君は我が光
デルカダールからクレイモランまでは、船で20日ほど。
途中いくつかの港に立ち寄りながらの長旅だった。
北に向かうにつれてどんどん体が冷えるようになり、ホメロスも上衣を余分に羽織り、普段は飲まない強めの酒を少し飲むようになった。
そんなころに、クレイモランの港に船が到着した。
クレイモラン城は氷の城だった。
「ホメロス将軍、待ちかねましたぞ」
「クレイモラン国王陛下、この度は私のようなものを重用していただき感謝の言葉もございません」
「いやいや、デルカダール王国は我が友好国。その国の優秀なお方をお借りするのはちと、気が引けましたが、何せ人が足りないので」
クレイモラン国王は、デルカダールの国王よりは少し年上の初老の男性だ。2年前の寒波のときに、これからホメロスが赴く古代図書館が酷い吹雪で人が近づけなくなり、兵士が何人も引き返してきた。そして今回の魔物の凶暴化だ。
「2年前の寒波で魔物の食料になるはずの小動物やキリクの実が取れなくなり、今では魔物同士が共食いをしているのではと言われております」
凛とした声が響き、眼鏡をかけた聡明そうな少女が入って来た。
「シャール」
「そちらの方が、デルカダールからおいでになった将軍閣下でございますか」
「ホメロスと申します」
「わたくしは、クレイモラン国王の第一息女、シャールでございます」
(これは愛らしいご令嬢だ。マルティナ様を見慣れていると、シャール様はとても線が細く見える)
「フンババも出るというのに、ホメロス様おひとりで大丈夫なのでしょうか。誰か護衛を」
「しかし、国境の警備に人をやってしまって王都も人が足りぬ」
「ご心配には及びません。魔物の討伐は、デルカダールでも時々やってきましたので。ただ、地図がないとたどり着けません」
「そのことなのですが、ホメロス様。もしご迷惑でなければ、わたくしを連れていってはいただけませんでしょうか」
ホメロスは驚いた。この線の細い姫君に何ができるというのか。
「わたくし、こう見えても魔法が少し使えます。足手まといにならぬようにいたします」
「シャールよ、大丈夫か」
「お父様。ホメロス様はデルカダールからの大切なお客様です。何かあればデルカダールの国王様に顔向けできません。それに、古代図書館への道は迷いやすいのです。ホメロス様が図書館にたどり着けないなどと言うことがあっては」
(大人しそうだが、やはり誇り高き姫だ)
凛とした眼差しで父王を見て自分の考えを述べるシャールに、ホメロスは最初の印象を訂正せねばならないと思った。どうやら、ただ大人しく守られているだけの姫ではなさそうだ。
(自ら切り込みに行かれるマルティナ様とは違うが、やはりこの方も姫君だ。お守りしなければ)
ホメロスはクレイモランに預けられている身として、主君の娘であるこの姫様をお守りしようと決心した。
途中いくつかの港に立ち寄りながらの長旅だった。
北に向かうにつれてどんどん体が冷えるようになり、ホメロスも上衣を余分に羽織り、普段は飲まない強めの酒を少し飲むようになった。
そんなころに、クレイモランの港に船が到着した。
クレイモラン城は氷の城だった。
「ホメロス将軍、待ちかねましたぞ」
「クレイモラン国王陛下、この度は私のようなものを重用していただき感謝の言葉もございません」
「いやいや、デルカダール王国は我が友好国。その国の優秀なお方をお借りするのはちと、気が引けましたが、何せ人が足りないので」
クレイモラン国王は、デルカダールの国王よりは少し年上の初老の男性だ。2年前の寒波のときに、これからホメロスが赴く古代図書館が酷い吹雪で人が近づけなくなり、兵士が何人も引き返してきた。そして今回の魔物の凶暴化だ。
「2年前の寒波で魔物の食料になるはずの小動物やキリクの実が取れなくなり、今では魔物同士が共食いをしているのではと言われております」
凛とした声が響き、眼鏡をかけた聡明そうな少女が入って来た。
「シャール」
「そちらの方が、デルカダールからおいでになった将軍閣下でございますか」
「ホメロスと申します」
「わたくしは、クレイモラン国王の第一息女、シャールでございます」
(これは愛らしいご令嬢だ。マルティナ様を見慣れていると、シャール様はとても線が細く見える)
「フンババも出るというのに、ホメロス様おひとりで大丈夫なのでしょうか。誰か護衛を」
「しかし、国境の警備に人をやってしまって王都も人が足りぬ」
「ご心配には及びません。魔物の討伐は、デルカダールでも時々やってきましたので。ただ、地図がないとたどり着けません」
「そのことなのですが、ホメロス様。もしご迷惑でなければ、わたくしを連れていってはいただけませんでしょうか」
ホメロスは驚いた。この線の細い姫君に何ができるというのか。
「わたくし、こう見えても魔法が少し使えます。足手まといにならぬようにいたします」
「シャールよ、大丈夫か」
「お父様。ホメロス様はデルカダールからの大切なお客様です。何かあればデルカダールの国王様に顔向けできません。それに、古代図書館への道は迷いやすいのです。ホメロス様が図書館にたどり着けないなどと言うことがあっては」
(大人しそうだが、やはり誇り高き姫だ)
凛とした眼差しで父王を見て自分の考えを述べるシャールに、ホメロスは最初の印象を訂正せねばならないと思った。どうやら、ただ大人しく守られているだけの姫ではなさそうだ。
(自ら切り込みに行かれるマルティナ様とは違うが、やはりこの方も姫君だ。お守りしなければ)
ホメロスはクレイモランに預けられている身として、主君の娘であるこの姫様をお守りしようと決心した。
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