第八の罪、その名は
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第一章:鋼の少年と偽りの監視者
4. 巡る季節と、小さなたより
セントラルを出てから、春が過ぎ、夏が通り抜け、街の街路樹が鮮やかな朱や黄色に染まる秋を迎えていた。
1年近くの歳月を共に過ごす中で、最初はガチガチに緊張していたエイミーも、エルリック兄弟との旅のペースに少しずつ馴染んでいた。
「おいエイミー、ぼさっとしてっと置いてくぞ!」
「あ……! 待ってください、エドワードさん!」
ホームに滑り込んできた列車に向かって走るエドの後ろを、エイミーは必死に追いかける。
駆け寄ってきたエイミーの息が白く弾けるのを見て、エドは「たく……」と呆れたように言いながらも、自分の首に巻いていた赤いマフラーを無造作に解き、エイミーの首元にグルグルと巻きつけた。
「へ……? エ、エドワードさん……?」
突然のことに目を白黒させるエイミーに、エドは照れくさそうにそっぽを向いた。
「寒そうにしてんのが視界に入ると気になってしゃあねぇんだよ! 風邪でも引かれたら足手まといになるだろ」
「でも、これじゃエドワードさんが寒く……」
「俺は平気だっ! 鍛え方が違うんだよ!」
強がるエドの横で、アルフォンスがクスクスと笑いを漏らす。
「エイミーさん、素直にもらっておきなよ。兄さん、昨日エイミーさんがくしゃみしたのずっと気にしてて、今朝からずっとソワソワしてたんだから」
「ア、アル! 余計なこと言うなっ!!」
真っ赤になって怒鳴るエドだったが、マフラーに顔を埋めたエイミーからふわりと漂う温もりに、どこか安心したように表情を緩めた。
(エドワードさんの……匂い……すごく温かい……)
マフラーのウール越しに伝わる体温は、冷たい地下で過ごしてきたエイミーの心を、じわりと溶かしていく。
最初は「大総統からの押し付けのガキ」として警戒され、エイミー自身も「監視役」という罪悪感から一定の距離を置こうとしていた。
だが、どんな時も自分を一人の人間として扱い、不器用ながらも体調や様子を気遣ってくれるエドの姿に、いつしか彼女の心の中にある恐怖は「この人を絶対に失いたくない」という深い愛着へと変わっていた。
そしてエドにとってもまた、純粋な瞳で自分を信じ、懸命に寄り添おうとするエイミーは、単なる「同行者」を超えて、絶対に守り抜くべき大切な存在になりつつあった。
◇
その日の夜、駅近くの食堂で夕食を終えた後、エイミーはそっと二人に向き直った。
「あの……エドワードさん、アルフォンスさん」
「ん? なんだ?」
「……いつも、本当にありがとうございます。私、何もできなくて……足引っ張ってばかりなのに、こんなに優しくしていただいて……」
深々と頭を下げたエイミーに、エドは一瞬驚いたように目を丸くし、それからフッと優しく口元を緩めた。
「バカ言え。お前がいるから、殺伐としがちな旅も救われてんだよ。……それに」
エドは少し言葉を詰まらせ、手元のみかんの皮をいじりながら照れくさそうに呟いた。
「……お前が笑ってっと、なんか……旅が楽しくなるんだよ」
「……え……?」
思いがけない言葉に、エイミーの胸が大きく跳ねる。
「だから、遠慮なんかしてんじゃねぇ。お前はもう……俺たちの仲間なんだからさ」
ぶっきらぼうだが、そこには揺るぎない確信と温もりが込められていた。
(仲間……)
その言葉が、偽りの名である「エイミー」の胸に深く刻まれる。
夜になれば相変わらず一人で部屋に入り、震える手で報告の電話をかける現実は変わらない。
セントラルの闇も、お父様たちの思惑も、消えてなくなったわけではない。
けれど——エドがくれたこの言葉と温もりがある限り、どれほど深い暗闇に放り込まれても生きていける。
そう確信した秋の夜だった。
