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あなたと見る夜明け

 翌朝。
 メイフェア・ホテルのスイートルームにある、キングサイズのベッドの上でレオナは目を覚ました。
 前の晩はとにかく二人とも歩き疲れていて、ベッドに入ったら二人とも3秒で熟睡モードにはいった。そのおかげか、寝ざめはよかった。
 左腕がだるいと思ったら、どうやらシリルを腕枕していたようだった。しびれて上手く抜けない。もぞもぞしていると、傍らのシリルが目を覚ました。
「あ…おはようレオナ、何してるの」
「ああ」
レオナの様子に、シリルはそっと身を起こした。
「手がしびれた」
「あら、ごめんなさい…大丈夫?」
レオナはまたごろりと横になった。
「これじゃ手が使い物にならねえ。寝かせろ」
そして、せっかく起き上がったシリルをごろりとベッドに倒す。
「お前も寝ろ」
「せっかく起きたのに」
悪い顔をしたレオナがシリルに顔を近づけた。シリルは笑って、レオナの首に腕を回し、左の頬に自分の唇をそっと触れた。
「私、あなたを蹴っ飛ばさなかったみたいね」
 シリルはベッドに起き上がって、スイートルームの大きな窓を見やった。
「寒いね」
レオナはシリルの肩を抱き寄せ、「お利口に寝ていたぞ」と付け加えた。
「足が痛いからかな」
シリルは足を伸ばし、ふくらはぎを揉んだ。
「あんな踵の高い靴で歩き回るからだ」
シリルは困ったような顔をしてレオナに寄り添った。
 そのあと、二人はまたベッドに戻りまどろんだ。
「宿泊場所を押えてくれるとは言ってたけど、まさかお泊りになるとは思わなかったわ」
「たまにはいいじゃねえか。別に悪いことをしてるわけじゃない」
「そうなんだけど」
「お前と一緒にいたいのは俺のわがままだからな」
シリルと顔を合わせずレオナはそっぽを向いた。強がっているようでも本当は寂しいのかもしれない、と、レオナのしおれた耳を見てシリルは考えた。シリルは構ってほしいようにふらふらとまとわりつくレオナの尻尾に自分の尻尾を絡めた。
「…よく外泊の許可が下りたわね」
 そこはどういう手を使ったのか、レオナは明かさなかった。シリルもその点は特に突っ込む必要がないと思ったらしく、それ以上の追及はしなかった。

「ちょっと痛いんですけど」
レオナがやたらと頬に自分の頬を擦りつけるため、朝の少し伸びた髭の先が当たった。
「こうして俺の匂いをつけておいてやらないと、お前が誰のものかわからなくなっちまうからな」
そういうと返事を待たず、レオナはシリルの唇にそっと自分の唇を重ねた。優しいキスのあと、レオナはもう一度シリルを抱き締め、今度は唇の合間から舌を差し込み、シリルの舌に絡め、ちゅ、と音を立てて吸った。それがギリギリのところだった。驚いたシリルがかすれた声で「ちょっと今の、えっちだった」と呟き、レオナは自分のしたことの大胆さに改めて赤面した。耳がやたらとぴくぴく動くのは気づかなかったことにしようとレオナは考えた。それでも、シリルのしなやかな猫の尻尾がくるんとレオナの尻尾に巻き付くのを見て、彼女が怒ってはいないことを知って安心した。
「発情したか?」
「してない。まだ今はね」
「だろうな。…兆しはあるが」
「その時は、優しくしてください」
「ああ。思いっきり甘やかしてやるからな」
「ん」
レオナはシリルを自分の腕の中に収めた。シリルはレオナの胴に自分の腕を回して胸に抱かれ、心臓の音を聞いて安心した。
「そういえば」
まどろみかけたシリルの耳に、レオナの声が響いた。
「なに」
「コーヒー飲みたくないか」
「うん。欲しい」
「淹れてやる。待ってろ」
その後、暖かな部屋にコーヒーの良い香りが漂った。
「どうだ」
「美味しい…」
シリルは柔らかく微笑んだ。
「こんなにコーヒーを淹れるのが上手なんて知らなかった」
「まあな」
「本当に美味しいわ」
「結婚したら…毎朝淹れてやってもいいぞ」
シリルがレオナの顔を見ると、レオナは照れてそっぽを向いていた。耳がぴくぴくと動き、尻尾がやたらと暴れているのがおかしかった。シリルはレオナに寄り添い、レオナはシリルの体を抱き寄せた。シリルの耳が嬉しそうにぴくぴく動いているのを見て、レオナは心満たされる気分になった。
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