今日も明日も
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「ちょっ……何してんの!涙出てるじゃん!」
私がキッチンで玉ねぎのみじん切りをしていると、佐一くんが飛んできた。今日は佐一くんの家にお邪魔して、夕飯にハンバーグを作ってあげることになったので、こうして料理をしている。彼のキッチンはさほど汚れていない。普段あまり料理をしないからだ。
「もぉ〜、こういうのは俺がやるから言って?ナマエちゃんは手洗って座っててよ」
「佐一くん、ハンバーグの作り方知ってるの?」
「……検索する」
「一緒につくろうか」
そう言うと、佐一くんは いいねぇ、と言って嬉しそうに笑った。早速包丁を握ると、私が切っていた玉ねぎに刃を入れるが、とたんに彼は顔をしかめると、目をしばしばさせながら手元を見やった。
「しみる……」
「結構来るよね。でも玉ねぎがしみるのって若い証拠らしいよ」
「へぇ〜」
玉ねぎを切り終えて、ひき肉や卵、パン粉が入ったボウルに入れる。混ぜればいいんだよね?と言いながら、佐一くんは大きな手のひらをボウルに入れた。私はその間にフライパンを出したり、同時に作っていたスープの様子を見たり、サラダがわりにトマトをくし切りにしたりする。料理に使う道具は、佐一くんと付き合い始めてから少しずつ揃えた。その度に、新婚さんみたいだ、と言って照れるので、私まで恥ずかしくなってしまう。
「どう?これをハンバーグの形にするんだよね?」
そうそう、と返事をすると、彼はタネを持って何かを一生懸命に作っている。不思議に思って覗き込んでみると、歪なものがバットの上に乗せられていた。
「……ハート。どうかな」
へへ、と佐一くんは笑ったが、どう見てもハートには見えない。私は可愛い可愛いというと、さりげなく手を加えてハートの形に形成する。
「やっぱ上手い!さすがナマエちゃんだぜ」
佐一くんは陽だまりのような笑顔になって言うと、温めたフライパンにハンバーグを入れた。もう一つもハート形にすると、隣に並べて焼き始める。ジュウジュウと焼く音と共に、食欲をそそる香りがキッチンに立ち込めた。私達は手を洗うとハンバーグの様子を眺めていたが、不意に佐一くんの掌が私の腰に回される。
「今日さ……すごい楽しい。お昼食べて、買い物行って料理してさ」
そう言うと、彼は私の髪に唇をつけてから、再び口を開いた。
「こういうのが、毎日だったらいいのにな」
「……毎日?」
私が聞き返すと、佐一くんはしみじみと言う。
「そう。ずっと」
そっと顔を上げると、彼はハッとした表情でこちらを見返している。ハンバーグをそろそろひっくり返さなくてはならない。私はフライ返しを手に取ると、佐一くんの腕の中から一歩進み出て、ほんの少し焦げた二つのハートを裏返す。
「……いいね、毎日。佐一くんに玉ねぎ切ってもらってさ。それで一緒に同じものを食べて……」
そこまで言うと、佐一くんはフライ返しを持った私を後ろから抱きしめた。力強く、ぎゅうっと。
「……俺、なんでも切るよ。かぼちゃでも玉ねぎでも。他にも……君の為ならなんだってする。だから…」
俺と結婚して、と熱を帯びた声が囁く。私は言葉に詰まって何も言えなくなってしまった。熱い感情が私の体内を駆け巡るのを感じる。そんな私の唇を、佐一くんはそっと塞いだ。この何でもない一日をずっと続ける事ができるなんて、なんて素敵なんだろう。うん、と小さな声で答えると、佐一くんはますます強く私を抱きしめた。絶対に離さない、とでも言うように。
「……ハンバーグ焦げちゃうよ」
「あっ、そっかごめん……よそうの俺がやるから」
私達はお皿を出したり、カトラリーを用意する。少し焦げたハートのハンバーグが、2人がけのテーブルに並んだ。いつか玉ねぎが目にしみない日がやってきたら、今日のことを思い出すだろうか。歳を取った佐一くんはどんな風だろう。幸せそうにハンバーグを頬張る彼を見ながら、そんな事を考えた。
おわり
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