第1章
名前変換
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「もし、もし」
話しかけられている事に気がつくのに、時間がかった。
机の上で布巾をせわしなく動かしていた手を止めて、顔を上げる。
「はい、何でしょうか」
「きみ、仕事が丁寧だね。無駄がなくて清々しい」
ナマエは小樽にある料亭で女中の仕事をしている。
彼女に話しかけたのは、昼食を終えた奇妙な出で立ちの軍人さんだった。
傷があるのか、額を琺瑯のようなもので覆っていて、少し不気味な印象だ。
この辺りで軍人さんといえば、北鎮部隊である。
彼の傷は、もしかしたら日露戦争で受けたものなのかもしれない。
ナマエは軍人さんの言葉に微かに笑うと頭を下げた。
「そして可憐だ」
ナマエは驚いて、軍人さんの顏をまじまじと見る。
頬杖をついて微笑む顔は、不気味な出で立ちとは裏腹に、柔らかい表情だ。
女としてはそんな事を言われれば、相手が見ず知らずの不気味な軍人さんだとしても、やはり嬉しいものだ。
顔が火照るのを感じて、軍人さんから逃げるように目を伏せた。
「いや、初めて話す御婦人にとんだ失礼を。お許し下さい」
彼は席を立つと、颯爽とお店を後にする。
また来るよ、と言い残して。
♢
軍人さんは宣言通り、よくやって来た。
その中でナマエが知ったのは、彼は陸軍第七師団の中尉で名前は鶴見、ということくらいだった。
彼はいつも食事のあと、ナマエに二言三言声をかけるので、顔を見れば少し雑談するようになった。
「あの、鶴見様。」
「なんだい、ナマエさん」
「いつも来てくださいますね。どうしてこんなに通って下さるのですか?お店としては、嬉しいですけれど」
北鎮部隊の中尉殿が常連となれば、お店も箔がつくということで、ナマエはよく給仕係を頼まれるようになっていた。
裏の重労働をするよりよほど体も楽で、ナマエとしては有難い。
鶴見中尉はナマエの質問には答えず、お店の奥を見やって声をかける。
「もし、ご主人。今夜座敷の個室は空いていますかな。給仕を彼女に頼みたいのだが」
店の主人が慌ただしく出てきて、もちろんですとも、離れの座敷が空いております、と何やら意味ありげに返事をしている。
「では今夜お邪魔するとしよう。ナマエさん、お座敷で待っているよ」
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話しかけられている事に気がつくのに、時間がかった。
机の上で布巾をせわしなく動かしていた手を止めて、顔を上げる。
「はい、何でしょうか」
「きみ、仕事が丁寧だね。無駄がなくて清々しい」
ナマエは小樽にある料亭で女中の仕事をしている。
彼女に話しかけたのは、昼食を終えた奇妙な出で立ちの軍人さんだった。
傷があるのか、額を琺瑯のようなもので覆っていて、少し不気味な印象だ。
この辺りで軍人さんといえば、北鎮部隊である。
彼の傷は、もしかしたら日露戦争で受けたものなのかもしれない。
ナマエは軍人さんの言葉に微かに笑うと頭を下げた。
「そして可憐だ」
ナマエは驚いて、軍人さんの顏をまじまじと見る。
頬杖をついて微笑む顔は、不気味な出で立ちとは裏腹に、柔らかい表情だ。
女としてはそんな事を言われれば、相手が見ず知らずの不気味な軍人さんだとしても、やはり嬉しいものだ。
顔が火照るのを感じて、軍人さんから逃げるように目を伏せた。
「いや、初めて話す御婦人にとんだ失礼を。お許し下さい」
彼は席を立つと、颯爽とお店を後にする。
また来るよ、と言い残して。
♢
軍人さんは宣言通り、よくやって来た。
その中でナマエが知ったのは、彼は陸軍第七師団の中尉で名前は鶴見、ということくらいだった。
彼はいつも食事のあと、ナマエに二言三言声をかけるので、顔を見れば少し雑談するようになった。
「あの、鶴見様。」
「なんだい、ナマエさん」
「いつも来てくださいますね。どうしてこんなに通って下さるのですか?お店としては、嬉しいですけれど」
北鎮部隊の中尉殿が常連となれば、お店も箔がつくということで、ナマエはよく給仕係を頼まれるようになっていた。
裏の重労働をするよりよほど体も楽で、ナマエとしては有難い。
鶴見中尉はナマエの質問には答えず、お店の奥を見やって声をかける。
「もし、ご主人。今夜座敷の個室は空いていますかな。給仕を彼女に頼みたいのだが」
店の主人が慌ただしく出てきて、もちろんですとも、離れの座敷が空いております、と何やら意味ありげに返事をしている。
「では今夜お邪魔するとしよう。ナマエさん、お座敷で待っているよ」
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