三話
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三話
今からですか?と乾いた声で女が聞き返したので、尾形は薄く笑った。
随分大胆な事を言った割には、自分という存在に怯えているのが見て取れて、なんだか可笑しかった。
「お望みとあらばな。しかし悪いが、俺はそろそろ兵舎に戻る」
兵舎?と聞き返されたので、尾形は肩章の聯隊番号、27を指差す。
「俺は陸軍第七師団歩兵第27聯隊所属だ。兵舎ってのは兵士が普段詰めている場所のことだ」
「陸軍…尾形さん、本物の兵隊さんだったんですね」
見りゃわかるだろと答えたが、女は珍しそうに軍服を眺めている。
「……お前先の世から来た割に、何も知らないんだな」
「軍隊は、私の世では解体されているんですよ。…尾形さん、私のこと頭がおかしい人だと思ってますよね。さっき脳病院?とか言ってましたし。まあ、無理ないですけど…」
「急に100年先から来たと言われて、信じる方が少ないだろ」
そうですよね、と言うと女は遠くを見るような目をした。
ここでは無い、どこか知らない場所を見るような。
そのまま消えてしまうのでは、とあり得ない想像が頭をよぎり、自嘲的な笑みが浮かぶ。なんて馬鹿馬鹿しい想像だろう。
「…兵舎に部外者は入れないから、お前の面倒を見ることは出来ん。アテが無いならしばらくは宿にでも泊まるしか無いだろうな。路銀はあるのか」
「一応、元いた所の現金はありますけど…」
そう言うと、女は荷物から財布を取り出して中を見せたが使えそうな代物ではない。
尾形はため息をつくと しょうがねぇ、と言う。
「俺が多少の金を持たせてやるから、それで数日は凌げ。贅沢するんじゃねぇぞ。野宿が一番手っ取り早いが、お前には無理そうだからな」
彼は遠慮なく上から下までジロジロ見ると、フンと息を吐く。
「いいんですか?お金まで……いつか必ず返します」
尾形はその言葉を受け流すようにすると、再び口を開いた。
「あと問題は格好だな。今すぐ全部脱げ」
「えっ。いやいや、ちょっと何言ってるんですか」
「なんだよ。自分じゃ脱げないのか?」
いや、そういう問題じゃなくて…とナマエが言い淀んでいると、尾形は背嚢の毛布を広げて彼女にかけた。
「さっさと脱げよ。それ着て街に降りられると思ってんのか?」
お前の体なんて興味ねえよ、と尾形は言うと、ふいと後ろを向いて座る。
これはいよいよ脱ぐしかなさそうだとナマエは判断して、ゆっくりとダウンのファスナーに手をかけた。
途端に冷え切った空気が入ってきて身震いする。
これを全て取り払うのかと思うと辛くなった。
明治時代に違和感がない、着物でも用意してくれるのだろうか。
脱いだ服はリュックに入れていたビニール袋に仕舞って、口を縛っておく。
「お、おがたさん……さ寒いんですけど……」
数分後、言われた通り全て脱いだナマエは毛布に包まってガタガタと震えた。
寒すぎて、恥ずかしいとか言っている場合ではない。
その声でくるりと振り返った彼は、口元に笑みを浮かべる。
「ハハッ、だろうな。2月の小樽で毛布一枚なんだからな」
尾形は何か愉快なものでも見たかのような反応を示したあと、今度は泥や土で身体を汚せと命じる。
「えっ…なんでそんなこと…」
「いいか、お前は未来から来た女じゃなくて追い剥ぎに身ぐるみ剥がされて、乱暴された挙句記憶を無くしたって事にでもしておけ。これからそこら辺の家に行って、着物を手に入れるぞ」
「ええ…」
アグレッシブすぎる展開に、ナマエは頭を抱えたくなったが、尾形は適度な泥のあたりを指差して、早くしろよと言わんばかりに彼女を見ている。
ナマエは色々と諦めると、しゃがんで泥を手に取った。
♢
「なかなかいい感じだぜ」
「そうですか……」
ナマエは今、人生で一番無残な状態だった。
これならば、追い剥ぎのくだりは誰もが信じてくれるだろう。
尾形はナマエの荷物を笹薮の中に注意深く隠すと、歩き始めたので彼女も慌てて後を追った。
