二話
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二話
女が目覚める前に、尾形は目を開けた。
身を起こすと、昨日見つけた妙な女が丸まって眠っている。
その顔は見れば見るほど柊子にそっくりで、子どもの頃のことを強制的に思い出させる。
この女は随分暖かそうな格好をしている。
外套は綿が入っているかのように膨らんでいて、水を弾くのか雪がついてもシミにならない。
靴も底が滑りにくいような仕様になっているようだし、熱が逃げないような作りになっているのか、火にあたり始めるとそこまで寒がらなかった。
手袋にいたっては完全防水らしく、いくら雪を触っても平気のようだ。
背嚢も薄く軽い布でできていて、機能的だ。
この女の風貌や持ち物は全ておかしかったが、尾形にとってそれ以上に興味があるのは、柊子とどのような関連性があるのか、と言うことだった。
もし顔が柊子にそっくりでなければ、自分が渡した手鏡を持っていなければ、あのまま山に放置しただろう。
尾形は今隊を離れて単独行動しているところだったので、変に見つかるのは厄介だった。
この女は何者なのだろう。
話を聞いてみると柊子ではないと彼女は主張している。
言い分を全て信じるとしたら、この女は100年以上先の世から現れたことになるが、さすがに考えにくい。
となると、柊子の頭がおかしくなって変な言動をしているとするのが妥当だろう。
持ち物は舶来品か何かで、金持ちから貰ったのかもしれない。
だとしたら、あの田舎の貧しい農村出身の女から大した出世だ。
そこまで考えていると、女が寝心地が悪そうに眉をひそめたかと思うと、ゆっくりと目を開けた。
「痛たた……地べたに寝るって、きついですね……」
のそりと身を起こすと、腰や肩をさする。
「あ、どうも…お早うございます」
女は目をしばしばさせてから、あたりを見回すと心細げにした。
「今日も晴れてますね。あの、すみませんが、小樽市内までの道はご存知ですか。案内して頂きたいのですが」
「……構わん。だがお前、その変な格好で町に降りるつもりか?相当悪目立ちすると思うが」
尾形は上から下までジロジロと見てから言うが、女は腑に落ちないと言うように彼を見返した。
「そんなに変ですかね。まあ、小樽は町観光がメインだしトレッキング姿は少数派かもしれないですけど……尾形さんのほうが、よっぽど目立つというか、それ見られたら警察沙汰じゃないですか?」
女は小銃を指差しながら言った。
「警官なんてサーベルしか持ってないだろ。兵士相手に何ができる」
女の言葉は尾形もまた納得出来るものではなかったが、会った時から話しが噛み合わないのでもう放っておくことにした。
女もそれは同じと見えて、それ以上追求してこなかった。
とにかく、一刻も早く町に降りたいと思っているようだ。
尾形が焚き木の後始末をすると、二人は街へ向かって出発した。
女は嫌がったが、目立つので背嚢に取り付けてある毛布を被せる。
「……ところで、お前小樽に帰る場所のアテはあるのか。茨城に住んでいるような口ぶりだったが」
「小樽にホテルを取ってあります。今日チェックアウトして、空港に行かないと」
尾形はちらりと彼女の表情を伺った。
奇妙な言動とはちぐはぐに、心身ともに健康そうに見える。
返ってそれが不気味で、本当に頭がおかしくなってしまったのかもしれないと尾形は確信を深めた。
半日ほど歩いて、街に近づいてきた。
人の気配に女は安心したのか、足取りが軽くなったように見受けられる。
しかし尾形は、毛布をとってすぐにでも街に降りていこうとした女の腕を、掴んで引き止めた。
「ちょっと待て。木の陰から双眼鏡を使って街の中を見てみろ。お前がどれだけ変な格好かわかるだろうよ」
そう言われて、彼女は渋々言われた通りにした。
随分長い間双眼鏡を覗いているので尾形はちらりと女の方をみると、目を見開いて呆然としている。
やがて絞り出すような声で、尾形に問いかけた。
「尾形さん……今、何年って言ってましたっけ」
「明治四十年」
女の手がだらりと垂れて、双眼鏡が雪の上に落ちた。
いつまで経っても動こうとしない女を、尾形は注意深く観察するように眺めていた。
