その手を掴んで明日へ行く
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第二話:約束の破綻と、命の対価
吹雪の舞うブリッグズの炭鉱跡。
爆風と崩落が吹き荒れる極限の戦場の中で、その不条理は一瞬にして訪れた。
キンブリーの放った錬金術による爆縮。跳ね飛んだ落石と破片を避けようと踏み込んだエドワードの足元が砕け、体制が崩れたその瞬間——。
ガキィィィンッッ!!!
「ガッ……は……ぁっ……!?」
ルイの視界に飛び込んできたのは、凄惨な現実だった。
崩落で露出した鋭い鉄柱が、エドワードの腹部を斜めに深く貫いていたのだ。床は一瞬にして彼の鮮血で赤く染まり、琥珀色の瞳から急速に光が奪われていく。
「エドワード君——ッ!!!!」
ルイは弾かれたように駆け寄ると、血に濡れた彼の身体を壊れ物を包むように抱きしめた。
「エドワード君! しっかりして! 目を開けて、エドワード君ッ!!」
「ルイ……。が……はっ……に、逃げ……ろ……」
口から血を吐き出しながら、それでもなお自分を心配して弱々しく手を伸ばしてくるエドワード。
その腹部を貫く鉄柱と絶え間なく流れ出る血は、彼の命が残すところあと数分も持たないことを冷酷に示していた。
二度と【脈動】は使わない——セントラルのホテルで、涙を流す彼と固く交わしたあの温かな約束。それが脳裏を駆け巡る。
(約束を破れば……彼を傷つける。彼を苦しめてしまう……! ……だけど……っ!)
約束を守って彼が死ぬのを見届けるくらいなら、どんな罪でも背負う。どんな地獄へでも落ちる。
自分の命など、彼の眩しい生に比べればあまりにも安すぎるのだ。
「ごめんなさい……エドワード君。……約束、破るわね」
「やめ……ろ……ルイ……ッ!!」
ルイは迷うことなく、自らの腕を刃で深く刻んだ。
鮮血が冷たい床に散り、封印していた異端の錬金術——【脈動】が全解放される。
「【脈動】——ッ!!!」
眩い紫赤色の錬成光が二人を包み込む。
エドワードの致命傷——腹部を貫く鉄柱を抜き去り、内臓と肉体を修復するためには、並大抵の生命力では足りない。ルイは己の体内に残された「すべての寿命」を惜しげもなく、力任せにエドワードの身体へと注ぎ込んだ。
「くっ……あぁぁぁぁぁッッ!!!!」
絶叫とともに、ルイの全身から削り取られた強烈な生命力がエドワードの傷口へと怒涛のように流れ込む。凄惨な傷が急速に肉芽を盛り上げて塞がり、彼の鼓動が力強く打ち鳴らされていく。
それと引き換えに、ルイの肌は瞬時に血の気を失い、アメジスト色の瞳から光が消えていった。
「……よかった……。生きて……エドワード、君……」
傷が完全に治り、荒い息をつきながら助かったエドワードの顔を見つめ、ルイはホッと安堵の笑みを浮かべた。
そしてそのまま、糸が切れた人形のようにエドワードの胸の上へと倒れ込み、深まる闇の中へと意識を手放したのだった。
◇
「……ルイ……!? ルイッ!!」
傷が完全に塞がり、動けるようになったエドワードは、自分の胸の上でぐったりと倒れたルイを必死で抱き起こした。
しかし、彼女の身体は冷たく、指先ひとつ動かない。
「なんで……なんで使ったんだよッ!! もう使わないって……約束しただろッ!?」
エドワードの目から大粒の涙が溢れ出す。
命のストックをすべて使い果たし、呼吸さえ消え入りそうなルイを抱きしめながら、エドワードは己の無力さに激しい涙を流した。
「おい、鋼の! 泣いてる場合かッ! 早くここを抜け出すぞ!」
そこへ駆け寄ってきたのは、先ほどの戦闘で重傷を負い、エドワードの錬金術によって命を救われたキンブリーの部下——キメラのハインケルとダリウスだった。
「お前ら……」
「俺たちを助けてくれた恩だ。それに、そっちのお嬢さんを早く休ませねぇと本当に死んじまうぞ!」
エドワードは涙を拭うと、冷たくなったルイの身体を背中にしっかりと背負い直した。
「……行くぞ。ルイは……俺が絶対に死なせねぇッ!」
キンブリーの手を逃れ、傷ついたエドワード、意識を失ったルイ、そして二人のキメラ——四人は極寒の炭鉱を後にし、過酷な逃避行へと足を踏み出すのだった。
第二話:約束の破綻と、命の対価
吹雪の舞うブリッグズの炭鉱跡。
爆風と崩落が吹き荒れる極限の戦場の中で、その不条理は一瞬にして訪れた。
キンブリーの放った錬金術による爆縮。跳ね飛んだ落石と破片を避けようと踏み込んだエドワードの足元が砕け、体制が崩れたその瞬間——。
ガキィィィンッッ!!!
