第八の罪、その名は
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第二章:交錯する影と暴かれる真実
9. 強欲の誇りと新たな出会い
デビルズネストの崩壊と鎧の中でのマーテルの死。
そのあまりにも大きなショックは、アルフォンスの魂の底に眠っていた「真理の扉」の記憶を呼び覚まさせた。
「兄さん……僕、思い出しかけてる……! 人体錬成の時に見えた『扉』の向こうの記憶を……自分の身体を取り戻すための、本当の手がかりを……!」
命が失われた悲しみの中で掴んだわずかな希望の光に、エドワードもまた強く拳を握りしめた。
その傍らで、エイミーは自分の両手をじっと見つめていた。
大総統ラースの前に何もできず膝をついた恐怖の感触。だが、胸の奥にはグリードが残した「自分の欲望(願い)を否定するな」という言葉が熱く残り続けていた。
(私は……もう逃げない。どんなに恐ろしい目にあっても……エドワードさんたちの隣にいるって決めたんだから……っ)
◇
セントラル地下深くの暗闇。
お父様のもとへ引き立てられたグリードは、大鍋に満たされた激しく煮えたぎる赤き液体(賢者の石の精製液)の上につるされていた。
周囲で見下ろすのは、ラストやエンヴィーたちホムンクルス。
「我が肉体に還れ、強欲の息子よ」
お父様の冷徹な言葉に対し、グリードは鼻で笑い、集まった兄妹たちへと視線を向けた。特に、ニヤニヤと蔑みの笑みを浮かべるエンヴィーに向かって、口角を吊り上げる。
「……へっ、てめぇら『出来損ない』だと見下して、散々痛めつけてきたらしいじゃねぇか……あの【臆病】のエイミーをよ」
「……ああん? なんだよ急に」
不機嫌そうに眉をひそめるエンヴィー。グリードはニヤリと不敵な笑みを深めた。
「あいつはな、ガタガタ震えて怯えながらも……ラースの前に立ち塞がって、命懸けで俺様を守ろうとしたぜ? 自分の本当の願いのために立ち上がったんだ。……てめぇらみたいにクソ親父の言いなりになってる人形どもより、よっぽど上等な『強欲』持ってやがる……!」
「ちっ……! 余計な口叩いてんじゃねぇよ!!」
激昂するエンヴィーを置き去りにし、グリードは煮えたぎる釜へと身を躍らせた。
「俺様は最後まで『強欲』に生きてやったのさ……! さらばだ、人形ども!!」
灼熱の液体の中へ沈み、分子レベルで解体されていくグリード。
その最期に脳裏に浮かんだのは、大総統の威圧に怯えながらも、両手を広げて自分とアルフォンスを庇おうとした、あの小さな妹の姿だった。
◇
ダブリスでグリードを守れなかった事に心を痛めたがらも「自分の意思で大切な人たちを守る」と心に誓ったエイミー。
アルフォンスが「真理の扉」の記憶を取り戻すきっかけを得た二人は、壊れたオートメイルの整備のため、再びラッシュバレーへと向かった。
そこで彼らを待っていたのは——賑やかな街の喧騒と、異国から来た奇妙な訪問者たちだった。
「ひ、ひもじい……誰か、メシをくれぇ……」
道端で空腹のあまり行き倒れていた、東のシン国からやってきた皇子——リン・ヤオ。
そして彼を影から護衛する仮面の従者、ランファンとフー。
「 大丈夫ですか?」
慌てるエイミーと、図々しく料理を平らげて「不老不死の手がかり」を求めてエドにつきまとうリン。
一癖も二癖もあるシン国の面々に振り回されながらも、エイミーはどこか憎めないリンの自由さに驚かされる。
そして、修行を重ねてさらに技師として逞しくなったウィンリィと合流。
エドのオートメイルのメンテナンスを終えた一行は、リンたちも伴って、新たな目的地であるセントラルへと向かう列車に乗り込むのだった。
「セントラルに行けば、賢者の石や不老不死の手がかりがあるんだろ? 」
無邪気に笑うリンの存在が、重い課題を抱えるエドたちの旅路に新しい風を吹き込む。
だが——セントラルで彼らを待っているのが、自分たちを温かく迎えてくれた「マース・ヒューズ中佐の残酷すぎる死」であるという衝撃の真実を、まだ誰も知る由もなかったのだった。
