第12章
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眠っていたナマエは、朝の気配に目を開けた。
隣に敷いた布団を見てみると、鶴見中尉の姿はない。
どうやら昨晩は帰らなかったようだ。
朝餉を済ませて家のことをしているうちに、玄関から来客の声がして廊下へ出る。
「はい、ただ今」
引き戸を開けると軍服姿の男が立っていて、ナマエの顔を見ると一礼した。鶴見中尉率いる小隊の一員のようだ。
「お早うございます。鶴見中尉殿ですが、今海岸沿いの鰊番屋にいらっしゃいます。奥様をお連れするよう言付かって参りました」
ご準備を、と促され、ナマエは頷いた。
きっとまえに訪問した鰊番屋の娘が、会いたいと言ったのだろう。
戸棚の中から来客用に用意してあった菓子折りを取り出して風呂敷に包むと、玄関に戻って雪下駄を履いてから外へ出た。
兵士は連れていた馬に跨ると、乗れますか、と遠慮がちに問いかけたので、ナマエは微笑んで頷いた。
♢
「ナマエ、お早う。呼び立てて済まないね」
鶴見中尉は、すっと手を出すとナマエが馬から降りる手助けをした。
離れていたのは一晩だけだと言うのに、彼の手を懐かしく感じる。
鶴見中尉は地面に降り立ったナマエを一瞬だけ引き寄せると、昨晩は寂しかっただろう?と囁いて、ふっとほどけるような笑みを向けた。
「さあ、行こうか。親方の娘さんがお待ちかねだよ」
ナマエは はい、と呟くように言うと、顔の火照りを隠すように俯いて、彼の後に続いた。
ガラガラと引き戸を開けると、相変わらず豪奢な玄関に迎えられる。
「おお、鶴見さんに奥様も…よくおいで下された。娘も喜びます」
親方が直々に現れて、二人に笑顔を向けると家の中へと招き入れた。
女中がナマエの持っていた風呂敷を受け取り、頭を下げる。
洋琴のある部屋を三人で通りかかると、鶴見中尉はふと視線を動かして口を開いた。
「それにしても、立派な洋琴ですな。弾いてもよろしいですか」
「ええ、もちろん」
親方は意外だったのか、少し驚いた様子だったが頷くと、鶴見中尉とナマエを洋琴の方へと促した。
ナマエも彼が楽器の心得があるとは知らなかったので、興味深く見守る。
鶴見中尉は椅子に座ると、黒く艶やかに光る鍵盤蓋を開けて、鍵盤にそっと手を触れた。
やがて美しい旋律が流れ出して、ナマエはうっとりと目を閉じる。
なんて贅沢な時間なのだろう。鶴見中尉が持っている優雅は、彼の中に蓄積された教養や芸術から醸し出されているのだろうと想像する。
「お上手ですな」
ナマエも同感で、鶴見中尉の流れるように動く指先に見とれた。
そうしていると廊下から足音が近づいてきて、一人娘が顔を出す。
「まあ、素敵な音楽ですね」
そう言いながらナマエの姿を発見してにこりと微笑む。
ナマエが少し頭を下げてそれに応えると、鶴見中尉が 行っておいで、言うように目配せしたので、娘に促されるままにナマエは洋琴のある部屋を後にした。
隣に敷いた布団を見てみると、鶴見中尉の姿はない。
どうやら昨晩は帰らなかったようだ。
朝餉を済ませて家のことをしているうちに、玄関から来客の声がして廊下へ出る。
「はい、ただ今」
引き戸を開けると軍服姿の男が立っていて、ナマエの顔を見ると一礼した。鶴見中尉率いる小隊の一員のようだ。
「お早うございます。鶴見中尉殿ですが、今海岸沿いの鰊番屋にいらっしゃいます。奥様をお連れするよう言付かって参りました」
ご準備を、と促され、ナマエは頷いた。
きっとまえに訪問した鰊番屋の娘が、会いたいと言ったのだろう。
戸棚の中から来客用に用意してあった菓子折りを取り出して風呂敷に包むと、玄関に戻って雪下駄を履いてから外へ出た。
兵士は連れていた馬に跨ると、乗れますか、と遠慮がちに問いかけたので、ナマエは微笑んで頷いた。
♢
「ナマエ、お早う。呼び立てて済まないね」
鶴見中尉は、すっと手を出すとナマエが馬から降りる手助けをした。
離れていたのは一晩だけだと言うのに、彼の手を懐かしく感じる。
鶴見中尉は地面に降り立ったナマエを一瞬だけ引き寄せると、昨晩は寂しかっただろう?と囁いて、ふっとほどけるような笑みを向けた。
「さあ、行こうか。親方の娘さんがお待ちかねだよ」
ナマエは はい、と呟くように言うと、顔の火照りを隠すように俯いて、彼の後に続いた。
ガラガラと引き戸を開けると、相変わらず豪奢な玄関に迎えられる。
「おお、鶴見さんに奥様も…よくおいで下された。娘も喜びます」
親方が直々に現れて、二人に笑顔を向けると家の中へと招き入れた。
女中がナマエの持っていた風呂敷を受け取り、頭を下げる。
洋琴のある部屋を三人で通りかかると、鶴見中尉はふと視線を動かして口を開いた。
「それにしても、立派な洋琴ですな。弾いてもよろしいですか」
「ええ、もちろん」
親方は意外だったのか、少し驚いた様子だったが頷くと、鶴見中尉とナマエを洋琴の方へと促した。
ナマエも彼が楽器の心得があるとは知らなかったので、興味深く見守る。
鶴見中尉は椅子に座ると、黒く艶やかに光る鍵盤蓋を開けて、鍵盤にそっと手を触れた。
やがて美しい旋律が流れ出して、ナマエはうっとりと目を閉じる。
なんて贅沢な時間なのだろう。鶴見中尉が持っている優雅は、彼の中に蓄積された教養や芸術から醸し出されているのだろうと想像する。
「お上手ですな」
ナマエも同感で、鶴見中尉の流れるように動く指先に見とれた。
そうしていると廊下から足音が近づいてきて、一人娘が顔を出す。
「まあ、素敵な音楽ですね」
そう言いながらナマエの姿を発見してにこりと微笑む。
ナマエが少し頭を下げてそれに応えると、鶴見中尉が 行っておいで、言うように目配せしたので、娘に促されるままにナマエは洋琴のある部屋を後にした。