食いしん坊万歳~グリム
そういえば、ジャミル先輩に醤油味鯖缶のお礼を言うことをすっかり忘れていた。
あの後サムさんからお米を買ってご飯を炊き、醤油味ツナ缶を使ったおかずを作って食べたら美味しかった。カリム先輩が毒以外で好き嫌いをするなんてもったいない。
「あ、ジャミル先輩」
「ああ、監督生か」
「先日は鯖缶ありがとうございました」
「いや、なぜか大量に注文しちゃってたんで、こっちもありがたかった」
「お代は良かったんですか」
「俺は払ってもらったほうがいいと言ったんだが、カリムが”気にするな”というんでね」
「カリム先輩らしいですね」
「最も、在庫処分セールだから全部で2000マドルくらいだったが」
「え?!それはいけません、払いますよ!!」
ジャミル先輩は僕の顔の前で手をひらひらさせた。
「いいんだ。それより頼まれてほしいことがある」
明日、スカラビア寮で何かの宴が開かれる。
腕を振るうのは主にジャミル先輩だが、料理の手伝いをしてほしいということと、なぜかイデア先輩を誘ってほしいということなのだ。
ルーク先輩いうところの「自室の君」であるイデア先輩はひきこも…もとい、奥ゆかしい人なのと、学年も違い授業も重ならないため、挨拶くらいしか話した記憶がない。しかもタブレットだ。まともな話は…そういえば僕が以前、偶然食堂で出会ったイデア先輩に会った時に、前にいた世界で大流行したゲームに似た、「メタルサバイバー」っていうアドベンチャーゲームの話をしたら、その時だけはすごく真剣に聞いてたな。どこにいるんだろう、イデア先輩は。
「珍しいですね、イデア先輩がサムさんの店にいらっしゃるなんて」
イデア先輩はあっけなく捕まった。珍しくもサムさんのミステリーショップで何かを物色しているのを見つけたのだ。もちろんタブレット片手だ。
「せせせ、拙者も買い物くらいはす、するでござるぞ」
「また何か斬新な機械とか作るんですか?オルト君のチューンアップの材料の物色?それともゲームの設定資料集の注文とか」
「…監督生氏、人の行動を勝手に読まないでほしいでござる。これでも拙者、先輩でござるぞ。ああこれだから陽キャは勝手に人のエリアにずかずかと踏み込んでくるんだよな全く冗談じゃない、かなわないでほしいんだよ僕は静かに暮らしたいんだ」
早口で一気に話すイデア先輩、相変わらずだ。
「…イデア先輩、心の声駄々洩れですが。というか僕、どっちかってと陰キャですよ」
「ど、どこらへんが」
僕はイデア先輩の耳に息をふきかけ…もとい、囁いた。
「”スレッジファイター8020”」
「な、なんですと!!!!!」
それはゲーマーにだけわかる秘密の合言葉。
「ヤバイっすよ、あれ。全然攻略できなくて困ってるんすよ」
「ななななんと!!あの伝説のシューティングゲームに手を出した、とな?」
「うっす。僕、前いた世界でもシューティングゲームガチ勢だったって話したっしょ」
「…拙者、監督生氏は陽キャと一緒にいても何か違うと思っていたでござるよ」
「なんでですか…どこらへんが…」
「監督生氏は拙者と同じ匂いがするというのは間違っていなかったでござるよ。そうそう、スレッジファイターシリーズはオルトが好きなんだ。今度おしえてやろう」
オルト君のことになると、途端に表情が和らぐ。僕はイデア先輩の表情がほぐれたところで、ジャミル先輩からの伝言を告げた。
「ななななななんですと!!!む、無理無理無理無理無理無理!!!拙者がよ、陽キャの巣窟スカラビア寮へとか!あの陽キャオブ陽キャのカリム氏のう、宴に出るとか!爆死!」
また超高速な速さで一気に喋るイデア先輩。むせないのがすごい。
「…ジャミル先輩の頼みでも、ですか…」
