第八の罪、その名は
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3.不器用な日常と小さな尊敬
旅に出てから数週間が過ぎた頃。
東方へと向かう列車に乗り込む前、立ち寄った町での一幕だった。
町外れの路上で、小さな男の子が泣きじゃくっていた。手元を見ると、大切にしていたらしい木製のカラクリおもちゃのギアが割れ、粉々になっている。
「困ったなぁ……。これは特殊な構造だから、職人さんに頼まないと直せないんだよ」
通りすがりの大人がなだめても、男の子は涙を拭おうとしない。
その光景を横目で見ていたエドは、ハァと深く溜め息をつくと、ポケットに両手を突っ込んだまま歩み寄った。
「おい、泣いてんじゃねぇよバカ。貸してみろ」
エドはしゃがみ込むと、壊れた木製のおもちゃを手にとった。
地面にさっと指で円を描き、手をかざす——バチバチと青白い錬成陣の光が弾けた次の瞬間、割れていた木片が綺麗に結合し、ギアがカチリと音を立てて噛み合った。
「ほらよ。元通りだ」
「わぁぁ! すごい! お兄ちゃん錬金術師なの!? ありがとう!」
目を輝かせて喜ぶ子供の頭をがしがしと撫でてやり、エドは何でもないことのように立ち上がった。
その一連の鮮やかな手際を、後ろで見ていたエイミーは思わず両手を胸の前でギュッと握りしめていた。
「す、すごいです……エドワードさん……っ!」
「あん? これくらい木材の構成要素を繋ぎ直しただけだろ。朝飯前だ」
「それだけじゃないです! 壊れた原因のギアの噛み合わせまで一瞬で見抜いて修復するなんて……知識も判断力も、本当にすごいです!」
パァッと花が咲いたように顔を輝かせ、目をキラキラさせながら純粋な尊敬の眼差しを向けてくるエイミー。
お世辞も裏もなく、心の底から自分に感動している少女の反応に、エドは「ぶっ」と一瞬息を詰まらせた。
普段、周りの大人や軍の奴らからは「暴れ馬」だの「破壊屋」だの言われ、旅の相棒であるアルやウィンリィからも小言ばかり言われているエドである。
こんな風にまっすぐに、100%の純度で褒めちぎられた経験などほとんどない。
「ふ、ふんっ!! 当たり前だろ! 俺を誰だと思ってやがる、史上最年少の国家錬金術師様だぞ!」
そう言ってドヤ顔で胸を張り、鼻高々になるエド。
だが、照れ隠しを隠しきれず、耳の先端がほんのり赤くなっている。
「それにね、エイミーさん。兄さんは錬金術だけじゃないんだよ。機械鎧(オートメイル)の簡単な手入れや微調整だって自分でできちゃうんだから」
横からアルフォンスが楽しそうに口を挟むと、エイミーはさらに驚いたように息を呑んだ。
「えぇっ!? 機械の手入れまで一人で……!? そんな難しいことまで理解してこなせるなんて、エドワードさんは本当に天才なんですね……っ!」
「お、おいアル! 余計なこと言うんじゃねぇ! ……たく、お前は大袈裟なんだよエイミー! 機械鎧のネジの締め直しなんか、旅してりゃ身につくただの生活知恵だっ!」
勢いよく怒鳴り散らすエドだったが、その口元は完全にニヤけるのを我慢しようとして引きつっていた。不機嫌そうなフリをしながらも、あからさまに満更でもないご機嫌な様子で歩き出すエド。
(……すごく誇らしそう……)
照れ隠しに前を走っていくエドの少し誇らしげな背中を見つめながら、エイミーは小さく胸を撫で下ろした。
地下の暗闇でプライドから教え込まれた知識は、すべて人を脅かし、監視し、命を奪うための冷たいものだった。
けれど、エドワード・エルリックが振るう知識と力は、誰かを笑顔にし、命を救うためにある。
(この人の側にいられることが……すごく、誇らしい……)
「監視役」という偽りの肩書きの裏で、エイミーの心の中の「エドへの純粋な憧れと敬意」は、日に日に揺るぎないものへと育っていくのだった。
