第10章
名前変換
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「私は少し出ますので」と月島の声がして、足音が遠のいたかと思うと扉が閉まる音がする。
尾形は意識の遠くの方でそれを感じた。
そして、彼を呼ぶ女の声。
鶴見中尉のところにいる、あの女の声がした。
逃げるなら今のうち、と忠告したが、どうやら相変わらず死神と共に住んでいるらしい。
それどころか、去年に妻になったと聞いた時には正直驚いた。
女というのはどうしてこうなのだろう。
とは言え、妾ではなく正妻の座に収まれたのだから、上出来なのかもしれない。
この女の、鶴見中尉を信じきっている目。
彼を映す瞳に籠る熱。
きっとこの女は、鶴見中尉がどんな男であっても関係なく、彼を求めるのだろう。
あの夜。
お前が鶴見中尉と深く関わるきっかけになったあの夜。座敷に銃弾を撃ち込んだのは俺なんだぜ。
鶴見中尉はお前の思考力を恐怖で封じるために、俺と月島に料亭で一芝居打たせた。
お前がしがみ付いているその男は、そんな嘘を涼しい顔でつく男だぞ。
そう言ったら、この女はどういう反応をするのだろう。
頑なに鶴見中尉を信じる彼女を見ていると、全て滅茶苦茶に壊してしまいたくなるが、生憎顎の怪我で話せない。
薄っすらと目が開いて、ぼんやりと天井が見える。
その途端、女が息を飲んだ気配がして、「尾形さん」と名を呼ぶ声に力が入った。
「目が覚めましたか。良かった……待っていて下さい、すぐに人を呼びますから」
そう言うと、女は慌てた足取りで部屋を出て行った。
♢
鶴見中尉は近頃は帰りが遅かった。
尾形は一度意識を取り戻したが、「ふじみ」の文字を指で書いてから、また昏睡状態に陥っているそうだ。
鶴見中尉は部下に尾形を負傷させた犯人を捜索させていて、その結果行方不明になった4人を今日は彼自らも探しに出ていた。
行方不明者の中には谷垣も含まれていて、面識があるだけにナマエも気がかりである。
帰宅した彼の外套についた雪を払おうと手を伸ばしたら、その腕を掴まれて抱きすくめられた。
「ただいま、ナマエ」
そう言うと、鶴見中尉は鼻先を彼女のうなじに寄せる。
「いい匂いだね」
どうされたのですか、とナマエが問うと、彼はふっと息を吐くように笑った。
「今日は少しカッとなってしまってね。脳が欠けているせいだな」
穏やかな口調とは裏腹に、不気味な事を言いながら、鶴見中尉の指先はするすると着物の中へ入って行った。
外にいたせいで氷のように冷たい指が、ナマエの肌に触れる。
「冷えていますね。火鉢に当たった方が……」
「すぐ温まるさ」
火鉢にあたるよりずっといい、と言って、彼は指をさらに奥へ奥へと這わせた。
冷たさにナマエが身を竦ませると、「我慢しなさい」と彼女の耳元で、少し意地悪な声で囁いた。
尾形は意識の遠くの方でそれを感じた。
そして、彼を呼ぶ女の声。
鶴見中尉のところにいる、あの女の声がした。
逃げるなら今のうち、と忠告したが、どうやら相変わらず死神と共に住んでいるらしい。
それどころか、去年に妻になったと聞いた時には正直驚いた。
女というのはどうしてこうなのだろう。
とは言え、妾ではなく正妻の座に収まれたのだから、上出来なのかもしれない。
この女の、鶴見中尉を信じきっている目。
彼を映す瞳に籠る熱。
きっとこの女は、鶴見中尉がどんな男であっても関係なく、彼を求めるのだろう。
あの夜。
お前が鶴見中尉と深く関わるきっかけになったあの夜。座敷に銃弾を撃ち込んだのは俺なんだぜ。
鶴見中尉はお前の思考力を恐怖で封じるために、俺と月島に料亭で一芝居打たせた。
お前がしがみ付いているその男は、そんな嘘を涼しい顔でつく男だぞ。
そう言ったら、この女はどういう反応をするのだろう。
頑なに鶴見中尉を信じる彼女を見ていると、全て滅茶苦茶に壊してしまいたくなるが、生憎顎の怪我で話せない。
薄っすらと目が開いて、ぼんやりと天井が見える。
その途端、女が息を飲んだ気配がして、「尾形さん」と名を呼ぶ声に力が入った。
「目が覚めましたか。良かった……待っていて下さい、すぐに人を呼びますから」
そう言うと、女は慌てた足取りで部屋を出て行った。
♢
鶴見中尉は近頃は帰りが遅かった。
尾形は一度意識を取り戻したが、「ふじみ」の文字を指で書いてから、また昏睡状態に陥っているそうだ。
鶴見中尉は部下に尾形を負傷させた犯人を捜索させていて、その結果行方不明になった4人を今日は彼自らも探しに出ていた。
行方不明者の中には谷垣も含まれていて、面識があるだけにナマエも気がかりである。
帰宅した彼の外套についた雪を払おうと手を伸ばしたら、その腕を掴まれて抱きすくめられた。
「ただいま、ナマエ」
そう言うと、鶴見中尉は鼻先を彼女のうなじに寄せる。
「いい匂いだね」
どうされたのですか、とナマエが問うと、彼はふっと息を吐くように笑った。
「今日は少しカッとなってしまってね。脳が欠けているせいだな」
穏やかな口調とは裏腹に、不気味な事を言いながら、鶴見中尉の指先はするすると着物の中へ入って行った。
外にいたせいで氷のように冷たい指が、ナマエの肌に触れる。
「冷えていますね。火鉢に当たった方が……」
「すぐ温まるさ」
火鉢にあたるよりずっといい、と言って、彼は指をさらに奥へ奥へと這わせた。
冷たさにナマエが身を竦ませると、「我慢しなさい」と彼女の耳元で、少し意地悪な声で囁いた。