「無理無理無理無理無理ゲー、あっ、拙者もう、死んだ」
「どうしたの兄さん」
ふわふわと空中を漂いながら来た青い小さい子…オルト君だ。
「お、オルト…」
僕はオルト君に、ジャミル先輩からのイデア先輩への伝言の話を繰り返した。
「それは、兄さんぜひ行くべきだよ!」
ニコニコしているオルト君。
「な、なぜ?だって他寮だよ、オルト。よりによってあのパリピのスカラビア寮のう、宴…」
「だって兄さん、お誘いしてきたのはカリム・アルアジームさんじゃなくて、ジャミル・バイパーさんなんでしょ」
「そ、そうなの、監督生?」
そうだった。お誘いはカリム先輩じゃなく、ジャミル先輩からなのだ。…不思議だ。副寮長のジャミル先輩がなぜ、他寮の寮長のイデア先輩を…二人の共通点なんてわからない。
「イデア先輩、お待ちしておりました」
「ジ、ジャミル氏…こ、これは…」
スカラビア寮のダイニングテーブルがメイド喫茶になっている…もちろん僕はメイド喫茶にはいったことがなくて、雑誌の知識しかないんだけど、まさにメイド喫茶の内装だ。そして、テーブルにはなんと「あなたのハートに萌え萌えきゅん」なんて書いてあるオムライスが…
「伝説のメイド喫茶のスーパーメイド、リン・リンリンちゃんの萌え萌えオムライスを再現してみました」
「な、なんですと~~~~???ジャミル氏、なぜ拙者がリンリンちゃんのファンだと…」
「実は、先輩にがけものことを教えていただいてから、過去のがけものファンブックやDVDを探したんです。そしたら、幻のがけもメンバーだったリン・リンリンちゃんのデータも出てきて…
どうですか、出来栄えは」
「じゃ、ジャミル氏~~~!!神オブ神!す、すばらしいでござる!!」
…って、イデア先輩完全にタブレットを使わず、素になっている。
「お誕生日おめでとうございます、イデア先輩」
「・・・おほっ?!」
「1日フライングですけど」
「じゃ、ジャミル氏~~~~~~!」
ジャミル先輩は、大きなリボンをかけた包みも取り出した。
「こ、これは、がけもファンクラブの先行予約で僕が出遅れて予約できなかった新作のパーカー…」
「自分用にと思ったんですが、先輩が例のサーバダウンで予約できなかったってオルト君に聞いたので」
イデア先輩の端正な顔(この人、顔だけはイケメンなんだよね)が崩れた。
「オイ、ごちそうがあるってカリムから聞いたから来たんだゾ」
グリムがカリムに連れられてやってきた。
「う、うまそうなオムライスなんだゾ」
「グリムの分もあるぞ。ケチャップで何書いてやろうか」
「じゃあトレインの顔を描くんだゾ。おいらが食っちまうんだゾ」
イデア先輩は涙でぐしゃぐしゃになった顔で僕に囁いた。
「か、監督生氏、ぼ、僕みたいな陰キャがこんなふうにお祝いしてもらってもいいのかな」
「いいんですよ、イデア先輩。たまにはいいでしょう、人に祝ってもらうのも」
その日のイデア先輩は、オムライスを3個平らげ、炭酸ジュースをきめてがけものパフォーマンスをスカラビア寮で披露するという今までにあり得なかった行動をとった。もちろんケイト先輩はそれを逃さず、
「#イグニハイド寮長」
「#ハッピーバースデー」
「#神対応乙」
「#キレキレダンス」
「#映えるサイリウム」
なんてタグをつけて、ノリノリのイデア先輩をマジカメにアップした。
イデア先輩は嫌がっていたが、意外とバズって
「イグニの寮長怖いと思ってたけど案外親しみやすい」
「ダンスいけてる」
「動いてるシュラウド先輩神」
などとコメントがたくさんついていたのを見ると機嫌を直したどころか、
「ふはははは、やっと拙者の時代がきたでござる」
