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君はまだ蛹~ヴィル

 その約束の4週間後。
すっかり痩せたイディスの姿に、ヴィルは目を見張った。
ヴィルはあらかじめ、酵素ジュースのレシピやトレーニングメニューのDVDなどを送っていた。指示通りのプログラムをこなしたのだろうが、これほど効果がてきめんに現れるとは。

 だが、イディスの顔に目を移して、ヴィルは違和感を感じた。なんだか顔色がくすんで見える。メイクまでは指導していないからおそらく素顔だろうが、健康的ではないとヴィルは感じた。髪もなんだか艶やかさがない。(どういうことかしら)
イディスは白地に紫の細いストライプのシャツに、黒のスカート。ボサボサだった髪は一応一つにまとめている。
「ずいぶん変わったわね」
「はい…」
おどおどしているのは相変わらずだが、妙に元気のないイディスの様子をヴィルは心配した。入試の面接練習をしているとメールに会ったが、成果が芳しくないのだろうか。
「受験勉強はどう?進んでいる?」
「なんとか…。模試の点数も少し上がったし、来週が面接の最終練習で」
「頑張ってるわね」
イディスは力なく微笑んだ。糖分の過剰摂取はなくなったが、この日はストレートの紅茶をちびちびとすすっているだけだ。ヴィルの話に相槌を打っているだけのイディスの顔色が白くなっていることに、イディスもヴィルも気づかなかった。
「で、来週…ちょっと!」
がしゃん!という音を立てて、イディスが手にしていた紅茶のカップが床に落ちて割れ、イディスも床に倒れ込んでしまった。
「どうしたの、イーディ!イーディ、こんなところで寝ちゃダメ!起きなさい!」
揺さぶろうとしたヴィルのところへカフェの店員が駆けつけてきた。
「すみません、カップを…」
「それはお気になさらないでください。お怪我はございませんでしたか」
「こちらは大丈夫ですが」
「こちらのお客様…これは…すぐ救急車をお呼びします」
青ざめたヴィルと、床に倒れたままのイディス。何が起こったのか周りの客も騒めく中、救急車がやってきた。

 イディスが倒れたのは低血糖だった。
それとともに、ずっと「食べないダイエット」をイディスがしていたことがわかった。
(あの子、筋力トレーニングもしてるって言ったのにどういうことなの…)

スマホの着信が何度もあった。ルークからだ。
「ああ、やっと捕まえたよ、毒の君。どこにいるんだい」
「病院よ」
「ああ!まさか君病気では」
「あたしじゃないわ。友人が体調を急に崩して。付き添いをしてるの。親御さんが来るまでは離れられない」
「そうかい…臨時寮長会議があるのに、君がいないからどうしたらいいかと思ったよ」
ヴィルは一瞬考えた。
「ルーク、あんた代わりに出て。副寮長だから学園長も文句はないでしょう。言い訳はそうね…取材が長引いたとでも言っといて」
察しのよいルークは、ぴんと来た。
「承知した。では代理で出るよ」
「助かるわ」
「その友人は、君にとってどんな存在なのだろうね、毒の君」
含みのある言葉を残して、ルークからの着信は切れた。
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