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女が目覚める前に、尾形は目を開けた。
身を起こすと、昨日見つけた妙な女が丸まって眠っている。
その顔は見れば見るほど柊子にそっくりで、子どもの頃のことを強制的に思い出させる。
この女は随分暖かそうな格好をしている。
外套は綿が入っているかのように膨らんでいて、水を弾くのか雪がついてもシミにならない。
靴も底が滑りにくいような仕様になっているようだし、熱が逃げないような作りになっているのか、火にあたり始めるとそこまで寒がらなかった。
手袋にいたっては完全防水らしく、いくら雪を触っても平気のようだ。
背嚢も薄く軽い布でできていて、機能的だ。
この女の風貌や持ち物は全ておかしかったが、尾形にとってそれ以上に興味があるのは、柊子とどのような関連性があるのか、と言うことだった。
もし顔が柊子にそっくりでなければ、自分が渡した手鏡を持っていなければ、あのまま山に放置しただろう。
尾形は今隊を離れて単独行動しているところだったので、変に見つかるのは厄介だった。
この女は何者なのだろう。
話を聞いてみると柊子ではないと彼女は主張している。
言い分を全て信じるとしたら、この女は100年以上先の世から現れたことになるが、さすがに考えにくい。
となると、柊子の頭がおかしくなって変な言動をしているとするのが妥当だろう。
持ち物は舶来品か何かで、金持ちから貰ったのかもしれない。
だとしたら、あの田舎の貧しい農村出身の女から大した出世だ。
そこまで考えていると、女が寝心地が悪そうに眉をひそめたかと思うと、ゆっくりと目を開けた。
「痛たた……地べたに寝るって、きついですね……」
のそりと身を起こすと、腰や肩をさする。
「あ、どうも…お早うございます」
女は目をしばしばさせてから、あたりを見回すと心細げにした。
「今日も晴れてますね。あの、すみませんが、小樽市内までの道はご存知ですか。案内して頂きたいのですが」
「……構わん。だがお前、その変な格好で町に降りるつもりか?相当悪目立ちすると思うが」
尾形は上から下までジロジロと見てから言うが、女は腑に落ちないと言うように彼を見返した。
「そんなに変ですかね。まあ、小樽は町観光がメインだしトレッキング姿は少数派かもしれないですけど……尾形さんのほうが、よっぽど目立つというか、それ見られたら警察沙汰じゃないですか?」
女は小銃を指差しながら言った。
「警官なんてサーベルしか持ってないだろ。兵士相手に何ができる」
女の言葉は尾形もまた納得出来るものではなかったが、会った時から話しが噛み合わないのでもう放っておくことにした。
女もそれは同じと見えて、それ以上追求してこなかった。
とにかく、一刻も早く町に降りたいと思っているようだ。
尾形が焚き木の後始末をすると、二人は街へ向かって出発した。
女は嫌がったが、目立つので背嚢に取り付けてある毛布を被せる。
「……ところで、お前小樽に帰る場所のアテはあるのか。茨城に住んでいるような口ぶりだったが」
「小樽にホテルを取ってあります。今日チェックアウトして、空港に行かないと」
尾形はちらりと彼女の表情を伺った。
奇妙な言動とはちぐはぐに、心身ともに健康そうに見える。
返ってそれが不気味で、本当に頭がおかしくなってしまったのかもしれないと尾形は確信を深めた。
半日ほど歩いて、街に近づいてきた。
人の気配に女は安心したのか、足取りが軽くなったように見受けられる。
しかし尾形は、毛布をとってすぐにでも街に降りていこうとした女の腕を、掴んで引き止めた。
「ちょっと待て。木の陰から双眼鏡を使って街の中を見てみろ。お前がどれだけ変な格好かわかるだろうよ」
そう言われて、彼女は渋々言われた通りにした。
随分長い間双眼鏡を覗いているので尾形はちらりと女の方をみると、目を見開いて呆然としている。
やがて絞り出すような声で、尾形に問いかけた。
「尾形さん……今、何年って言ってましたっけ」
「明治四十年」
女の手がだらりと垂れて、双眼鏡が雪の上に落ちた。
いつまで経っても動こうとしない女を、尾形は注意深く観察するように眺めていた。
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