憧れ
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冷蔵庫の片隅に、買ったチョコレートをひっそりと置いて、ナマエは日々仕事をした。
チョコレートは迷った末に二つ買った。
一つはベルギーの有名店のもの、もう一つは新潟の梅酒を使ってあるというチョコレート。
鶴見部長はお酒を好まないし、渡そうと思っているのはベルギーの方だ。
梅酒のチョコレートは、口に入れると、とろりと溶けて梅酒の香りがふわりと鼻をくすぐる。
新潟、というところに惹かれて買った。
鶴見部長は新潟で、どんな生活をしていたのだろう。
そんなことに思いを馳せながら、店員さんが差し出した紙袋を受け取ったのだった。
そして買ってしまった後に考えることでは無いのだが、そもそも鶴見部長にチョコレートを渡すことは迷惑ではないだろうか。
交際している女性がいるかもしれないし、ただの部下から妙に気合の入ったチョコレートを貰っても、立場もあるし困るだけかもしれない。
それに年も離れているし、相手にすらされない可能性もある。
考えれば考えるほどマイナス思考に陥り、鶴見部長の顔を見るたびに心の奥がギュッと捻れるような気がした。
そんなことでミスをしては情けないので、いつも以上に神経を尖らせて業務にあたる。
「ミョウジさん。ちょっとこちらへ」
重役との会議が終わり、部長室に戻ってから鶴見部長はナマエを呼んだ。
はいと返事をして、デスクの椅子に腰掛けている彼の前まで行くと、鶴見部長はじっとナマエの目を見つめた。
「やっぱりこのところ元気がないね。ミョウジさんは真面目に仕事をこなしてくれるから、私は助かっているが……今日は早めに帰りなさい」
鶴見部長はそう言うと、ゆったりとした微笑みを浮かべた。
全然疲れてなんかいない、もっとあなたのことを見ていたい。
そんな言葉を心の中で叫ぶけれど、ナマエは言葉を飲み込む。
「私は大丈夫です……お心遣いありがとうございます。あの、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
「なんだい。言ってみなさい」
「明日の夜は、少しお時間ありますか」
明日は2月14日、金曜日だ。緊張しながら問いかけると、鶴見部長は少し笑ってから答えた。
「ふふ、私の予定は君が管理している筈だが」
ナマエは口ごもってから、決心してもう一度口を開く。
「業務後のご予定です」
鶴見部長は特に表情を変えなかった。
少し待って、と言うと引出しを開けて手帳を取り出す。
艶やかな革張りのそれは、鶴見部長の手によく似合っていた。
「空いているよ。……では、明日の夜の予定はミョウジさんだね」
そう言うと、鶴見部長は胸ポケットから持ち重りのしそうなボールペンを取り出して、さらりと予定を書きつけた。
ありがとうございます、とお礼を言って、足が浮いているような感覚で帰り支度をして帰路に着く。
電車に乗って改札を出て、家まで歩いて部屋に入る。
手を洗って着替えてようやく、実感がふつふつと湧いてきた。
好きな人と話して、約束をした。
チョコレートも、日の目を見ることができそうだ。
渡せそうな目処が立っただけでも、十分だった。
嬉しさがこみ上げてきて、鼻歌でも歌いたいくらいだ。
ナマエはまさに、恋をしていた。
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チョコレートは迷った末に二つ買った。
一つはベルギーの有名店のもの、もう一つは新潟の梅酒を使ってあるというチョコレート。
鶴見部長はお酒を好まないし、渡そうと思っているのはベルギーの方だ。
梅酒のチョコレートは、口に入れると、とろりと溶けて梅酒の香りがふわりと鼻をくすぐる。
新潟、というところに惹かれて買った。
鶴見部長は新潟で、どんな生活をしていたのだろう。
そんなことに思いを馳せながら、店員さんが差し出した紙袋を受け取ったのだった。
そして買ってしまった後に考えることでは無いのだが、そもそも鶴見部長にチョコレートを渡すことは迷惑ではないだろうか。
交際している女性がいるかもしれないし、ただの部下から妙に気合の入ったチョコレートを貰っても、立場もあるし困るだけかもしれない。
それに年も離れているし、相手にすらされない可能性もある。
考えれば考えるほどマイナス思考に陥り、鶴見部長の顔を見るたびに心の奥がギュッと捻れるような気がした。
そんなことでミスをしては情けないので、いつも以上に神経を尖らせて業務にあたる。
「ミョウジさん。ちょっとこちらへ」
重役との会議が終わり、部長室に戻ってから鶴見部長はナマエを呼んだ。
はいと返事をして、デスクの椅子に腰掛けている彼の前まで行くと、鶴見部長はじっとナマエの目を見つめた。
「やっぱりこのところ元気がないね。ミョウジさんは真面目に仕事をこなしてくれるから、私は助かっているが……今日は早めに帰りなさい」
鶴見部長はそう言うと、ゆったりとした微笑みを浮かべた。
全然疲れてなんかいない、もっとあなたのことを見ていたい。
そんな言葉を心の中で叫ぶけれど、ナマエは言葉を飲み込む。
「私は大丈夫です……お心遣いありがとうございます。あの、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
「なんだい。言ってみなさい」
「明日の夜は、少しお時間ありますか」
明日は2月14日、金曜日だ。緊張しながら問いかけると、鶴見部長は少し笑ってから答えた。
「ふふ、私の予定は君が管理している筈だが」
ナマエは口ごもってから、決心してもう一度口を開く。
「業務後のご予定です」
鶴見部長は特に表情を変えなかった。
少し待って、と言うと引出しを開けて手帳を取り出す。
艶やかな革張りのそれは、鶴見部長の手によく似合っていた。
「空いているよ。……では、明日の夜の予定はミョウジさんだね」
そう言うと、鶴見部長は胸ポケットから持ち重りのしそうなボールペンを取り出して、さらりと予定を書きつけた。
ありがとうございます、とお礼を言って、足が浮いているような感覚で帰り支度をして帰路に着く。
電車に乗って改札を出て、家まで歩いて部屋に入る。
手を洗って着替えてようやく、実感がふつふつと湧いてきた。
好きな人と話して、約束をした。
チョコレートも、日の目を見ることができそうだ。
渡せそうな目処が立っただけでも、十分だった。
嬉しさがこみ上げてきて、鼻歌でも歌いたいくらいだ。
ナマエはまさに、恋をしていた。
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