第1章
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「私は情報将校でね。あらゆる情報を集め、精査しているが…今とある理由があって、金策に走っている」
「…はあ」
ナマエは話が掴めず、間の抜けた返事をする。
鶴見中尉はさらに続けた。
「その活動を通して、ナマエさん、あなたの情報が入ってきた。あなたの御家族に纏わる話だ」
「家族ですか?」
ナマエは母と二人で暮らしていた。
父は早くに病死したと母から聞かされていて、一度も会ったことは無い。
電話交換手の仕事をしてナマエを育てていたが、無理をしていたのだろう。
ナマエが十歳になった頃にあっけなく亡くなり、それから一人で奉公先を転々とした後、今の料亭に落ち着いて生活しているのだった。
だから、家族の話と言われても、ナマエは何も思い当たらなかった。
「そうだ。母君は、生前電話交換手の仕事をされていたね。その以前は、銅山を経営する家の女中であったと」
「はい、そうですが…そこのご主人が良い方で、母に電話交換手の仕事を斡旋してくださったと、幼少の頃に聞いたことがあります」
「うん。その “ご主人 “だがね。…彼こそが、あなたの父親だ」
「……はい?あのう、つまり、どういう…」
ナマエは思いがけない言葉に面食らうが、鶴見中尉は淡々と言葉を続けた。
「母君はあなたをみるに、美しい方だったのだろう。“ご主人”は母君と関係を持ち、あなたが産まれた。母君はお立場上、屋敷を去らなくてはならなかったが、ご主人はあなた方親子が困らぬよう、職業や住居を提供してから別れたようだね」
「………」
鶴見中尉は押し黙るナマエをちらりと見やった。
何を考えているのかわからない、鋭い瞳だった。
「そしてここからが本題だ。あなたの父君の一族が、疱瘡にかかって壊滅状態になった…父君も、もうこの世を去っておられる。しかし今際の際に、ミョウジナマエ…あなたの名を口にしたそうだ」
名を呼ばれて、ナマエは反射的に顔を上げる。
目と鼻の先には、いつの間にか距離を詰めてきている鶴見中尉の顔があり、夜の海のような、黒い瞳がナマエを覗き込んでいるのが見えた。
「今まで隠してきたが、実は血の繋がる娘が一人いる、名はミョウジナマエ。彼女を探して、全てを譲ること…それが赤ん坊を抱えて 一人家を出て行かなくてはならなかった、千代への償いだと」
千代はナマエの母の名前だ。
ナマエは呆気にとられて、鶴見中尉の言葉を聞くばかりだった。
「実際に遺言書を開封してみると、その通りの内容がしたためてあった。あなたは正式に、父君の財産を受け継ぐことになっている」
「はあ、急な話で、なんとも…」
「無理もない、驚くような話ばかりだろうからね。ナマエさんの気持ちはよくわかる。でも、そうも言ってられないんだ。若く身寄りのない女性が、大きな遺産を受け継ぐ…聞いただけでも、気色の悪い生き物が群がってきそうだろう」
鶴見中尉の話が本当ならば、余程しっかりしなければ、確かに碌なことにならないような予感がする。
ナマエはなんだか空恐ろしくなって、膝の上で合わせた手に思わず力がはいった。
「…単刀直入に言おう。ナマエさんに、私がこれから成そうとしていることへ投資して欲しい。そして、私にあなたの身を守らせてくれないか」
鶴見中尉の真っ直ぐな視線に飲み込まれそうになりながら、ナマエはやっとの事で言葉を発する。
「…つまり、鶴見様も、その気色の悪い生き物の一種であられるということでしょうか」
鶴見中尉は困ったように笑った。
「ふふ、あなたから見ればそうかもしれないね。だがいくら私が手段を選ばない男といっても、興味のないご婦人にこんな事は言わないよ」
そう言うと、鶴見中尉はすっと手を伸ばした。
大きな乾いた手が、ナマエの頬と耳たぶに触れる。
ナマエは驚いて、ギクリと身じろぎした。
「あなたの居場所を一番早く突き止めたのは私だが、二番手三番手がこれから必ず現れるだろう。彼らは力ずくで、あなたを自分のものにしようとするかもしれない。そうなるくらいなら、私は今ここであなたを攫おう」
鶴見中尉は冗談とも本気とも取れる調子で、物騒なことを言ってのける。
ナマエは顔の近さと、あてがわれた掌の感触のせいで、顔がじわじわと火照るのを感じた。
鶴見様は近くで見ると鼻の形が綺麗なのがよく分かるのね、などと、どうでも良い考えが浮かんでは消えていく。
「…そんなことをしたら、いくら鶴見様といっても問題になりますよ。私、大声あげますよ」
ナマエがやや上ずった声で言いうと、鶴見中尉は不敵な笑みを口元に浮かべた。
「やれるものなら、やってみなさい」
.