などとキャラ崩壊していた…そっとしておいてあげよう。
あの後サムさんからお米を買ってご飯を炊き、醤油味ツナ缶を使ったおかずを作って食べたら美味しかった。カリム先輩が毒以外で好き嫌いをするなんてもったいない。
「あ、ジャミル先輩」
「ああ、監督生か」
「先日は鯖缶ありがとうございました」
「いや、なぜか大量に注文しちゃってたんで、こっちもありがたかった」
「お代は良かったんですか」
「俺は払ってもらったほうがいいと言ったんだが、カリムが”気にするな”というんでね」
「カリム先輩らしいですね」
「最も、在庫処分セールだから全部で2000マドルくらいだったが」
「え?!それはいけません、払いますよ!!」
ジャミル先輩は僕の顔の前で手をひらひらさせた。
「いいんだ。それより頼まれてほしいことがある」
明日、スカラビア寮で何かの宴が開かれる。
腕を振るうのは主にジャミル先輩だが、料理の手伝いをしてほしいということと、なぜかイデア先輩を誘ってほしいということなのだ。
ルーク先輩いうところの「自室の君」であるイデア先輩はひきこも…もとい、奥ゆかしい人なのと、学年も違い授業も重ならないため、挨拶くらいしか話した記憶がない。しかもタブレットだ。まともな話は…そういえば僕が以前、偶然食堂で出会ったイデア先輩に会った時に、前にいた世界で大流行したゲームに似た、「メタルサバイバー」っていうアドベンチャーゲームの話をしたら、その時だけはすごく真剣に聞いてたな。どこにいるんだろう、イデア先輩は。
「珍しいですね、イデア先輩がサムさんの店にいらっしゃるなんて」
イデア先輩はあっけなく捕まった。珍しくもサムさんのミステリーショップで何かを物色しているのを見つけたのだ。もちろんタブレット片手だ。
「せせせ、拙者も買い物くらいはす、するでござるぞ」
「また何か斬新な機械とか作るんですか?オルト君のチューンアップの材料の物色?それともゲームの設定資料集の注文とか」
「…監督生氏、人の行動を勝手に読まないでほしいでござる。これでも拙者、先輩でござるぞ。ああこれだから陽キャは勝手に人のエリアにずかずかと踏み込んでくるんだよな全く冗談じゃない、かなわないでほしいんだよ僕は静かに暮らしたいんだ」
早口で一気に話すイデア先輩、相変わらずだ。
「…イデア先輩、心の声駄々洩れですが。というか僕、どっちかってと陰キャですよ」
「ど、どこらへんが」
僕はイデア先輩の耳に息をふきかけ…もとい、囁いた。
「”スレッジファイター8020”」
「な、なんですと!!!!!」
それはゲーマーにだけわかる秘密の合言葉。
「ヤバイっすよ、あれ。全然攻略できなくて困ってるんすよ」
「ななななんと!!あの伝説のシューティングゲームに手を出した、とな?」
「うっす。僕、前いた世界でもシューティングゲームガチ勢だったって話したっしょ」
「…拙者、監督生氏は陽キャと一緒にいても何か違うと思っていたでござるよ」
「なんでですか…どこらへんが…」
「監督生氏は拙者と同じ匂いがするというのは間違っていなかったでござるよ。そうそう、スレッジファイターシリーズはオルトが好きなんだ。今度おしえてやろう」
オルト君のことになると、途端に表情が和らぐ。僕はイデア先輩の表情がほぐれたところで、ジャミル先輩からの伝言を告げた。
「ななななななんですと!!!む、無理無理無理無理無理無理!!!拙者がよ、陽キャの巣窟スカラビア寮へとか!あの陽キャオブ陽キャのカリム氏のう、宴に出るとか!爆死!」
また超高速な速さで一気に喋るイデア先輩。むせないのがすごい。
「…ジャミル先輩の頼みでも、ですか…」
「無理無理無理無理無理ゲー、あっ、拙者もう、死んだ」
