第6章
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
突然の接吻にナマエはしばらくぼうっとしていたが、俄かに蹴られた箇所が痛み出す。
思わず脇腹を抑えると、鶴見中尉は視線をナマエの手元に落とした。
「痛むかい。顔以外に何かされた?」
打たれて腫れているナマエの頬に、そっと触れてから問いかける。
「お腹を一度蹴られました…息をすると痛むのです」
鶴見中尉は背後に転がっている遺体を忌々しげに一瞥すると、ナマエに向き直る。
「可哀想に、息をすると痛むか…肋骨にヒビでも入っているかもしれないね。結構簡単に折れるから。
ここを出たら、すぐに病院に行こう」
だがその前に、と言うと彼はナマエに顔を寄せてじっと瞳を覗き込んだ。
「それ以外に何かされていない?私にしか許さないようなことを」
この言葉が持つ甘さに酔いそうになりながらも、ナマエは首を横に振った。
「いいえ、されていません。
殴られたり蹴られたりはしましたけれど、その……そう言うことは。
襟元に手を入れられそうになっただけです」
「されているじゃないか。嫌だっただろう?
私以外の男に触られそうになるのは」
ナマエの肩を抱く彼の掌に力がこもったけれど、それ以上は何もしなかった。
彼女を支えるようにして立たせると、蹴破った戸口の方へ向かう。
「ゆっくり歩きなさい。馬車を用意してあるから、それに乗って病院に行くよ」
外に出ると、日が傾き始めていた。
ナマエは数時間振りの新鮮な空気を味わいたかったが、呼吸のたびに骨が痛んだ。
外には尾形、谷垣を含む数名の兵士がいて、鶴見中尉は彼等に遺体を処理する事を命じると、先にナマエを馬車に乗せてから自らも乗り込む。
鶴見中尉の外套に包まれて、彼に庇うようにされながら馬車に乗り込むナマエを、尾形は感情のこもらない瞳でじっと眺めた。
……………
小樽の街中にある病院に着くと、すぐ医師がナマエを診察する。
鶴見中尉の見立て通り、複数の肋骨にヒビが入っているので、数週間固定しておく必要があるという。
念のため3日間は安静のために入院する事になり、ベッドに案内される。
看護婦に手伝われながら院内着に着替えた。
その間に鶴見中尉が諸々の手続きをしているのが遠目に見える。
ようやく身の回りが落ち着いて一息ついた頃、鶴見中尉が病室に入ってきた。
ナマエが横になっているベッドの脇に置いてある椅子に腰掛けると、彼女の顔を覗き込む。
「3日間、入院だそうだね。痛むかい?」
「はい……少し」
時間が経つにつれ、緊張状態による感覚の麻痺が無くなるのか、痛みや恐怖を改めて感じて、ナマエの顔は少し青ざめている。
そんな彼女の様子を見て、鶴見中尉は椅子をベッドに寄せると、掛け布団に手を滑り込ませてナマエの手に触れた。
乾いた無骨な掌の感触がする。
「やはり盗られたくないものは、肌身離さず持っておくべきだな……」
鶴見中尉は独り言のように言うと、ナマエの瞳を見つめて口を開いた。
「ナマエさん、退院したら私の家に来なさい。
やはりあなたは閉じ込めておくべきだった……私の可愛い花」
背中の痣の事を言っているのだと気がついて、ナマエは耳まで赫くして俯く。
そんなこと仰らないで下さい、と小さな声で言うと、鶴見中尉は満足そうな笑みを口元に浮かべた。
.