第4章
名前変換
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ナマエは何事も起こらない、平穏な日々を過ごしていた。
正確に言えば、時折人相の悪い男がつけてくるような事や、見知らぬ男に話しかけられて腕を引っ張られるような事もあったけれど、その度に第七師団の誰かが現れて事なきを得ていた。
本当に、それは見事なものだった。
ある時は双子の兄弟が音もなく出てきたり、今日の場合は何かが起こる前に、大柄の生真面目そうな男が睨みをきかせたりと、彼らの強さを改めて感じる。
「…怪しいものは立ち去ったようです。家に帰りましょう」
谷垣と名乗った兵士が、慌てふためいて逃げて行った男の姿を確認してから言う。
日用品を買うために街の通りを歩いていたナマエは、ほっと息を吐く。
出かけるとたまにこのような事が起こり、その度に第七師団の面々にお世話になっているので、ナマエはすっかり恐縮するのと同時に、一体いつまでこの生活が続くのかと気が気ではない。
「ありがとうございます、谷垣さん」
「いえ」
家に帰ったら、せめてものお礼にお茶とお菓子でも振舞おうと考えながら、人気のない路地に入った時だった。
斜め後ろを歩いていた谷垣が、弾かれるように振り向いたかと思うと、背負っていた小銃を手に握って勢い良く振り上げた。
金属が激しくぶつかる音、ほんの少し遅れて発砲音が響く。
「伏せろ!」
谷垣の鋭い声に、ナマエは慌てて身を屈めた。
どうやら物陰に銃を持った男が隠れていたようで、引き金を引こうとした瞬間を谷垣に小銃で払いのけられたようだ。
その勢いで発砲したが、建物に当たり怪我人は出なかった。
男は間髪入れず、刃物で谷垣に襲いかかる。
谷垣は刃を小銃で受け止めると、「隠れて下さい」と短く言い、殺気立った様子で応戦した。
ナマエは竦む体を叱咤して、身を屈めたまま手近な物陰に避難しようと移動する。
そろりと足を動かした時に、勢いよく体が引っ張り上げられた。
ナマエはあっという間に、襲撃者の仲間だと思われる男に担ぎ上げられてしまった。
男はそのまま全速力で走り去っていく。
「ナマエさん!」
視界の端でそれを見つけた谷垣は、男を追おうとするが襲撃者はそれを許さない。
谷垣が焦りの表情を浮かべ、走り去る男の背中が角を曲がって見えなくなった頃に、鋭い銃声が響き渡った。
襲撃者がぐしゃりと地面に崩れ落ちる。
発砲音がした建物の方を見上げると、尾形が降りてくるところだった。
「一等卒、早く追え!!ちらっと馬車が見えた。逃げられるぞ!」
谷垣は上等兵の声に、脇目も振らず走り出した。
…………………………
荒い息で尾形の元に戻ってきた谷垣は、ナマエを見失ったことを報告した。
尾形はそれを無表情で聞いた後、遠慮なく溜息をつく。
「銃声がしたから来てみたらこれだ。
貴様は小娘のお守りすらできんのか?谷垣一等卒…」
「申し訳ありません」
谷垣は奥歯を噛み締めて謝罪した。
尾形は片手を軍帽にあてがうようにしてから、気だるい調子で口を開く。
「面倒だな…あの女は鶴見中尉殿のお気に入りだ。
報告はお前が行けよ。俺は追跡する」
「はい」
谷垣は自分の失態を責め、苦々しげに頷いて兵舎に向かう。
尾形は馬車が向かって行った方向へ、足早に歩いて行った。