第1章
名前変換
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ナマエは身支度を整えて、離れへと続く廊下に出た。
磨き上げられた床板の上を歩くと、足袋越しに冷たい板の感触がする。
春が近づいているとはいえ、街中にもまだ雪が少し残って気温が低い。
特に朝夕は顕著で、夕刻の今は着物の袂からすうっと冷気が入り込んできて寒い。
日中、女将が見栄えのする着物を用意して、綺麗な格好でニッコリ笑ってなさいと言いながら、ナマエに着替えるよう指示を出した。
大方、お気に入りらしいナマエに接待させて、鶴見中尉のご機嫌でもとるつもりなのだろう。
ナマエは愛想が良い方はないので、殿方から見てつまらないようで、他の子のように「離れ」の給仕係を指名された事は殆どなかった。
離れを使う客は多くがお金持ちなので、気に入られればお小遣いがもらえたりするのだ。
中には、良い方と出会って結婚した子もあった。
ナマエも上手くやれたら良いのだが、どうにも苦手で、自分でも損な性分だと思う。
しかし、あの鶴見中尉という方は不可解だ。
急に現れたと思ったら、なんの理由も無さそうなのにやってくる。
ナマエは下心が透けて見える男は何人も見てきたが、そういう雰囲気は全くなくて、それが逆に掴み所がない印象だった。
やがて目当ての座敷が見えてくる。
障子を開けてお座敷に入ると、鶴見中尉が床の間を背にした座布団に座っていた。
「こんばんは、ナマエさん。待っていたよ」
「こんばんは。お待たせ致しました」
♢
ナマエは給仕しながら、鶴見様の様子を窺った。
美しい所作で食事をする横顔は、琺瑯のせいで相変わらず不気味だが、優雅で上品な雰囲気を感じさせる。
酒を飲まないせいもあるのかもしれない。
「今日は着物がいつもと違うね。ナマエさんはそういう色も似合うんだね」
「恐れ入ります」
女将の言葉を思い出し、精一杯笑ってみようと思うが上手くいっている手応えはない。
料理が終わったので、食後のお茶と甘味を出すと、鶴見中尉の顔が「おお」とほころんだように見えた。
「これは花園公園の串団子かな」
「はい、鶴見様はこちらの団子がお好きと伺っておりましたので」
「ほお、それは嬉しい」
鶴見中尉ははいかにも美味しそうに団子を食べた。
「ところで、今日来た理由を話そうか」
ナマエは自分の顔が強張ったのを感じた。
こういう時は、にっこりとしなくてはならないのに。
今までの上品な鶴見中尉から、一変して厭らしい目をした男に変わってしまうのかと、ナマエは無意識に身を硬くする。
「どうした、そんなに怯えなくていい。ただ私の話を聞けばいいんだ」
「…はい」
鶴見中尉は団子を完食して串を皿に置き、お茶を啜ってからナマエに向きなおった。
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磨き上げられた床板の上を歩くと、足袋越しに冷たい板の感触がする。
春が近づいているとはいえ、街中にもまだ雪が少し残って気温が低い。
特に朝夕は顕著で、夕刻の今は着物の袂からすうっと冷気が入り込んできて寒い。
日中、女将が見栄えのする着物を用意して、綺麗な格好でニッコリ笑ってなさいと言いながら、ナマエに着替えるよう指示を出した。
大方、お気に入りらしいナマエに接待させて、鶴見中尉のご機嫌でもとるつもりなのだろう。
ナマエは愛想が良い方はないので、殿方から見てつまらないようで、他の子のように「離れ」の給仕係を指名された事は殆どなかった。
離れを使う客は多くがお金持ちなので、気に入られればお小遣いがもらえたりするのだ。
中には、良い方と出会って結婚した子もあった。
ナマエも上手くやれたら良いのだが、どうにも苦手で、自分でも損な性分だと思う。
しかし、あの鶴見中尉という方は不可解だ。
急に現れたと思ったら、なんの理由も無さそうなのにやってくる。
ナマエは下心が透けて見える男は何人も見てきたが、そういう雰囲気は全くなくて、それが逆に掴み所がない印象だった。
やがて目当ての座敷が見えてくる。
障子を開けてお座敷に入ると、鶴見中尉が床の間を背にした座布団に座っていた。
「こんばんは、ナマエさん。待っていたよ」
「こんばんは。お待たせ致しました」
♢
ナマエは給仕しながら、鶴見様の様子を窺った。
美しい所作で食事をする横顔は、琺瑯のせいで相変わらず不気味だが、優雅で上品な雰囲気を感じさせる。
酒を飲まないせいもあるのかもしれない。
「今日は着物がいつもと違うね。ナマエさんはそういう色も似合うんだね」
「恐れ入ります」
女将の言葉を思い出し、精一杯笑ってみようと思うが上手くいっている手応えはない。
料理が終わったので、食後のお茶と甘味を出すと、鶴見中尉の顔が「おお」とほころんだように見えた。
「これは花園公園の串団子かな」
「はい、鶴見様はこちらの団子がお好きと伺っておりましたので」
「ほお、それは嬉しい」
鶴見中尉ははいかにも美味しそうに団子を食べた。
「ところで、今日来た理由を話そうか」
ナマエは自分の顔が強張ったのを感じた。
こういう時は、にっこりとしなくてはならないのに。
今までの上品な鶴見中尉から、一変して厭らしい目をした男に変わってしまうのかと、ナマエは無意識に身を硬くする。
「どうした、そんなに怯えなくていい。ただ私の話を聞けばいいんだ」
「…はい」
鶴見中尉は団子を完食して串を皿に置き、お茶を啜ってからナマエに向きなおった。
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