第3章
名前変換
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案内された先は、普段は使われることがないのか、人気のない陸軍の施設のようだった。
意外な場所に到着したので、ナマエは少々訝しげに辺りを見回すが、月島は迷いなく入っていく。
木製のドアを開けて、応接室に入ると長机と椅子が配置されていて、几帳面そうな印象の男が座っている。
彼はナマエが入って来ると立ち上がり、一礼した。
「ナマエ様、お待ちしておりました。どうぞおかけ下さい」
「は、はい…」
促されるまま椅子に腰を下ろすと、彼らも着席した。
月島は背後に立ったままだ。
「私は××家の財産管理を担当しておりました。
旦那様の御遺言で、貴女を探しておりましたが…鶴見様のご協力で、無事に見つけることができました」
「貴女には遺産を全て受け取って頂きます」
ナマエは開いた口が塞がらなかった。
そんな彼女をよそに、会社や土地は全て現金化され銀行に預けられていることが説明される。
「このお金があなたの幸せの助けになれば、というのが最後のお言葉でした」
そう言いながら、遺言状が手渡される。
確かに、そのような内容が書いたあるが、彼女はずっと気になっていたことを口にした。
「…お話はわかりました。ですけれど、私は本当に血の繋がりがある娘なのでしょうか?
その、父とは一度もあったことがございませんし、鶴見様を疑うわけではありませんけれど、赤の他人という事もあるのではないでしょうか」
「信じられないのはごもっともです。旦那様は二つ実の娘の証明になるものを明言されていまして。
まず、舶来品のロケットペンダントです」
ナマエはごくりと生唾を飲み込む。
説明を聞くと、意匠や寸法など、自分が持っているものと一致する。
「あと一つですが…痣です」
「痣、ですか…」
「背中に一つ、花のような痣があるはずだと」
ナマエは押し黙った。
彼女の背に、小さい花のような痣は確かにある。
今まで誰にもそれを見せたことなどないし、花のような痣なんて誰にでもあるようなものでも無いだろう。
男は言いづらそうに続けた。
「ご婦人に、このような事を申しては大変失礼でありますが、その痣を確認させて頂きたいのです。
ペンダントもお持ちでしたら」
ナマエはそっと机の上にペンダントを差し出すと、中も開けて見せた。
男は納得したような表情になる。
「確かにこの品は旦那様のものですし、写真に写った方はご本人です。ずっと持たれていたんですね」
「はい、母はお守りのように肌身離さず持っておりました」
そうですか、と男は神妙に頷いたあと、なんとも気まずい空気が流れる。
背中の痣を確認するには、着物を脱がなくてはならない。
初対面の見知らぬ男に肌を晒すのは、この上ない辱めである。
しかし、確認するまではこの場を離れることが出来ないであろうことは想像がつく。
重たい沈黙を破ったのは、ドアのガチャリと開く音だった。
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