レオナ!よかった、場所間違えたかと思った」
そう、待ち合わせの相手は…
「きゃああああ!!レオナくんかっこいい!!」
「お、お母さん…うるさいんだけど」
 そう。待ち合わせの相手はレオナ・キングスカラー。ここの学生で、マジフト部の部長。サバナクロー寮の寮長だ。だがこれだけ母が騒ぐ理由は、彼の扮装にあった。
「お、お袋さんも来たのか…」
「うん…。うるさくてごめんね。多分次回作の取材兼ねてるんだと思う」
「なるほどな」
私たちが肩を寄せてひそひそ話をしていると、はじけまくった母がやってきた。
「ね、ね、レオナくん!その衣装ってひょっとして”海賊と姫君”の?似合ってるわ~~~かっこいいわ~~~」

 そう、レオナは「海賊の扮装」で現れたのだった。

 「海賊と姫君」は、30年前に大ヒットしたロマンス小説を下敷きにした映画だ。幅広い層の女性に人気があり、原作はベストセラーでコンスタントに売れ続けている。
 内容は、海賊に身を落とした貴族の男性と、攫われたお姫様のラブロマンス映画だ。今までに3回リメイク版が作られている。最新のリメイク版は、お姫様がよわよわすぎて不評だった。
 次のリメイクは4回目、公開が2年後で、今迄悪役ばかりやってきたヴィル・シェーンハイトが主役の海賊「キャプテン・ハロウ」を演じると言うので話題になっている。あ、そうだ、ヴィルもここの学生だったっけ。
「う、うちの寮は今年のテーマが海賊ですので…」
「そうなのね~~~!!ね、ね、シリルちゃん。せっかくだからレオナくんとツーショット撮りましょうよ!!」
と言われて、私とレオナはくっつけられた。
「あああ、もうちょっと寄って!レオナくん、シリルの腰に手を回して~。そうそう、そんな感じ!もうちょっと頬を寄せて!シリルちゃん、もうちょっと恥ずかしそうな顔で~~~!!いい!!いいわその顔!!ああ、レオナくんイケメン!!顔良!!撮るわよ~~~!!」
 母はスマホを構えて何度もバシャバシャと写真を撮る。
「絶好調だな、相変わらず」
「すみません…なんか変なテンション入っちゃったみたい」
「作家のミーハー魂とやらが降臨したか」
そうなのだ。私の母はペンネームを「ジリアン・ローハイド」と言うロマンス小説界のベストセラー作家。新刊は確か、アンドロイドの男の子が人間の女の子に恋する話…的な?
「ほら見てみて~?”海賊と姫君”みたいじゃない。#海賊と姫君”#ハロウィンコス#娘の彼氏#ラブラブカップル#見守りたい#ハロウィンイベント#ナイトレイブンカレッジ …っと、投稿っ!!」
 あああ、マジカメにアップしやがった…恥ずい…
 人気作家のジリアンが私の母と知っている音楽院の友達もいるから、早晩レオナが私の彼氏だってバレちゃうに違いない。それはかなり恥ずかしい…。
「おお!!早速バズってる~~~このフォロワーのケイト君ってすぐいいね!くれるんだよね」
「…ケイトの奴何やってんだ…しかも拡散してやがる」
同級生らしい。なんかすごく恥ずかしくなってきた。
「と、とにかくっ!!いろいろ見て回ろうって」
私が母の背中を押してようやく学園に入った。レオナはすまなそうな顔をしていたが、済まないのは私だよ…。
「その恰好、似合ってる。本当にかっこいい」
「なんだ、惚れ直したか?」
レオナは私の頬に軽くキスした。
「悔しいけどかっこよすぎて」
「多分監督生とか暇してるから、お袋さんのガイドをやらせときゃいいだろ」
「人使いの荒い先輩ねぇ」
私が肩をすくめると、レオナはニヤリと笑った。そして耳元に囁いた。
「そのワンピースよく似合うぜ」
頬を染めた私の手をとって、レオナは跪いた。
「ではお嬢様、この海賊めが場内をご案内させていただきます」
 ああ、これじゃ海賊じゃなくて王子様だ。私は本当にレオナが「キャプテン・ハロウ」なんじゃないかと思い始めた。
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