「…はあ」
ナマエは話が掴めず、間の抜けた返事をする。
鶴見中尉はさらに続けた。
「その活動を通して、ナマエさん、あなたの情報が入ってきた。あなたの御家族に纏わる話だ」
「家族ですか?」
ナマエは母と二人で暮らしていた。
父は早くに病死したと母から聞かされていて、一度も会ったことは無い。
電話交換手の仕事をしてナマエを育てていたが、無理をしていたのだろう。
ナマエが十歳になった頃にあっけなく亡くなり、それから一人で奉公先を転々とした後、今の料亭に落ち着いて生活しているのだった。
だから、家族の話と言われても、ナマエは何も思い当たらなかった。
「そうだ。母君は、生前電話交換手の仕事をされていたね。その以前は、銅山を経営する家の女中であったと」
「はい、そうですが…そこのご主人が良い方で、母に電話交換手の仕事を斡旋してくださったと、幼少の頃に聞いたことがあります」
「うん。その “ご主人 “だがね。…彼こそが、あなたの父親だ」
「……はい?あのう、つまり、どういう…」
ナマエは思いがけない言葉に面食らうが、鶴見中尉は淡々と言葉を続けた。
「母君はあなたをみるに、美しい方だったのだろう。“ご主人”は母君と関係を持ち、あなたが産まれた。母君はお立場上、屋敷を去らなくてはならなかったが、ご主人はあなた方親子が困らぬよう、職業や住居を提供してから別れたようだね」
「………」
鶴見中尉は押し黙るナマエをちらりと見やった。
何を考えているのかわからない、鋭い瞳だった。
「そしてここからが本題だ。あなたの父君の一族が、疱瘡にかかって壊滅状態になった…父君も、もうこの世を去っておられる。しかし今際の際に、ミョウジナマエ…あなたの名を口にしたそうだ」
名を呼ばれて、ナマエは反射的に顔を上げる。
目と鼻の先には、いつの間にか距離を詰めてきている鶴見中尉の顔があり、夜の海のような、黒い瞳がナマエを覗き込んでいるのが見えた。
「今まで隠してきたが、実は血の繋がる娘が一人いる、名はミョウジナマエ。彼女を探して、全てを譲ること…それが赤ん坊を抱えて 一人家を出て行かなくてはならなかった、千代への償いだと」
千代はナマエの母の名前だ。
ナマエは呆気にとられて、鶴見中尉の言葉を聞くばかりだった。
「実際に遺言書を開封してみると、その通りの内容がしたためてあった。あなたは正式に、父君の財産を受け継ぐことになっている」
「はあ、急な話で、なんとも…」
「無理もない、驚くような話ばかりだろうからね。ナマエさんの気持ちはよくわかる。でも、そうも言ってられないんだ。若く身寄りのない女性が、大きな遺産を受け継ぐ…聞いただけでも、気色の悪い生き物が群がってきそうだろう」
鶴見中尉の話が本当ならば、余程しっかりしなければ、確かに碌なことにならないような予感がする。
ナマエはなんだか空恐ろしくなって、膝の上で合わせた手に思わず力がはいった。
「…単刀直入に言おう。ナマエさんに、私がこれから成そうとしていることへ投資して欲しい。そして、私にあなたの身を守らせてくれないか」
鶴見中尉の真っ直ぐな視線に飲み込まれそうになりながら、ナマエはやっとの事で言葉を発する。
「…つまり、鶴見様も、その気色の悪い生き物の一種であられるということでしょうか」
鶴見中尉は困ったように笑った。
「ふふ、あなたから見ればそうかもしれないね。だがいくら私が手段を選ばない男といっても、興味のないご婦人にこんな事は言わないよ」
そう言うと、鶴見中尉はすっと手を伸ばした。
大きな乾いた手が、ナマエの頬と耳たぶに触れる。
ナマエは驚いて、ギクリと身じろぎした。
「あなたの居場所を一番早く突き止めたのは私だが、二番手三番手がこれから必ず現れるだろう。彼らは力ずくで、あなたを自分のものにしようとするかもしれない。そうなるくらいなら、私は今ここであなたを攫おう」
鶴見中尉は冗談とも本気とも取れる調子で、物騒なことを言ってのける。
ナマエは顔の近さと、あてがわれた掌の感触のせいで、顔がじわじわと火照るのを感じた。
鶴見様は近くで見ると鼻の形が綺麗なのがよく分かるのね、などと、どうでも良い考えが浮かんでは消えていく。
「…そんなことをしたら、いくら鶴見様といっても問題になりますよ。私、大声あげますよ」
ナマエがやや上ずった声で言いうと、鶴見中尉は不敵な笑みを口元に浮かべた。
「やれるものなら、やってみなさい」
.