第6章
名前変換
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一夜明けて鶴見中尉は、家の女中に数日後には女性を一人迎えるので、部屋を準備しておくように伝えてから家を出た。
ナマエの見舞いのあと兵舎へ行こうと思ったので、まずは病院へと向かう。
昨日、男の下敷きにされ、必死で抵抗していたナマエの姿を見たときに、なんとも言えぬ暗い感情が湧き起こるのを感じた。
自分以外の男に殴られ蹴られ、搾取されそうになっていたナマエ。
彼女を蹂躙していいのは自分だけだ。
あの日陰にひっそりと咲く花を、愛でるも摘むも自分次第の筈だ。
ナマエの心身を支配し、彼女の運命を握り操るのは自分であると自覚したときに、カッとなったのだろう。
少し
そこまで思い返したところで、花屋が目に入ったので数本買う。
花びらに鼻先を寄せてクンクンと匂いを嗅いで見ると、みずみずしい香りがした。
薄く儚い花弁は、ナマエの背中を思い起こさせる。
鶴見中尉は、花を閉じ込めることにしたのだった。
……………
病室に入ってナマエの顔を見ると、昨日より頬の痣が広がって痛々しい。
それが恥ずかしいのか、ナマエはそっと顔を背けたが、鶴見中尉は椅子に腰を下ろすと手を伸ばして、ナマエの顎を包むと優しく正面を向かせた。
「腫れていますから……あまり見ないで下さい」
「いいんだ。傷を受けたあなたの顔も見たい」
痛みや羞恥で打ち震える姿は、何かそそるような風情があった。
買ってきた花を見せると、可愛らしいお花ですねと言って喜ぶ。
様子を見に来た看護婦に頼んで活けさせた。
「お忙しいのに来て下さってありがとうございます」
「私が来たくて来ているのだから、気にしなくていいよ。今家を整えさせている所だからね。
早く元気になって私の家に来なさい……病院は、何かと不便だ」
そう言うと、鶴見中尉はナマエの手をとって唇を付けた。
髭が当たってちくりとする。
鶴見中尉の顔をまともに見ることができず、ナマエは俯いた。
「鶴見さん、おやめください…人に見られてしまいます」
「ふふ…可愛いね」
鶴見中尉はようやくナマエの手を離すと、悪戯っぽく微笑んだ。
鶴見中尉が病室を後にして暫くすると谷垣が訪ねてきて、ナマエが恐縮するほど深く謝罪して帰っていった。
午後になった現在では、月島軍曹と鯉登少尉という、褐色の肌に整った顔立ちの青年が病室を訪れている。
二人は横並びに椅子に座って、ナマエの方を向いていた。
「…あなたがミョウジナマエさんですか…
鶴見中尉殿に昨日助けてもらったそうだな…」
「はい、おかげさまでこうして居られます」
鯉登少尉は俄かに悩ましげな表情を浮かべると、深くため息をついた。
「羨ましい…さぞかし素敵だっただろう?」
鯉登少尉は身を乗り出して、あれやこれや聞きたそうな素振りを見せている。
面識のない彼がどうして見舞いに来てくれたのか不思議に思っていたが、どうやら鶴見中尉の話が聞きたかったようだ。
そんな鯉登少尉を月島が制止する。
「ナマエさんは入院中なんですよ。体に障りますからやめて下さい、鯉登少尉殿」
だからナマエさんが退院されてからでよろしいでしょうと言ったんです、とやや呆れた調子で言った。
「むぅ…それもそうだな。ナマエさん、早く退院するんだぞ。鶴見中尉殿が心配されるからな。私は普段旭川にいるが、また小樽に来た時は詳しく聞かせてくれ」
そう言うと、鯉登少尉は賑やかに去っていく。
月島軍曹は申し訳なさそうに一礼すると、少尉殿の後を追いかけていった。