第9章
名前変換
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「鰊大尽の娘は、ナマエを気に入ったようだね。あの親方の懐柔に一役買うだろう」
よくやったね、偉いぞ。と鶴見中尉はナマエを褒めた。
夕食の後、お茶と和菓子を頂きながら鶴見中尉は今日のことを振り返っているところだ。
ナマエもお茶を啜ると口を開く。
「でも今日は、急にあんな風に私を紹介なさるから驚いてしまいました」
「妻、と言ったことかい」
はい、と返事をすると、鶴見中尉はナマエにこちらに来なさいと声をかける。
こういう風に彼がナマエを呼ぶときは、決まって何か起こる。身体の芯が熱くなるような。
「何か考えていた?」
鶴見中尉の隣に正座して彼の目を見てみると、全てを見透かすような瞳がじっとこちらを眺めている。
ナマエは途端に恥ずかしくなって、いいえ、と答えたが返って不自然に響いた。
「ふふ……顔を上げて私を見なさい」
視線を上げると、柔らかい表情の彼がナマエを見つめ返している。
黒い瞳に捕まって、彼から目を離すことが出来ない。
そして鶴見中尉は唐突に切り出した。
「ナマエ。私はあなたを妻に迎えたいと思っている」
驚きのあまり、言葉を発することが出来なかった。
妻、迎える、と単語ばかりが意味を結ばずに、頭の中をぐるぐると巡っている。
「返事は」
「はい」
考えるより先に言葉が出て、鶴見中尉は満足そうに頷いた。
「素直でよろしい」
そう言うと、彼は懐に手を入れて小さな箱を取り出した。
それを掌に載せるとナマエの目の前に差し出して、蓋を開ける。
中には銀色の指輪が一つ入っていて、彼はそれを取り出すとナマエの左手を取った。
「……ぴったりだ。よく似合うよ」
ナマエは左手の薬指に嵌っている、銀色の指輪を眺めた。
それは他の何よりも、美しく素晴らしい物だった。
なんだか、もういつ死んでもいいような気がする。
かと思えば、この幸せを噛みしめるために、ずっと生きていたいような気もする。
「篤四郎さま……もう私、これ以上の倖せはありません。怖いくらいです。なんだかもう……」
言い終わらないうちに、鶴見中尉がナマエの唇を塞いだ。
熱い舌と、湿ったため息。
頭がくらくらして、何も考えられない。
他の何もかもが、溶けて消えてしまったようだった。
♢
情事のあと、火照った顔を冷やそうと窓を開けた。
今日は特に冷えると思ったら、雪がちらちらと舞い降りている。
後から後から降ってくる雪は、永遠のようだった。
「篤四郎さま、初雪です」
ナマエに呼ばれて、鶴見中尉は彼女の横に立って外を見る。
全てを閉ざす雪が、またこの土地にやって来た。
「風邪をひくから、こちらに来なさい」
そう言って彼はナマエを腕に包んだ。
指輪の嵌った彼女の手に触れてみると、ひやりと冷たい。
「ほら、こんなに冷えている。可哀想に」
ナマエはかじかんだ手が鶴見中尉の熱でほぐれていくのを、目を閉じて味わった。
この先何が起こっても、今日の思い出だけで生きていけるような気がした。
よくやったね、偉いぞ。と鶴見中尉はナマエを褒めた。
夕食の後、お茶と和菓子を頂きながら鶴見中尉は今日のことを振り返っているところだ。
ナマエもお茶を啜ると口を開く。
「でも今日は、急にあんな風に私を紹介なさるから驚いてしまいました」
「妻、と言ったことかい」
はい、と返事をすると、鶴見中尉はナマエにこちらに来なさいと声をかける。
こういう風に彼がナマエを呼ぶときは、決まって何か起こる。身体の芯が熱くなるような。
「何か考えていた?」
鶴見中尉の隣に正座して彼の目を見てみると、全てを見透かすような瞳がじっとこちらを眺めている。
ナマエは途端に恥ずかしくなって、いいえ、と答えたが返って不自然に響いた。
「ふふ……顔を上げて私を見なさい」
視線を上げると、柔らかい表情の彼がナマエを見つめ返している。
黒い瞳に捕まって、彼から目を離すことが出来ない。
そして鶴見中尉は唐突に切り出した。
「ナマエ。私はあなたを妻に迎えたいと思っている」
驚きのあまり、言葉を発することが出来なかった。
妻、迎える、と単語ばかりが意味を結ばずに、頭の中をぐるぐると巡っている。
「返事は」
「はい」
考えるより先に言葉が出て、鶴見中尉は満足そうに頷いた。
「素直でよろしい」
そう言うと、彼は懐に手を入れて小さな箱を取り出した。
それを掌に載せるとナマエの目の前に差し出して、蓋を開ける。
中には銀色の指輪が一つ入っていて、彼はそれを取り出すとナマエの左手を取った。
「……ぴったりだ。よく似合うよ」
ナマエは左手の薬指に嵌っている、銀色の指輪を眺めた。
それは他の何よりも、美しく素晴らしい物だった。
なんだか、もういつ死んでもいいような気がする。
かと思えば、この幸せを噛みしめるために、ずっと生きていたいような気もする。
「篤四郎さま……もう私、これ以上の倖せはありません。怖いくらいです。なんだかもう……」
言い終わらないうちに、鶴見中尉がナマエの唇を塞いだ。
熱い舌と、湿ったため息。
頭がくらくらして、何も考えられない。
他の何もかもが、溶けて消えてしまったようだった。
♢
情事のあと、火照った顔を冷やそうと窓を開けた。
今日は特に冷えると思ったら、雪がちらちらと舞い降りている。
後から後から降ってくる雪は、永遠のようだった。
「篤四郎さま、初雪です」
ナマエに呼ばれて、鶴見中尉は彼女の横に立って外を見る。
全てを閉ざす雪が、またこの土地にやって来た。
「風邪をひくから、こちらに来なさい」
そう言って彼はナマエを腕に包んだ。
指輪の嵌った彼女の手に触れてみると、ひやりと冷たい。
「ほら、こんなに冷えている。可哀想に」
ナマエはかじかんだ手が鶴見中尉の熱でほぐれていくのを、目を閉じて味わった。
この先何が起こっても、今日の思い出だけで生きていけるような気がした。