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夜の眷属との出会い

 次に、いち華が零と会話をしたのは、2週間ほどあとだった。

 どういうわけか、零が店に来る時間帯は比較的客足が落ちる頃で、あのUNDEADの朔間零が来たと騒ぐファンらしき女の子たちもいない、静かな時間だ。
「いらっしゃいませ」
「ああ、嬢ちゃんか」
この日も黒い革ジャンに黒のTシャツ、黒い革のパンツ、ブーツという黒づくめのいでたちの零は、制服替わりのエプロンをして立っているいち華よりも目線が高かった。
「ご注文をお伺いします」
「ふむ…お勧めはあるかや」
「今日は紫芋のタルトがまだございます。コーヒーにも、紅茶にも合いますね」
「ではそれと、アメリカン珈琲のホットをいただこうかの」
「はい、お席にお持ちしますね」
この店はL弗が使えるため、零はリーダーにコードをかざして支払いを済ませ、前回と同じ席に陣取った。

「お待たせしました。アメリカンと紫芋のタルトです」
いち華がトレイをテーブルに載せると、零と目が合った。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
思いのほか柔らかい声に、いち華は心臓をぐっと掴まれたような衝撃を受けた。改めて零を見下ろす位置から眺める。
 やや癖のある黒髪。よく見ると耳にピアスがある。UNDEADの紹介ページには吸血鬼の末裔なんて書いてあるが本当だろうか。
「どうしたかや」
「い、いえ…失礼しました」
いち華は慌てて戻った。カウンターに入り、呼吸を整える。
(どうしたんだろう、私…)
心臓の鼓動が止まらなかった。

 零に再会した翌日から、いち華は配信のUNDEADの曲をダウンロードした。
(自分と年が変わらないはずなのに、この凄みと色気はなんなんだろう)
外見の持つ野性的な印象と、人生を達観したような年寄りくさい口調が妙にハマる。いち華は零のことを知りたくなった。

(そういえば、カフェの近くのライブハウスでこの人よく見る…。薫くんっていうんだ)
 いち華は羽風 薫の紹介を見て気づいた。私服姿しか見ていないので随分大人っぽく、しかも女の子に取り囲まれていたのでいち華は苦手だった。だが、たまたまつけたTVのバラエティトーク番組で、イケメンなのになかなかポンコツな受けごたえをしている薫を見て、印象を替えた。
 そういえば薫は最近は女の子を引き連れてはいない。背の高い水色の髪の子と話していたが、あの子は水族館の子だ。同級生なのだろう。水族館の子は昔「かみさま」だったと聞いた。夢ノ咲学院のアイドル科の子はやはり、普通の子と違うといち華は思った。

 UNDEADでは、零と薫が二枚看板と言われていて、他にエキゾチックな風貌の「アドニス」と、ギターをかき鳴らすワイルドな「晃牙」という子たちがいることもわかった。そういえば、「アドニス」くんは時々カフェで見る、と、いち華は気づいた。体は大きいのに、物腰柔らかく優しい声で話す。フードのオーダーは決まって「肉が入っているもの」。「晃牙くん」と待ち合わせていることも多い。アドニスくんは夢ノ咲学院の制服を着た髪が長く帯刀している「神崎くん」という子と一緒にいるのも見かけた。
 晃牙くんは、アドニスくんと二人でいるのをよく見かけた。カフェで零と一緒にいる晃牙くんを仕事中にいち華は見かけたが、零は「わんこ」といってあしらっていた。確かに犬みたいな子だなといち華は思った。

 こうして、いち華がUNDEADのことを少しずつ知っていった矢先、また零と会うことになった。
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