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今からですか?と乾いた声で女が聞き返したので、尾形は薄く笑った。
随分大胆な事を言った割には、自分という存在に怯えているのが見て取れて、なんだか可笑しかった。
「お望みとあらばな。しかし悪いが、俺はそろそろ兵舎に戻る」
兵舎?と聞き返されたので、尾形は肩章の聯隊番号、27を指差す。
「俺は陸軍第七師団歩兵第27聯隊所属だ。兵舎ってのは兵士が普段詰めている場所のことだ」
「陸軍…尾形さん、本物の兵隊さんだったんですね」
見りゃわかるだろと答えたが、女は珍しそうに軍服を眺めている。
「……お前先の世から来た割に、何も知らないんだな」
「軍隊は、私の世では解体されているんですよ。…尾形さん、私のこと頭がおかしい人だと思ってますよね。さっき脳病院?とか言ってましたし。まあ、無理ないですけど…」
「急に100年先から来たと言われて、信じる方が少ないだろ」
そうですよね、と言うと女は遠くを見るような目をした。
ここでは無い、どこか知らない場所を見るような。
そのまま消えてしまうのでは、とあり得ない想像が頭をよぎり、自嘲的な笑みが浮かぶ。なんて馬鹿馬鹿しい想像だろう。
「…兵舎に部外者は入れないから、お前の面倒を見ることは出来ん。アテが無いならしばらくは宿にでも泊まるしか無いだろうな。路銀はあるのか」
「一応、元いた所の現金はありますけど…」
そう言うと、女は荷物から財布を取り出して中を見せたが使えそうな代物ではない。
尾形はため息をつくと しょうがねぇ、と言う。
「俺が多少の金を持たせてやるから、それで数日は凌げ。贅沢するんじゃねぇぞ。野宿が一番手っ取り早いが、お前には無理そうだからな」
彼は遠慮なく上から下までジロジロ見ると、フンと息を吐く。
「いいんですか?お金まで……いつか必ず返します」
尾形はその言葉を受け流すようにすると、再び口を開いた。
「あと問題は格好だな。今すぐ全部脱げ」
「えっ。いやいや、ちょっと何言ってるんですか」
「なんだよ。自分じゃ脱げないのか?」
いや、そういう問題じゃなくて…とナマエが言い淀んでいると、尾形は背嚢の毛布を広げて彼女にかけた。
「さっさと脱げよ。それ着て街に降りられると思ってんのか?」
お前の体なんて興味ねえよ、と尾形は言うと、ふいと後ろを向いて座る。
これはいよいよ脱ぐしかなさそうだとナマエは判断して、ゆっくりとダウンのファスナーに手をかけた。
途端に冷え切った空気が入ってきて身震いする。
これを全て取り払うのかと思うと辛くなった。
明治時代に違和感がない、着物でも用意してくれるのだろうか。
脱いだ服はリュックに入れていたビニール袋に仕舞って、口を縛っておく。
「お、おがたさん……さ寒いんですけど……」
数分後、言われた通り全て脱いだナマエは毛布に包まってガタガタと震えた。
寒すぎて、恥ずかしいとか言っている場合ではない。
その声でくるりと振り返った彼は、口元に笑みを浮かべる。
「ハハッ、だろうな。2月の小樽で毛布一枚なんだからな」
尾形は何か愉快なものでも見たかのような反応を示したあと、今度は泥や土で身体を汚せと命じる。
「えっ…なんでそんなこと…」
「いいか、お前は未来から来た女じゃなくて追い剥ぎに身ぐるみ剥がされて、乱暴された挙句記憶を無くしたって事にでもしておけ。これからそこら辺の家に行って、着物を手に入れるぞ」
「ええ…」
アグレッシブすぎる展開に、ナマエは頭を抱えたくなったが、尾形は適度な泥のあたりを指差して、早くしろよと言わんばかりに彼女を見ている。
ナマエは色々と諦めると、しゃがんで泥を手に取った。
♢
「なかなかいい感じだぜ」
「そうですか……」
ナマエは今、人生で一番無残な状態だった。
これならば、追い剥ぎのくだりは誰もが信じてくれるだろう。
尾形はナマエの荷物を笹薮の中に注意深く隠すと、歩き始めたので彼女も慌てて後を追った。
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