「どうしたの兄さん」
ふわふわと空中を漂いながら来た青い小さい子…オルト君だ。
「お、オルト…」
僕はオルト君に、ジャミル先輩からのイデア先輩への伝言の話を繰り返した。
「それは、兄さんぜひ行くべきだよ!」
ニコニコしているオルト君。
「な、なぜ?だって他寮だよ、オルト。よりによってあのパリピのスカラビア寮のう、宴…」
「だって兄さん、お誘いしてきたのはカリム・アルアジームさんじゃなくて、ジャミル・バイパーさんなんでしょ」
「そ、そうなの、監督生?」
そうだった。お誘いはカリム先輩じゃなく、ジャミル先輩からなのだ。…不思議だ。副寮長のジャミル先輩がなぜ、他寮の寮長のイデア先輩を…二人の共通点なんてわからない。
「イデア先輩、お待ちしておりました」
「ジ、ジャミル氏…こ、これは…」
スカラビア寮のダイニングテーブルがメイド喫茶になっている…もちろん僕はメイド喫茶にはいったことがなくて、雑誌の知識しかないんだけど、まさにメイド喫茶の内装だ。そして、テーブルにはなんと「あなたのハートに萌え萌えきゅん」なんて書いてあるオムライスが…
「伝説のメイド喫茶のスーパーメイド、リン・リンリンちゃんの萌え萌えオムライスを再現してみました」
「な、なんですと~~~~???ジャミル氏、なぜ拙者がリンリンちゃんのファンだと…」
「実は、先輩にがけものことを教えていただいてから、過去のがけものファンブックやDVDを探したんです。そしたら、幻のがけもメンバーだったリン・リンリンちゃんのデータも出てきて…
どうですか、出来栄えは」
「じゃ、ジャミル氏~~~!!神オブ神!す、すばらしいでござる!!」
…って、イデア先輩完全にタブレットを使わず、素になっている。
「お誕生日おめでとうございます、イデア先輩」
「・・・おほっ?!」
「1日フライングですけど」
「じゃ、ジャミル氏~~~~~~!」
ジャミル先輩は、大きなリボンをかけた包みも取り出した。
「こ、これは、がけもファンクラブの先行予約で僕が出遅れて予約できなかった新作のパーカー…」
「自分用にと思ったんですが、先輩が例のサーバダウンで予約できなかったってオルト君に聞いたので」
イデア先輩の端正な顔(この人、顔だけはイケメンなんだよね)が崩れた。
「オイ、ごちそうがあるってカリムから聞いたから来たんだゾ」
グリムがカリムに連れられてやってきた。
「う、うまそうなオムライスなんだゾ」
「グリムの分もあるぞ。ケチャップで何書いてやろうか」
「じゃあトレインの顔を描くんだゾ。おいらが食っちまうんだゾ」
イデア先輩は涙でぐしゃぐしゃになった顔で僕に囁いた。
「か、監督生氏、ぼ、僕みたいな陰キャがこんなふうにお祝いしてもらってもいいのかな」
「いいんですよ、イデア先輩。たまにはいいでしょう、人に祝ってもらうのも」
その日のイデア先輩は、オムライスを3個平らげ、炭酸ジュースをきめてがけものパフォーマンスをスカラビア寮で披露するという今までにあり得なかった行動をとった。もちろんケイト先輩はそれを逃さず、
「#イグニハイド寮長」
「#ハッピーバースデー」
「#神対応乙」
「#キレキレダンス」
「#映えるサイリウム」
なんてタグをつけて、ノリノリのイデア先輩をマジカメにアップした。
イデア先輩は嫌がっていたが、意外とバズって
「イグニの寮長怖いと思ってたけど案外親しみやすい」
「ダンスいけてる」
「動いてるシュラウド先輩神」
などとコメントがたくさんついていたのを見ると機嫌を直したどころか、
「ふはははは、やっと拙者の時代がきたでござる」
などとキャラ崩壊していた…そっとしておいてあげよう。