「ガッ……は……ぁっ……!?」
ルイの視界に飛び込んできたのは、凄惨な現実だった。
崩落で露出した鋭い鉄柱が、エドワードの腹部を斜めに深く貫いていたのだ。床は一瞬にして彼の鮮血で赤く染まり、琥珀色の瞳から急速に光が奪われていく。
「エドワード君——ッ!!!!」
ルイは弾かれたように駆け寄ると、血に濡れた彼の身体を壊れ物を包むように抱きしめた。
「エドワード君! しっかりして! 目を開けて、エドワード君ッ!!」
「ルイ……。が……はっ……に、逃げ……ろ……」
口から血を吐き出しながら、それでもなお自分を心配して弱々しく手を伸ばしてくるエドワード。
その腹部を貫く鉄柱と絶え間なく流れ出る血は、彼の命が残すところあと数分も持たないことを冷酷に示していた。
二度と【脈動】は使わない——セントラルのホテルで、涙を流す彼と固く交わしたあの温かな約束。それが脳裏を駆け巡る。
(約束を破れば……彼を傷つける。彼を苦しめてしまう……! ……だけど……っ!)
約束を守って彼が死ぬのを見届けるくらいなら、どんな罪でも背負う。どんな地獄へでも落ちる。
自分の命など、彼の眩しい生に比べればあまりにも安すぎるのだ。
「ごめんなさい……エドワード君。……約束、破るわね」
「やめ……ろ……ルイ……ッ!!」
ルイは迷うことなく、自らの腕を刃で深く刻んだ。
鮮血が冷たい床に散り、封印していた異端の錬金術——【脈動】が全解放される。
「【脈動】——ッ!!!」
眩い紫赤色の錬成光が二人を包み込む。
エドワードの致命傷——腹部を貫く鉄柱を抜き去り、内臓と肉体を修復するためには、並大抵の生命力では足りない。ルイは己の体内に残された「すべての寿命」を惜しげもなく、力任せにエドワードの身体へと注ぎ込んだ。
「くっ……あぁぁぁぁぁッッ!!!!」
絶叫とともに、ルイの全身から削り取られた強烈な生命力がエドワードの傷口へと怒涛のように流れ込む。凄惨な傷が急速に肉芽を盛り上げて塞がり、彼の鼓動が力強く打ち鳴らされていく。
それと引き換えに、ルイの肌は瞬時に血の気を失い、アメジスト色の瞳から光が消えていった。
「……よかった……。生きて……エドワード、君……」
傷が完全に治り、荒い息をつきながら助かったエドワードの顔を見つめ、ルイはホッと安堵の笑みを浮かべた。
そしてそのまま、糸が切れた人形のようにエドワードの胸の上へと倒れ込み、深まる闇の中へと意識を手放したのだった。
◇
「……ルイ……!? ルイッ!!」
傷が完全に塞がり、動けるようになったエドワードは、自分の胸の上でぐったりと倒れたルイを必死で抱き起こした。
しかし、彼女の身体は冷たく、指先ひとつ動かない。
「なんで……なんで使ったんだよッ!! もう使わないって……約束しただろッ!?」
エドワードの目から大粒の涙が溢れ出す。
命のストックをすべて使い果たし、呼吸さえ消え入りそうなルイを抱きしめながら、エドワードは己の無力さに激しい涙を流した。
「おい、鋼の! 泣いてる場合かッ! 早くここを抜け出すぞ!」
そこへ駆け寄ってきたのは、先ほどの戦闘で重傷を負い、エドワードの錬金術によって命を救われたキンブリーの部下——キメラのハインケルとダリウスだった。
「お前ら……」
「俺たちを助けてくれた恩だ。それに、そっちのお嬢さんを早く休ませねぇと本当に死んじまうぞ!」
エドワードは涙を拭うと、冷たくなったルイの身体を背中にしっかりと背負い直した。
「……行くぞ。ルイは……俺が絶対に死なせねぇッ!」
キンブリーの手を逃れ、傷ついたエドワード、意識を失ったルイ、そして二人のキメラ——四人は極寒の炭鉱を後にし、過酷な逃避行へと足を踏み出すのだった。