3.不器用な日常と小さな尊敬
旅に出てから数週間が過ぎた頃。
東方へと向かう列車に乗り込む前、立ち寄った町での一幕だった。
町外れの路上で、小さな男の子が泣きじゃくっていた。手元を見ると、大切にしていたらしい木製のカラクリおもちゃのギアが割れ、粉々になっている。
「困ったなぁ……。これは特殊な構造だから、職人さんに頼まないと直せないんだよ」
通りすがりの大人がなだめても、男の子は涙を拭おうとしない。
その光景を横目で見ていたエドは、ハァと深く溜め息をつくと、ポケットに両手を突っ込んだまま歩み寄った。
「おい、泣いてんじゃねぇよバカ。貸してみろ」
エドはしゃがみ込むと、壊れた木製のおもちゃを手にとった。
地面にさっと指で円を描き、手をかざす——バチバチと青白い錬成陣の光が弾けた次の瞬間、割れていた木片が綺麗に結合し、ギアがカチリと音を立てて噛み合った。
「ほらよ。元通りだ」
「わぁぁ! すごい! お兄ちゃん錬金術師なの!? ありがとう!」
目を輝かせて喜ぶ子供の頭をがしがしと撫でてやり、エドは何でもないことのように立ち上がった。
その一連の鮮やかな手際を、後ろで見ていたエイミーは思わず両手を胸の前でギュッと握りしめていた。
「す、すごいです……エドワードさん……っ!」
「あん? これくらい木材の構成要素を繋ぎ直しただけだろ。朝飯前だ」
「それだけじゃないです! 壊れた原因のギアの噛み合わせまで一瞬で見抜いて修復するなんて……知識も判断力も、本当にすごいです!」
パァッと花が咲いたように顔を輝かせ、目をキラキラさせながら純粋な尊敬の眼差しを向けてくるエイミー。
お世辞も裏もなく、心の底から自分に感動している少女の反応に、エドは「ぶっ」と一瞬息を詰まらせた。
普段、周りの大人や軍の奴らからは「暴れ馬」だの「破壊屋」だの言われ、旅の相棒であるアルやウィンリィからも小言ばかり言われているエドである。
こんな風にまっすぐに、100%の純度で褒めちぎられた経験などほとんどない。
「ふ、ふんっ!! 当たり前だろ! 俺を誰だと思ってやがる、史上最年少の国家錬金術師様だぞ!」
そう言ってドヤ顔で胸を張り、鼻高々になるエド。
だが、照れ隠しを隠しきれず、耳の先端がほんのり赤くなっている。
「それにね、エイミーさん。兄さんは錬金術だけじゃないんだよ。機械鎧(オートメイル)の簡単な手入れや微調整だって自分でできちゃうんだから」
横からアルフォンスが楽しそうに口を挟むと、エイミーはさらに驚いたように息を呑んだ。
「えぇっ!? 機械の手入れまで一人で……!? そんな難しいことまで理解してこなせるなんて、エドワードさんは本当に天才なんですね……っ!」
「お、おいアル! 余計なこと言うんじゃねぇ! ……たく、お前は大袈裟なんだよエイミー! 機械鎧のネジの締め直しなんか、旅してりゃ身につくただの生活知恵だっ!」
勢いよく怒鳴り散らすエドだったが、その口元は完全にニヤけるのを我慢しようとして引きつっていた。不機嫌そうなフリをしながらも、あからさまに満更でもないご機嫌な様子で歩き出すエド。
(……すごく誇らしそう……)
照れ隠しに前を走っていくエドの少し誇らしげな背中を見つめながら、エイミーは小さく胸を撫で下ろした。
地下の暗闇でプライドから教え込まれた知識は、すべて人を脅かし、監視し、命を奪うための冷たいものだった。
けれど、エドワード・エルリックが振るう知識と力は、誰かを笑顔にし、命を救うためにある。
(この人の側にいられることが……すごく、誇らしい……)
「監視役」という偽りの肩書きの裏で、エイミーの心の中の「エドへの純粋な憧れと敬意」は、日に日に揺るぎないものへと育っていくのだった。
