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父の面影

 世界を平和に導く旅の途中。
ソルティコを久しぶりに訪れたグレイグは、勇者に頭を下げた。
「最終決戦に向けて、師匠のけいこをつけてもらいたい」
と。

 グレイグの師匠で、ソルティコの当主であるジエーゴは剣の達人でもあり、若き日のグレイグの剣の師匠でもあった。
「よいよい、グレイグどのが鍛錬されれば、大きな力になろうぞ。ベロニカたちも疲れていることだし、ジエーゴ殿も屋敷に泊まってよいと言ってくださるのじゃから、ここは甘えたらどうじゃ」
そうだね、おじいちゃん、と、勇者が答え、マルティナもベロニカもセーニャもお土産を見たりビーチで休息をしたい、ということで、女子たちはバカンスを、男子は鍛錬を、ということになった。
「…ってちょっと待て、俺もか」
「カミュちゃんも鍛錬したほうがいいわよ。アナタが切り込み隊長なんだから」
「っ、しょうがねえなあ。じゃあ相棒も鍛錬するし俺も残るか。で、シルビアはどうするんだ」
「アタシ?アタシはマルティナちゃんたちをカフェに案内して、それから戻ってくるわよ。待ってなくていいわよ」
女子たちはきゃあきゃあとはしゃいでいる。ロウがついていこうとすると、ベロニカが止めた。
「おじいちゃんは休んだほうがいいと思うよ」
「いや、わしはまだまだ動け…ぐえっ?!」
ロウはぎっくり腰になってしまった。また、ベロニカの話では、前の戦いで魔力をたくさん使ったために休息を十分にとったほうがよいということであった。
「おじいちゃんのグランドクロスが肝心なとこで出せなかったらこまるでしょ?アタシたちが何かおやつを買ってくるから、寝てらっしゃい」
孫のような娘に言われては仕方がない。

「ふっ!はっ!やあっ!」
「気合が足りんぞ!」
「たああああっ!!!」
「ツンツン頭のお前!お前は短剣だからもっと素早く動け!」
ジエーゴの鍛練は予想以上に厳しかった。しかも、自分の得意な騎士剣だけでなく、カミュの短剣や勇者が最近使い始めた大剣のことまで詳しい。
「さすがですね、ジエーゴさんは」
「そりゃそうでしょ。アタシのパパはすごいのよ」
もどってきたシルビアもいつの間にか服を着替えている。
「なんだゴリアテ、お前も稽古をつけてもらいたいのか」
「もちろんよ。アタシも腐っても騎士道を極めようとしたオトコ。パパをがっかりさせないようにがんばるわ」
「そうか。じゃあ構えろ」
シルビアとジエーゴの一騎打ちが始まった。華麗に空を舞い、剣さばきも優雅なシルビアは、この戦いの旅を重ねるうちに強くなっていた。
「隙あり!」
シルビアが踏み込み、ジエーゴはひっくり返った。
「ゴリアテ様の勝利!」
シルビアも肩で息をしながら、ジエーゴのもとに駆け寄った。
「ゴリアテ、てめえやるようになったな」
ジエーゴの目に涙がにじんでいる。
「パパ、どうしたのよ、泣いたりして」
「うっ、い、いや、俺は嬉しいんだよ、ゴリアテ。
 正直お前がどこまで騎士道を忘れずにいられるのかと思っていた。だが、なかなかやるじゃねえか。やっぱり俺の息子だ」

グレイグはそんな2人を見て呟いた。
「さすがゴリアテだ。面影は、師匠の所で見た奥方に、そして剣さばきは師匠譲りだ。

ゴリアテよ、お前は真の騎士だ」

 その後、二人揃って師匠のジエーゴから試練を与えられ、その試練を乗り越えたことが大きな戦力となることを、この時の二人は知らない。
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