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君は我が光

「なんと、私をクレイモランに」
デルカダール王からの勅命に、騎士ホメロスは目を丸くした。
いつも自分の傍らにいる騎士グレイグは、この時珍しく不在だった。友好国であるユグノアのイレブン王子が修業を終えて国へ戻ったため、稽古をつけるためにユグノアへ出向いていたのだ。
「クレイモランの王国の北にある図書館の話は、おぬしも知っておろう」
「はい、古代の文献が多く保管されていると」
「図書館付近の魔物がこのところ、暴れておるようだとクレイモランの国王から聞いたのだ」
「はあ」
「魔物退治に一人、優秀な騎士を貸してほしいとのことだが」
「なぜ私なのです、グレイグではなく」
「それはな」
 デルカダール王は話を始めた。
ホメロスは剣の技術も高いが、むしろ文官としての才に満ちている、というのが王の見定めだった。古代図書館では通いの職員が魔物に襲われてけがをして人手不足になっており、管内の書庫整理の手伝いも頼みたい、とのことだった。
「先日お主が読んでおった本」
「…古代魔道具の手引き、ですか」
「あれの続きが古代図書館にはある。いや、うちの書庫にはない文献が多く、書庫整理さえ手伝ってもらえれば、文献はいくら読んでもよいとのことだ。これでも承知できないか」
「そ、それは…勿体ないおことばです」
ホメロスは王の命に従って、クレイモランへ出向くことになった。

 だが、これに異を唱えたものがいる。
ほかならぬ、マルティナ王女だった。
「姫は何をそんなに拗ねておられるのです」
「だって、グレイグもユグノアにいってしばらく帰らないし、ホメロスまでクレイモランに行ってしまったら誰がわたくしの剣の稽古をつけてくださるの」
(それか…)ホメロスは頭を抱えた。
 マルティナ王女からはもとより、自分が男として見られているとは思っていない。王女の自分への扱いはぞんざいすぎるし、おそらく何でも言うことを聞いてくれる兄代わり、と言う程度にしか思っていないだろう。それでも、王女が幼少の頃母を亡くしてから、寂しい思いを抱いてきたことをホメロスは知っていた。いずれどなたか相応しい男性のもとに嫁がれるのか、あるいは女王として婿を取られるかわからないが、身寄りのないホメロスとしてはマルティナの傍にずっとお仕えしよう、と考えていたのだ。
(だが、国王陛下よりの任命、何よりクレイモランの国王に望まれているのでは仕方あるまい)
 ホメロスは「そのうち戻ります」とは伝えなかった。任務がどれくらいになるのかもわからぬのに、無用なことを口にして期待させれば、かえってマルティナを傷つけると考えたのだ。
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