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食いしん坊万歳~グリム

「監督生さん、お暇ならお願いしたいことがあるのですが」
この人は、オクタヴィネル寮の寮長、アズール先輩。いや、今は「モストロ・ラウンジ」のマスターとしてボクのところに来ている。
「なんですか、先輩。変な契約とかじゃ」
「いえいえ、そうではありません。なに、簡単なことですよ。
  あなたとグリムさんに、うちの新メニューの試作品を食べていただいて、感想を伺いたいのです」
 アズール先輩は胡散臭そうな笑顔で僕を見た。
「なんで僕なんですか。寮の方で適任者がいるでしょう」
「それですと、味覚が偏ってしまいます。ですので、別の寮の方を呼んで試食会をすることにしたのですよ」
 裏のありそうな笑顔。い、いかんいかん。騙されないようにしなければ。
「よろしければ、あなたのお友達の1年生のみなさんもご一緒にどうでしょうか」
「…本当に裏はないんですよね」
「疑われるのは仕方がありません。ですが監督生さん。あなた最近食費が厳しくて困っているのでは?」
…バレたか。
 別に学園長がケチなわけではない。(そんなに余裕はないけど)
ただ、魔法薬学で使う材料が高騰していて、思わぬ出費があったのだ。
 ボクはアズール先輩の提案を受け入れた。

「本当に俺たちもいっていいのか?」
「うん、出来るだけ別の寮の人の話を聞きたいって」
「モストロ・ラウンジの新メニュー、楽しみなんだゾ」
「グリムは食べることばっかりだねえ」
ボクは結局、エース、デュース、エペルと一緒にモストロラウンジへ出かけた。エペルは大丈夫なのかと聞いたら、
「ヴィルサンに許可を取っているから大丈夫だよ」
と言うので大丈夫だろうと思った。

 すごいご馳走だった。
フロイド先輩は料理が上手い、と言うことは、賄いを食べさせてもらったことがあるから知っていたが、本当にこの人プロだ。
ジェイド先輩はお得意のキノコ料理中心だが、キノコとシーフードを組み合わせたピラフとか、なかなかこちらも美味しい。
「どうです、うちの新メニューは」
「あ、このピラフ、美味しいです!」
「それは、アサリの出汁がきいてるんですよ」
「このピーマンと海老の炒め物も旨い」
「てげ、う、うまっ」
「このスープは?」
「海藻とコラーゲンたっぷりのふかひれスープですよ。いかがですか」
「これはアーシェングロット先輩が?」
「アズールはスープを作るのも上手いんですよ」
いろいろ試食して、すっかりお腹がいっぱいだ。しかもどれも美味しい。
「本当にこの中から3品だけ加えるのって勿体ないですね」
「大幅にメニューを変えることもできませんからね。シーフードドリアや烏賊のソテーなど人気メニューも残したいですし」
ボクたちは人気投票をして帰った。本当に裏がなかったなんて珍しい。

 が。
その翌週、モストロ・ラウンジの新メニューが導入された日。
「これはこれは監督生さん、お待ちしていましたよ」
アズール先輩の眼鏡が光った。
それと同時に、ジェイド先輩からモストロ・ラウンジの制服ーオクタヴィネル寮の制服と同じデザインだがーをあの表情の読めない笑顔で手渡された。
「な、なんですかこれは」
今日はバイトのシフトの日ではないはずだが…
「おーい、ユウ!来てるならお前も手伝えよ」
声のしたほうを見ると、なんとエースがモストロ・ラウンジの制服を着てウエイターをやっている…似合わねー。
「え、エース?!」
「飯食いにきたのに働かされるなんて、アズールもひでえ奴なんだゾ」
「こ、これは…。裏がないって言ってましたよね」
「ハイ、別に契約ではありませんよ」
相変わらず、アズール先輩の胡散臭いニヤニヤ笑いは止まらない。
「今日は初日ですからね、メニュー選定に関わってくださった方が直接、お客様にアピールする方が効果的だと思いませんか?」
なんと、元々そのつもりだったのか。食べ物で釣っておいて、労働をさせる。ということは…今日はタダ働き?!
「ああ、監督生さんは今日はシフトの日ではありませんから、ボランティアと言うことで」

「ふなーーー!!!俺様こんなに皿運べないんだゾ」
「グリムさんは人一倍お召し上がりになってらっしゃいましたので、その分動いていただきませんと」
「頑張れ~」
「エース、俺様を助けるんだゾ」
「無理だっつーの。俺だってラウンジに出てんだ」
「デュースは…フロイド先輩とキッチンだ」
「ふなぁ~~~~」
「僕も手伝うから。頑張ろうグリム」

「小エビちゃ~ん、バイト代欲しかったら、閉店後の皿洗い手伝ってよ~。オレ今日は錬金術のレポートまとめるから早く上がりたいんだよね~」
キッチンのフロイド先輩もにやにやしている。

ちくしょー!!!

やっぱりこいつらを信用しちゃいけなかったんだ!!!
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