第4章
名前変換
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仕事がひと段落ついたところで、鶴見中尉はナマエの家を訪ねることにした。
土産に串団子を買って、月島が報告して来た住所に向かって歩き始める。
彼女のことを知ったのは、投資を募るため資産家の情報を洗っている時だった。
妾が産んだたった一人の子が資産を受け継ぐとなれば、鶴見中尉としては当たってみない手はなかったので、とりあえずその「子ども」を見に行くことにしたのだった。
働いているという料亭で、食事がてら店内を観察していると、情報と一致する女性がせっせと働いていた。
良い雰囲気を持ったひとだ、とは思ったが、ただそれだけだった。
自分の計画の為に一つ一つ駒を進めていく。
彼女に言ったこと、したことは、彼にとって全て予定されたものに過ぎない。
ただ一つ、想定していなかったことといえば、ナマエの自分に対する態度だった。
自分に依存させるように仕向けていたのは事実だが、彼女の心の全てまで手に入れようとは考えていなかった。
ああいう感情を間近で見るのは久々の事だった。
彼女が生活面、精神面での安定を欲しているのは手に取るように分かる。
特に精神面では、父親の不在や早く母と死に別れた事で積もり積もったものがあるだろう。
年齢の割に落ち着いていて、どこか影がある雰囲気は、そういった精神面の証明のように思われた。
人の心の隙間を見つけて欲しいものを与えることは、彼には造作もないことだ。
だからその「欲しいもの」が、どうやら自分の関心だと察した時には少々驚いたが、うら若い女性の考える事だ。
身近に厚意を向けてくれる異性を意識するのは、無理ない話かもしれない。
それがかりそめの厚意であったとしても。
何にせよ、今の状況は鶴見中尉にとって有利であった。
寂しさから愛を求める女性を囲う趣味はないが、彼女の関心を引いておくことは必要である。
そう考えているうちに、目当ての家が見えてきた。
………………………………………
「元気そうで良かったよ、ナマエさん」
鶴見中尉とナマエは、座卓を挟んで向かい合って座っている。
中央には鶴見中尉のお持たせのみたらし団子があって、二人で食べた。
「鶴見様も、お元気そうで何よりです」
少し緊張した面持ちで話す彼女に、鶴見中尉は柔らかく微笑んでみせる。
「ナマエさん、もう鶴見様、というのはやめようか。
私はもうお客さんではないし、鶴見さんでいいよ」
「そうでしたね、私ったらつい癖で…」
それから少し頬を染めて、鶴見さん、と呟くように口にする。
鶴見中尉は、妙な満足感を感じた。
確実に、ナマエが手に落ちてくる感覚。それは、悪いものではなかった。
「ふふ、それでいい。…生活で、何か困ったことはないかね?」
「はい、たまに変な人がうろうろしている事はありますけれど、北鎮部隊の方の姿を見ると、何もせず居なくなります」
鶴見中尉は満足そうに頷いた。
彼女の周りには良からぬ連中が、遺産を嗅ぎつけてやって来ているが、第七師団に敵うはずもない。
「それは良かった。何か困ったことがあれば、いつでも私を訪ねなさい。私たちはご近所さんだからね」
「はい、鶴見さん」
ナマエは嬉しさが滲み出るような笑顔で、小さく頷いた。
その様子を鶴見中尉は観察してみる。
彼女の中に、計算や目論見は一切感じられない。
その純真な心を、これからどう扱っていこうかと、考えを巡らせた。